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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界に召喚?されました! いきなり(自称)神様にジャンピング土下座されました!! どうしろと!?

作者: Norito&Mikoto

始めましての投稿です。長いです。

続きは考えてないので短編で投稿しました。

「申~し訳ありません~~~っ!!」


 今、私の目の前には、どこからともなく飛んできた謎さん(男性)が泣きながら土下座している。所謂ジャンピング土下座ってやつか?


 いきなりすぎて意味が分からない?

 いや。意味が分からないのは私も同じだ。


 いつもと同じ、ブラックな環境の代り映えのしない一日がいつの間にか過ぎ……気づけば日付けも変わった深夜。

 ひたすらスマホゲームを走らせつつ、読書をしていたはずだが、気が付いたらここにいた。


 年齢? 彼氏? 家族? どんな環境かって? 聞くんじゃない。

 

 というか、ここはどこだろう?

 一面真っ白で、上も下も右も左も分からない。限りもない。

 分からないのに、丁度私の足元辺りの高さに蹲る謎さん。

 正直言って、その足元もあやふやだったりするのだが、何となく立っている格好になっている。


 そう、立ち姿。とでもいうべき体勢ではあるのだ。地面の感覚も何もないし、足の下もひたすら白いから、立っているのかと言われると微妙ではあるのだが……


 例えて言うなら、吊られていない空中。あるいは、空気のある水中か……重力もなさそうなので宇宙空間? 白いけど……というか、死んだのか? いつの間に、なぜかはわからないけれど、このひたすら白いだけの空間を端的に表すなら、死後の世界とか神様の世界とか言われる描写に似ている。


 この目の前で土下座している謎さんは神様だとか?

 そういえば、古代ギリシャチックな白い布着て、腰の辺りを縄みたいなので止めてるし、髪の色は複雑に入り混じってはいる物の、一言で言えば緑だし、月桂樹の冠を模したと思われる金色の輪っかかぶってるし……まあ、現在進行形で土下座してるから、顔かたちやら目の色やらはわからないけど。


 いや。まじか……死んだのか? それでテンプレでも発動したのか? するものなのか?

 というか、死後転生とかってホントにあるんだ……あるんだよね?

 それにしても、この神様みたいな謎さん。最初にいきなり謝罪から入らなかったか?

 何で謝られてるのかが分からん。

 何かやらかして、ホントは死ぬはずじゃなかったとかか?


 先ほどから「というか」を繰り返してしまっているが、仕方がない。意味が分からない状況なのだ。一つづつ確認するしかないじゃないか。

 まあ、この(推定)足元で土下座してる謎さんに聞けばある程度説明してくれそうではあるが、自分なりに情報を集め、推察しておくことは大事。


 誰だって、結局最終的に決められるのは自分だけ。

 その自分が決めたことを他人のせいにする人も多いが、情報や意見は貰えるが、自分の言動その他を最終的に「決定する」のは自分である。

 その結果が、自分が望んだものとは違っても、その責任は結局、他の誰も取ってはくれないのだから。うんうん。


「……この状況でそこまで冷静なのもびっくりですね……」


 つらつらと考え込んで内心頷いていたら、反応がなくて痺れを切らしたのか、謎さんがぼそりと呟いた。


 お? 謎さんの話してる言葉、日本語じゃない?


「ああ……はい。貴方の国の言語は、私の世界では使われていませんので……」


 むむ? これは心を読まれてるってやつだね。私は一言も話していないのに会話が成立してる。


「申~し訳ありません~~~っ!!」


 ちょっと気味悪いと思ったらそれに反応された。


「いや。まあ……自然にやってるか、理由があるかなんでしょうから、まあ、それはいいです」


「なんか優しい!? いや。適応力が異常?」


「多分そっち」


 で、そろそろ説明をお願いします。


「わかりました」


 ようやく顔を上げた謎さん。別嬪さんでした。

 いわゆるイケメンさんというやつですね。

 なお、気になっていた眼の色は、青い星が散る金色でした。いや。色目に別の色が点々と散ってるってどんなよ? しかも時間経過や瞬きするごとに位置が変わってるし……髪色と合わせても普通では見られないよ。


「とりあえず、お掛け下さい?」


 まじまじと覗き込んでいたら、ちょっと引き気味に右手側を掌で指し示してきた。


 顔を向けると、そこにおしゃれな白いテーブルセットがあった。

 真っ白い世界に真っ白いテーブルセット……埋もれるわ……

 しかも、テーブルの上には、真っ白いティーポットとカップ、白いクロシュのかかった白いお皿もある。

 何処まで白にこだわるんだよ?


