⑩突然の別れ
その日もいつもと変わらない穏やかな朝を迎えるはずだった
『ドンドンッ!!』
だが玄関の扉をけたたましく叩く音がその静寂を打ち破る
「扉を強く叩くのはやめて下さい、どなたですか…?」
ルカは警戒し扉を開かずに聞く
「いいから早く開けろ!国家命令だ、速やかに従い王都へ向かい魔道具の開発に従事しろ!!」
更に扉を壊す勢いで叩いてきたので堪らずに開けた
「静かにして下さい。僕は魔道具師を辞めた人間です、ですからもう関係ないはずです…」
「それは認められない、国中の魔道具師が遵守しなければならない。引退した者、辞職した者もその対象となっている…従わなければ処罰されるぞ」
なんだこの横暴なやり方は…
国王はとち狂ったのか…
しかしこれ以上拒否すればエリスに危害が及ぶかもしれない、それだけは避けたい。
「わかりました…ですが介護の手が必要な者がおりますので他の者に頼んでからでもいいでしょうか。無事終わりましたら必ずそちらへ参りますから少し時間を頂けませんか?」
「仕方ない、承知した…だが逃走など考えるなよ?どうなるかわかっているな」
「はい、勿論…逃走など決して致しません」
「待てる時間は夕刻までだ、それ以降は逃亡したものと思うから気を付けろ」
そう言うと来た時と同様に荒々しく帰って行った。
***
急いでシャノンの家へ向かう
「すみません!ルカです、誰かいますか?」
するとすぐに扉が開きシャノンが出てきた
「ルカどうしたの?何かあったの?」
「ええ、突然家に国からの使者が来て王都へ向かえと…」
「え!?それは何故??どういう事なのよ」
「今国中の魔道具師が王都に集められているそうです、隣国との戦争の危機が迫っているようで自国が有利になるような魔道具を開発しろと王命が下されました」
「な、なによそれ…何て勝手な!!!」
「僕もそう思いますが王命といわれたら…下手に無視すればエリスにまで危機が及ぶかもしれないのでとにかく1度王都には行かねばなりません」
それを聞いてシャノンは顔を歪めた
「確かに…行かないとなにされるかわからないわよね」
「王都には行きますが戦争のための魔道具は絶対に作りません」
「え…?でもそんな事許されないでしょう??」
「そうかもしれませんが、僕はエリスがいたから魔道具師になったんです。そのエリスを悲しませるような物は作りたくないんです」
「その気持ちはわかるけど…」
「とにかく、王都へ行き元魔道具師の僕にはもう作れないとの旨を伝えて来ます。承諾してもらえるまで何度でも…そして必ずエリスの元へ帰って来ます。それまでエリスの事をお願いできませんか?」
事故があってからシャノンはずっとエリスを避けていた
嫌っているのではなく罪悪感から顔を見れないのだ
「私は……ええ……わかったわ、心配しないでエリスの事は任せて、その代わり無事に戻って来て頂戴」
「当たり前です、なるべく早く戻ってくるのでその間エリスを宜しくお願いします」
***
自宅に戻った僕はすぐエリスの元へ行く
「エリス、ごめん暫く留守にするよ。その代わりにシャノンさんが来てくれるから安心して」
ふと、ベッド横のサイドテーブルの上にあるアスターの花が目に入った。
僕がいない間に咲いてしまったら嫌だな…どうせなら2人で見たい…。
「なにがあっても必ずエリスの元へ帰ってくるから待ってて」
そう言ってそっと触れるような口付けをした
「すぐに戻って来るから」
その後ルカは王都へと旅立ち…
そして二度と戻ってくることはなかった。