一ノ宮くん続けられる覚悟はできたかい
不動産屋の事務所前に到着し、佐藤を降ろしてそのまま別れた。
車を少し走らせ、住宅街の道中で停め、遷宮路は一ノ宮が、帰りの車内でずっと黙っていたことに切り込んだ。
「一ノ宮くん、君の知っている鳴宮はまだ居たか?」
一ノ宮は前を見つめたまま答える。
「はい、まだ居ます。不動産屋の人の話も嘘ではないとしても、僕の知っている鳴宮は確かにあの部屋に住んでいました。」
「そうか、、、」
遷宮路は続けて聞く。
「今朝事務所を出発した時、君に課したミッションはちゃんと果たしてくれたようだね。」
一ノ宮は先刻までの深刻な雰囲気から一転、飼い犬がフリスビーを持って帰ってきたかの様な自慢げな表情でこちらを見る。
「なんとか、頑張りました!
まず一つ目、自殺した場所と状況を詳細に聞き出して、部屋に入ったらまずその場所に行って、2秒以上見る。
二つ目、遷宮路さんの行動を見て、事件の真相を考えるですよね」
遷宮路は頷く。
「一つ目の事件現場だが、風呂場の浴槽で自殺だな。」
「はい、手首を切ってたって言ってました。」
「やはり、不動産屋の佐藤が第一発見者だったんだな」
「え、なんで、分かったんですか?」
「切ってたって言ったんだろ?」
「え!あ、そうです」
「他にも、恋人は居ない、友達も少ない、親との連絡も頻繁では無い、そこらの情報から予想は自ずと絞られるだろう。それで、」
一ノ宮は遷宮路の話に集中して一瞬質問に気づかなかった。
「二つ目の事件の真相を考えるですが、自殺が前提なら推理もなにも無いので、殺されて自殺に見せかける何かトリックが、有るとして話します。まだ、分からないですけど。」
遷宮路は静かに頷く。
「自殺と断定されるということは、部屋は僕が見てた頃の整頓された状況だった。ならば犯人は友人や知り合い、少なくとも顔見知りの犯行になります。」
一ノ宮は自信なさげな顔で、遷宮路を一度見るが、特に表情を変えず、話を続けるように少し頷く。
「争っていないことから、手首を切る前に何らかの方法で眠らせる必要があります。ということは部屋に入り、睡眠薬とかを飲ませるのがよく有る展開だと思いました。」
「それで全てかな?」
一ノ宮は自身の考える雑な推理に少し恥ずかしさを覚えつつも、遷宮路の行動を思い出して1つ気になっていた事があった。
「まだ何か思いつくが、私がその行動をしていた意味が分からず、推理に繋がらないと言った感じかな?」
「はい、遷宮路さんは最後、窓の外を見ていました。全体を見るのではなく、ある一点を見ていました。」
遷宮路は、頷き話し始める。
「窓の向こうに通りを挟んで建物があった。高沢ハウスとほぼ同じ高さのマンションだ。そして、窓から外を見るとそのマンションのある部屋のベランダと同じ高さになる。住人もいた。」
一ノ宮はそんなはずはないと、遷宮路の話を遮る。
「ヤマはそんな人じゃない、そんなストーカーみたいな、、、」
「先入観を捨てろ。今君は自分の知らない親友の姿を追いかけているんだ。自分で調べた限りは自殺する前兆も要素もなかった、そうだろ。でも実際に親友は死に自宅では騒音問題でトラブルに遭っている。」
遷宮路は、一ノ宮を諭すように強い口調になる。
「私は、鳴宮が生前どんな人物だったかは知らない。それが故にフラットな視点で事件や彼の人物像を見ている。しかし、君は生前の彼を知っているが故に、知りたくなかったこともこれから増えるだろう。辛いかもしれないがそれらを辿ることで鳴宮に何があったのか真相に辿り着ける。一ノ宮くん続けられる覚悟はできたかい。」
一ノ宮は、少しの間沈黙し、助手席から外を見る。