「申し訳ありません~~~っ!!」


 思わずジト目になったら、また土下座された。

 話が進まないから、とりあえず、その白い椅子に腰かけてみる。


 重力の存在も、上下左右の感覚も曖昧なくせに、地上で動く様に動ける謎仕様。

 ご都合主義かよ。


「お掛けになられては?」


 足元で土下座されたままでは話しにくい。

 私は相手にもテーブルに着く様にと促した。


「失礼しますね」


 ちょっと困ったように微笑んで、謎さんが向かいに座る。

 手ずからカップにお茶を注いでくれて、クロシュを外した大皿にはサンドイッチやスコーン、クッキーが並んでいた。


 なお、お茶は普通に紅茶っぽい色をしていたし、サンドイッチには卵やハム、野菜などが挟まっていたし、スコーンは香ばしいキツネ色。クッキーは紫色のジャムが乗っていて、ロシアケーキっぽい。


 真っ白なシュガーポットから、白い陶器っぽいスプーンで砂糖を一杯。白いミルクピッチャーから、ほんのり温かいミルクも入れて、ミルクティーに仕上げる。


「それで? 何がどうしていきなり土下座?」


 仕上げたところで話を促した。


「……ええと? 召し上がらない?」


「いや。だって、ここがどこかもわからない上に、どこの誰とも知れない輩が用意した、何とも知れない代物をいきなり口にするのは怖いでしょう?」


 パチパチと瞬きして、疑問を伝えてきた相手に、何を言ってるんだ? とばかりに返す。


1.ここがどこかわからない。しかし、まともな空間とは思えない。

2.いつの間にここに来たのかもわからない。来た方法も分からない以上、帰り方はもっとわからない。

3.初対面の相手が用意したと思しきものである。味以前に、安全性や成分に疑問あり。

4.死後の世界だとか神様の世界だとかいう場所で出されたものを口にすると帰れなくなるというネタは、古今東西、世界各地で散見されている。

5.よって、安全性や信頼性が確立されるまで、もてなしは受けたという態度はとりつつ、実際に口にするのは下策。


「そんな感じですね」


 つらつらと意見を述べると、目に見えて相手はがっくりした。

 普通、そう考えても説明なんぞはしないものなのだが、この謎さんは思考が読めてしまうようなので、黙っていても同じだ。


「……いや……まあ、そうなんですけれどね……」


「と言う訳で、とりあえず先に説明を」


 若干疲れたような、溜め息混じりの呟きを聞き流して話を促す。

 というか、説明開始できるタイミングはいくらでもあっただろうに、どれだけ寄り道してるのか……ちゃんと話をする気はあるのだろうか?


「あります! ありますから! とりあえず、結論から言います。貴方は私の世界に召喚されました。元の世界にこのままお帰り頂くことはできません。申し訳ありません!!」


 ガバリと頭を下げた謎さん。

 やっぱりテンプレ展開か……


「うう……。貴方の世界では、これが頻発してるんですか? そんな話は聞いたことがなかったんですが……。そう、貴方が考えている通り、私は所謂『神』と呼ばれる存在です。正確に言うなら、世界を一つ管理している思考思念体ですね……」


 きた。自称神様。正確には違うけれど、ニュアンス的にはそんな感じの存在だってやつ。


「理解が早すぎる……」


 何か、自称神様が慄いてる。


「ええと、面倒なので、いちいち『自称』つけなくてもいいです。神様でも神でも何でも好きに呼んで下さい。一応、管理している世界では、区別のために至高神として祀られてます。そこでの呼び名は『アーレフ神』です」


「……アーレフ……」


 思わず繰り返しちゃったよ。

 アーレフって、ヘブライ語の第一文字のことだよね?

