1/2
プロローグ『空を飛ぶなんて、笑い話だった』
「お客様、ご搭乗ありがとうございます」
そう言って深くお辞儀をするたび、私の中の“昔の私”が何かを噛みしめている。
ーーあの頃の私は、誰にも挨拶すらできなかったのに。
空を飛ぶなんて、昔の私からしたら笑い話だった。CAの制服に袖を通した自分の姿を、鏡越しにじっと見つめる。
ーーあんたが?あの凛が?キャビンアテンダント?
鏡の中の私は、そんなふうに鼻で笑ってる気がした。
地べたを這うように生きてきた私が、まさか空の上に立つ日が来るなんて思いもよらなかった。
でも、あの日、確かに思ったんだ。「このまま終わるのは、ダサすぎる」と。
誰にも必要とされなかった教室。メイクとピアスで心を守ったあの時代。世界から見捨てられたような気がして、夢なんて怖くて持てなかった。
だからこそ、あの日、機内で見たCAの笑顔は眩しかった。
ーーこれは、「CAになんてなれるわけない」と笑われた言われた、笑えるくらいに不器用で、少しだけ誇らしい私の人生の物語。