地獄みたいな世界で、たった一人の救い
中学2年の冬。教室の空気は冷たく重くて、深呼吸すらできなかった。
私は毎日、誰かの視線に刺されている気がした。話しかけられることも、あからさまにいじめられることもない。ただ、透明な存在として、教室の隅に埋もれていた。
「ねぇ、あの子、なに?」
クラスの女子たちのヒソヒソ声が、耳の奥に張りつく。
誰も友達なんていなかった。居場所なんて、どこにもなかった。
私は、息が詰まる教室を飛び出した。
そんな私の唯一の救いは、校舎の外で自由に笑っていた“ギャル”だった。
彼女もまた、この狭い世界に馴染めない、はみ出し者。
名前は、マイカ。金髪、派手なメイク、ピアス、ネイル。そして笑顔は、まぶしいくらいに優しかった。
「ねぇ凛ちゃん、なんでそんな暗い顔してんの?」
ある日、彼女がふいに声をかけてきた。
「……別に、何でもない」
素っ気なく返した私に、マイカはふふっと笑って、
「そう?でもさ、ウチらの人生だよ。楽しまなきゃ損じゃん」
マイカは私に近づくと、私のくたびれた髪にくしを入れ、手早く前髪をねじってピンで留めた。
「ほい、できた。見てみ?」
手渡された小さな鏡。
そこに映る私は、いつもの私じゃなかった。隠していた額と目が現れて、寒空の下に太陽の光が差したたようだった。
それから少しずつ、世界が色を取り戻し始めた。
マイカの自由さに惹かれ、私も変わっていった。メイクを覚え、制服をアレンジし、髪も染めた。
「凛、めっちゃ似合ってるじゃん。かわいい」
マイカのその一言が、私の心をまっすぐ照らした。
「ありがとう」
ずっと透明だった私に、名前を呼んでくれる人ができた。
ギャルになるのは、必然だったのかもしれない。