 アレフ。もしくは、アーレフ。

 某……いや。この先はやめておこう。


「ええと、ここでの会話は意思疎通できるように、お互いが認識できる言語や意味に自動変換されているだけなので、実際の発音やら、表記やら、それこそ正確な意味合いとは違っていますよ?」


 そりゃそうだ。

 さっきから、耳から聞こえてくると思わしき音と実際に認識できてる音が違ってる。

 どころか、洋画の吹替え宜しく、口の動きと音の数も一致していない。

 語数が違うって、何さ?


「……言語の成り立ちや使い方が違うということで」


 話が進んでいないので、それでいいです。


「とりあえず、こちらの世界に関して簡単にご説明します。文明の発達が停滞した、剣と魔法の世界です」


 テンプレ乙。

 で、悪者とされる存在(魔族)と正義を自称する存在(勇者)がいて争っているとか、生き物にとって脅威となる存在(魔物)がいて、それをどうにかして貰おうとか、あるいは権力者たちの権力争いとか……あとはマッドサイエンティストな魔法オタクかなんかが実験で呼び出したとか、その辺りかな?


「……何処まで理解力が……」


 また慄いてる。


「そもそも、文明の発達が停滞しているのには何らかの理由があるはずでしょう? しかも剣と魔法の世界って言葉だけで異世界召喚お疲れ様です。ってところですね」


 異世界召喚って、かつては現実を離れて冒険できるぜヤッホー! ってノリの扱いだったけど、今では召喚される側の事情や理由を考慮せず、無断で自分たちのところに強制的に連れてきて、命令に従え。とかいうやり方は誘拐と脅迫でしかないと解釈するのも増えたんだよね。

 更にタチが悪いのだと、強制的に隷属させる魔法とかを組み込んだ代物で、奴隷として使い潰すとかそういうのもある。


「ぐ……っ!」


 あ、なんか、クリティカルしたっぽい。


「……そんなに多いんですか? 異世界召喚?」


「お話としてはね? 実際にあるのかは知らない」


 なるほど……とアーレフ神がなんか納得した。


「それでは、もう、色々取り繕わずにご説明します」


 できれば最初からそうして欲しかったわ。


「申し訳ありません……。仰る通り、私の世界では、魔法という技術が存在しています。私の世界で言う魔法というのは、生き物の思考を具現化させ、実際に現象として引き起こす方法なのですが、これがなかなか厄介で……ありとあらゆる場面で利用されているのですが、便利である反面、現象として実際に具現化させるためには相応の魔力が必要になります」


 その世界では、魔力によって起こる現象だから魔法ということだね。


「魔力自体はありとあらゆる存在にあります。というか、魔力の源は存在の力なのです」


 わざわざ存在の力という以上、そこに何か問題でもあるのかな?


「その通りです。本来、私の世界では、思考を磨くことで魂の格が上昇し、上位存在になって行けるようにできています。魂の格というのは、存在の格と同義です。ありとあらゆる存在はより高みを目指す様に作られてはいるのですが……」


 そこで問題が発生している。と……


「思考を磨く。というのは、あらゆる物事を観察し、疑問や問題を解決したり、望みや願いを叶えるために試行錯誤した結果です。けれど、私の世界では、一定以上の文明の発展がありません。理由としては、そもそも、思考を具現化するという性質上、単純で強力な思考の方が具現されやすく、文明を築ける種よりも生存本能だけの生き物の方が強いということ。しかし、生存競争に敗れれば種が絶滅してしまいますので、それを阻止するために、武器や魔法によってそれらと戦い、生き残れるようにと神託を下しました」


 で、やらかした。と……


「……道具を用いたり、魔法を使ったり、策を弄することで生存競争で負けて絶滅することは避けられたのですが、試行錯誤が下手なのか、新しいものがなかなか生まれてきません」


 いちいち拾っていたら、話が進まないからスルーしたな……


 つまり、最初に神託という形でヒントを与えたせいで、自分たちで考えて実行するという能力に欠けた状態で一応の発達をしたわけだ。

 でも、そもそもの「なぜ」に気付く能力と、「どうして」と疑問に思う能力、「どうすれば」という解決策を考えれる能力が欠けてるなら、それ以上は望めないよね。


「そうなんですけれど……それで、世界全体で一番発達しているのが魔法の運用に関することなんですが、それもだいぶん頭打ちで……何をとち狂ったのか、神を召喚して世界を豊かにしてもらおうという話になりまして……」


「異世界召喚を実行したバカがいる。と……」


 いや。神様召喚なら、この(ヒト)が呼ばれるだけなんじゃないの?


「思考を具現化して、実際に現象として引き起こす方法。何です……」


 あ~。分かった。自分たちに都合がいい存在を呼ぼうとしたな。

 神託を下した神様そのものじゃなくて、自分たちに都合よく色々やってくれる存在。


 文明の発達が未熟とはいっても、国家の一つや二つはあるんだろうし、そこの王子かなんかが、美人の女神を嫁にして権勢を高めるのと女神の力で他国より上位に立って支配して、悠々自適に贅沢三昧して暮らしたいとか。そんな感じで……


 ということは、王位には届かない次男以降か庶出の王子とかだな。


「その通りです」


 きっぱり認めちゃったよ。


「貴方を召喚したのは、私の世界でも国土は広いですが、未開地の多い弱小国家の庶出の第一王子です」


 うわ。めんどくさい奴だ。

 庶出ということは良くて側室。悪ければ愛人以下のいわゆる「お手付き」が産んだということだし。

 それなのに第一王子ということは、普通に考えれば複数いる子の中で、一番最初に生まれた王子ということだろう。

 あえて第一王子と言ったところからして、まだ立太子はしていないのか。庶出のせいで王太子になれないのか。というところだろうから、気位だけは高そうだ。

 やだなぁ。無駄にプライドだけ高くて、現実を受け入れられないアホって。

 

「国自体は、きちんと開墾すれば広大な農地を手に入れることができますし、各種鉱山も有しています。森林資源も豊富にありますし、更には海に面していて海産物を得ることもできるはずなんです。しかも、国土には縦横に走る大小の河川が存在し、気候は比較的温暖です」


「何それ。むっちゃいい土地じゃん」


 特に文明が未発達な時代に、それだけ優良な土地を持つ国があれば他国は喉から手が出るほど欲しいだろう。


「その上、国境は一方向に存在するだけで、その場所は険しい山脈があり、麓付近は深い森に、更に山脈の中央付近には深い渓谷まであるので、侵略される可能性も低いです。逆を言えば、お互いにそのせいで交易しづらいのですけれど……」


 なるほど……自然の要塞に守られた広大な未開の国家。ね。


 それなのに、異世界召喚なんて事を仕出かすということは、開発できるだけの地力がないんだな……


「そうなんです……。その人族国家は土地だけはあるのに、生かす方法を模索することもなく、他種族が開発して得た土地の恵みだけを望んでいるんです」


 神様にもアホ認定されてるじゃん……


「いえ。ちゃんと学び、さらに試行錯誤して進化・発展させてくれればいいな。と思っているだけです」


 それができないから、他から奪い取るために神様召喚しようとしたんでしょう。


「そうなんですけれどもね……」


「落ち込んでるところ悪いけれど、質問」


「はい? 何でしょうか?」


「さっき、人族国家って言いましたよね? そして他種族。と……人族というのがいわゆる人間として、他種族とは?」


「ああ。貴方の世界では、まとめて人間でしたか……所謂人種の差です」


「……地球で言う人種のレベルなんですか?」


 あえて人族と呼ぶ以上。髪の色、目の色、肌の色、体格、言語、信仰、習慣……その程度の違いではないのだろう。

 むしろ、人間とサル。犬と猫…は、微差なのか? 爬虫類と両生類……いや、動物と植物? そのくらいの違いがあっても驚かないぞ。


「……人族。というのは、今、私がとっている姿や、貴方の姿に似た体つきと特徴を持つ種族です」


 いわゆる人間だね。

 ということは……


「ええ。動物や植物の特徴を持っている種族や、そもそも動物や植物そのものの姿をした種族、体格が著しく違う種族。膂力や魔力に差がありすぎる種族なども存在しています。ただ、思考を具現化して、実際に現象として引き起こす方法として魔法が存在している性質上、意思疎通自体は容易です」


 意思が疎通できることと、理解し合えることは別の話だよね。

 自分が生きるために死ね! とか言われて、はい。分かりました。と答える奴はいない。


「当然。主義主張や考え方、その他諸々差異はあります。そうでなければ、思考を磨くことなどできません」


 そりゃそうだ。

 全く同じ強さで、全く同じことを、寸分の差もなく同時に考える存在ばかりだとしたら、そこには試行錯誤は絶対に生まれない。

 それでは、ただ単純に、プログラムされたことを、プログラムされた通りに繰り返すだけのシステムに過ぎない。

 というより、複数あるだけの、一つの存在ということになる。


 この神様が言うところの、思考を磨いて魂の格を上げ、上位存在になるものなど、絶対に出てこない。


「ですから。思考制限は存在していません。流石に、世界そのものを消し飛ばしかねないような現象を起こそうとしても、最上位存在である私の思考が上回るので、実現はしませんが……」


 じゃなきゃ、世界が何度滅びる事か……と言う訳か。

 サラッと最上位存在とか言ったよ。

 流石は自称神様。

 伊達に神を名乗ってないな。


「......いや。一応、管理者ですからね? 世界というのは、管理者の箱庭です。箱庭の中身に箱庭が壊されるのを許すはずがありません」


 つまりは、管理者が飽きた箱庭は管理者に見捨てられて滅びるってことだな。


「……………」


 黙りやがった……


 あれ? ちょっと待てよ?


「……異世界召喚って、その理屈で行くと、他の管理者の箱庭から、その管理者の箱庭の中身を勝手に持っていくようなものじゃ……」


「……っ!!」


 あ、ギクッとした。


「……そうです……。本来なら、管理者同士で話し合い、同意を取り付けた上で、事前に準備を整えて、貰い受ける存在に意思があればその存在に説明や確認、同意を貰ってから動かします……そうしないと、そもそも他の世界の存在が、別の世界に存在できるわけがないんです」


 ……なんか。いま、へんなこと、きいたきがする……


 思わずひらがなになっちゃったけど、無視しちゃダメな話が出てたよね?


「……管理者同士の話し合いに関しては、管理者同士で行いますから、移動させる存在自体に直接的には関係ありません。移動させる……移動することになる存在に対して関係するのは、そもそも、箱庭の中身が同一の存在でできていない。という問題です」


 何か……。怖いこと言われそうな雰囲気……。


「申し訳ありません……。最初にお伝えした通り、貴方は元の世界にこのままお帰り頂くことはできません。理由は私の世界に召喚されてしまったからです。元の世界での『貴方』という存在を構成していた『すべて』は私の世界には存在せず、他の世界の存在という異物の混入を許せば私の世界が滅びます。かといって、元の世界に戻そうにも、既に私の世界に接触してしまっているので、そのままでは元の世界にとっても異物になってしまいます」


 異物……混入……異物……


「貴方に選んで頂ける道は2つに1つです。1つは今の貴方という存在を一旦分解し、私の世界と接触したことで取り込んでしまった異物を除去して、新たな存在として元の世界に産まれ直すこと。当然、『今の貴方』は死亡することになりますので、今の貴方が持っている記憶や知識、技術などは継承されず、貴方の世界の神が定めた世界の法則に基づいて魂の研鑽を積むことになるでしょう」


 ……まあ、そうなるよね……

 元の世界では死んだ後のことは生きてる間はわからないし、本当に転生が存在しているとしても、前世の記憶やなんかが残っていることはない。


 そしてこの流れだともう一つは、この神様の世界に転生させてくれるとかってやつかな?


「いえ。それはできません」


「え!? そのパターンじゃないの!?」


 いや。じゃあ何よ……


「転生させるのならば、条件は同じです。一度、今の貴方という存在を分解し、異物を除去して、新たな存在として産まれ直して頂く……わざわざ私の世界で受け入れる必要もありません」


 自分の世界の輩がやらかした尻拭いはしないということか……


「いえいえ! それもあり得ません!!」


 ちょっと軽蔑したら、急に慌てだしたぞ?


「そんな無責任なことはできません。ですから、元の世界に戻りたいと仰るなら、そちらの管理者に話をつけて、異物を除去した上で産まれ直して頂けるように手配します。そうではなく、もう一つは、このまま私の世界に召喚される道です」


 異物を受け入れたら世界が滅びるんじゃなかったのか?


「それは、管理者同士の話し合いや事前の準備などが整っていない場合です。具体的に言うのなら、貴方を構成するすべてを私の世界側で準備した後の移動なら、問題なく異世界召喚も成立するんです」


 ……え〜と。つまり?


「貴方という存在を、私の世界のもので再構成して、それから世界を渡って頂くということです。そもそも、それぞれの世界に存在するありとあらゆるものが、すべて共通していることなどありえないんです。分かりやすく申し上げるなら、貴方の元居た世界と、私の世界では空気や水の成分も、重力や引力も、常在菌やウイルスなどの微生物、その他諸々、元素、分子・原子のレベルで違っています。一応、よく似た概念として認識はできるでしょうが、ありとあらゆる構成物質のすべてが厳密に言えば別物です」


 それって、いきなり異世界召喚とかで呼ばれたら、その瞬間に呼ばれた側は体が壊れたりとか、息もできなくて窒息して死亡する上に、他の世界から来た常在菌やウイルスが蔓延する可能性もあって、抗体がないその世界の生き物も死滅するってことじゃ……


「それをやらかしたのが、私の世界の存在で、気づいたからこそ、ここにお招きして止めおきました……ここは、箱庭の中ではなく、それを見守る管理者の領域……神の世界とでもいうべき場ですから、他の世界の存在も、その場の支配者が許可する限りは存在し得ます。しかし、神とも呼ばれる管理者は、そもそも思考思念体。簡単に言えば、所謂物質の概念や時間の概念が存在していません。ここにあるのは思念だけなのです」


 それって、つまりはどっちみち『私』は死んでるようなものってことじゃん。


「……まあ、そうとも言えますが、厳密には死亡の状態ではありません」


 厳密に言えばって……


「つまり、召喚前の世界の体は持ち込めないけど、召喚後の世界に器を用意すれば異世界召喚は成立するってことね?」


「はい」


「で、その器を作ってくれる。と?」


「その方法もある。と言うだけです。当然、魂もすべて私の世界のもので再構成することになりますから、死んだ後も元の世界には戻れません。私の世界で魂の研鑽を積んで頂くことのなります」


「…………」


 何か、ちょっと引っかかる……

 それは、そちらの世界への転生と何が違うのか?


「今の貴方の意識が残るという違いです」


 となると、別の疑問が一つ。

 どうして『私』が召喚されたのか?

 そしてなぜ異世界召喚を仕出かした輩がいると気付けたのか?


 そも、これまでの話からすると、世界と言うのは無数に存在し、管理者と呼ばれる神が見守っている。

 管理者同士の話し合いで、存在の譲渡や移動自体は以前から行われることもあったようであるし、この神様の世界では文明の発達が未熟な状態で停滞している。

 翻って、私がいた世界には魔法は存在せず、思考を具現化するには物質で再現するしかない。


 そこには、長い年月をかけて、多くの人が様々な実験や研究を重ね、試行錯誤をして実用にこぎつけた結果の、文明の発展がある。


 そう。別の世界に、発展した文明という見本が存在しているのだ。

 それを知っているのは誰か?


 言うまでもない。

 各世界の管理者たち。


 具体的に言うのなら……


「…………っ」


 この神様もそうだろう。


 と言うか、そこまで心の中で言語化する前にこいつギクッとしやがった。


「……何か言うことは?」


「申~し訳ありません~~~っ!!」


 ジャンピング土下座アゲイン……


「つまり、見てたんですね? 私がいた世界のこと……」


「うう……。はい。先輩にあたる管理者の方に、参考にできるところがあるかもしれないから……と。様々な世界を見学させて頂いていました……」


 ふむ。色々な世界を見ていたなら、たまたま私がいた世界を見てた時か、私がいた世界を頻繁に見ていたかのどちらかが理由で召喚元の世界が私がいたところだったのだろう。

 それでどうして『私』が召喚されることになったのかまではわからないけれど。


「正直に申し上げると、最初の召喚者はあまり危険のなさそうな方にしようと思っていたものですから……」


 当たり障りのない奴を呼んでみて、実験的に放り込んだらどうなるか観察しようとか考えていたら、世界のやつが召喚をやらかした。と。


「いえ。そこまでは……実際、少なくとも貴方は私の世界のものたちと比べ物にならないぐらい高い思考力を持っていて、正直ちょっと怖いくらいです……これが文明の発達の差なのか……と」


 私自身が怖いわけじゃなくて、私みたいなのが平均的に存在しそうな世界が怖いってことか……

 まあ、そうじゃなければそのまま『私』を自分の世界に召喚しようとも思わないわな。


「それもありますが、私の世界は思考が具現化する世界ですから……あまりにも思考力が弱くては、生存できません」


 ああ。他人の思考に喰われるってところかな……思いの強さが力の強さみたいなところがあるんだろう。


「そうですね……。事前に様々な世界をリサーチしていたのですが、貴方のいた世界のような、明確に思考や精神が具現化しないはずなのに、思考力や精神力が高い存在が多い世界は少なかったです……」


 それは基礎の違いじゃないかな?

 他の文明が発達した世界とやらを知らないから、比べようがないけれど、思考や精神と言った目に見えにくい、形が明確ではないものを認識できる状態にするのは至難の業だ。

 その上、認識し難いくせに、それを無視しても結果は良くならない。


 むしろ、魔法などの形で、分かりやすく具現化してしまうからこそ、研鑽が積みにくい側面もあるのだろう。

 ただ、どちらが良いとか悪いとかいう話でもないとは思う。


 要は、思考停止に陥らないように、常に考え続けることを放棄させないようにしなければだめなのだろう。


 ただ、何はともあれ、このままここでグズグズしていてもあまり意味はなさそうでもある。

 元の世界に転生するか、この神様の世界に召喚されるか。

 どちらかを選ばなければいけない。


 ちなみに、このままここに居座り続けるってのは、なし寄りのなしだろう。


 なぜなら、私が今ここにいられるのもこうやって、おそらく自分の自由意思で思考しているのも、この場の支配者であるこの神様が許可している間だけだから。

 あまりグダグダとやっていても、逆ギレされて強制的にどちらかを……おそらくは元の世界での転生を強行されて終わりだ。


 正直、選択肢を提示しているだけ良心的なのだろう。


「…でも、召喚に応じて貰ってもいいかな?と思う程度には使えそうって判断してるんですね?」

「まあ…はい…」


 ジト目で問いかけると、ちょっと後ろめたそうに首肯する。


 それはそうだろう。そうじゃないなら、最初からこんな場を設けることもなく元の世界にリリースしてるはずだ。


 私は長く、深く、溜め息を吐く。


「……じゃ、あなたの世界に行きましょうか」


 さてはて、この『選択』は本当に『私』の意思によるものなのか。

 それともこの『神様』の思惑の通りなのか。


 選択の結果がどうなるのか。

 それは『私』にはわからないけれど。


 どちらにしろ、今の『私』の言葉で賽は投げられたのだ。

 あとは結果を受け入れるだけ。


 新しい始まりであり、昨日までの日常の続きを。

 きっと、元の世界では体験できないであろう姿形をした、様々な面倒くさい出来事が起こるのだろう。

 けれど同時にソレは、元の世界でも別の姿形をして起きたかもしれない出来事でもある。


 神様の言う『魂の研鑽』とやらがどんなものなのかは、わからないが。どうやらどの世界の神様もその世界の存在に『魂の研鑽』を積ませるようにしているらしいし。


 なら、別の世界で生まれ育った存在が引き起こすであろう化学変化の一因になってみるのも面白い。


 私はうっすらと、口の端を持ち上げる。

 

 ほんの少し、楽しむ気持ちも確かにある。

 同時に、未知への恐怖と言うべきものも……


 そんな、微かなワクワクと、ゾクゾクするような恐れを感じながら、私はいまだに土下座体勢で、ちょっと顔だけ上げている神様に向かって、ゆっくりと右手を差し伸ばした。


ありがとうございました。

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