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謀婚 平和な次世代編  作者: 樫本 紗樹
大国の王太子と小国の王女

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価値観の見直し

 パウリナは自室のソファーに腰掛けて思い悩んでいた。リチャードが真面目で不器用な人だと理解した上で、自分がどのように振舞うのが正しいのか。抱きしめて貰った翌朝に彼女は熟睡できたので感謝を伝えたのだが、彼はどうにも腑に落ちていない様子だった。夫が睡眠不足になってはいけないので確認すると、離れて寝たいと言われてしまい、結局あの夜限りとなってしまったのだ。それから数日して月のものが終わった旨をさりげなく伝えたのだが、彼は触れてくれない。

 やはり泣き落とししかないのだろうかと思うが、パウリナは未だに泣く方法が見つけられていなかった。別に泣かなくともリチャードの本音さえ引き出せればいい。しかし母や妹さえ本音を言わないと評している彼の本音を、結婚してひと月も経たない自分が引き出せるはずなどないのである。何でも話して欲しいと何度も伝えるのも負担になってしまうだろう。忙しい夫にせめて夜くらいは寛いでほしいのに、自分の存在がそもそも邪魔な気さえしてならない。

 パウリナは立ち上がると棚に近付き、引き出しから箱を取り出してソファーへと戻る。レヴィに入ってからはしまったままになっていた箱を、彼女は息を吐いてからゆっくりと開けた。中には綺麗な銀細工の首飾りが入っている。貰った時から変わらず輝き続けるそれを彼女は愛おしそうに見つめた。

「素敵な首飾りですね。メイネス王国のものですか?」

「いいえ、リチャード殿下から婚約中に貰ったものよ」

 シエンナの問いにパウリナは微笑みながら答える。シエンナはあまりメイネス王国の知識がないらしい。メイネス王国にこれほどの宝飾品を作る職人はいないのだ。それでもメイネス王国を小国と侮られるよりはましである。

「どうして身に着けられないのですか?」

「今の私には過ぎたものでしょう? リチャード殿下の隣に立つのに相応しくなるまでは似合わないから」

「誰かに似合わないとでも言われたのですか?」

「言われていないわよ。自己判断」

 パウリナの言葉にシエンナは暫く思案顔をし、答えを見つけたのかパウリナをまっすぐ見つめた。

「価値観が違うのですね。ちなみに好みではないのですか?」

「とても気に入っているわよ。だけど似合わないと笑われたくはないの」

 パウリナはレヴィ王国の王侯貴族の人々に見下されるのを、ある程度は受け入れざるを得ないと思っている。小国の王女であるのは覆せないからだ。しかしそれによってリチャードまで嘲笑されるのは避けたい。たとえ彼の従者が選んだ物だったとしても、彼が彼女に贈ったと判断をされる。他人の足を引っ張りたい者は些細な件をつつくものだ。彼は周囲に恵まれていると言っていたが、その周囲は幼なじみで固められている。そしてその幼なじみが彼女の友人として親交を深めているのだ。面白く思わない者も多いだろうなと、彼女は王太子妃として色々学びながら感じていた。

「試着した王宮舞踏会のドレスも似合わないと思いましたか?」

「似合っていると思ったのだけれど、似合っていなかった?」

 パウリナは不安そうな表情をシエンナに向けた。刺繍やレースの見事さに見惚れたものの、未熟な自分には分不相応と言われてしまうとそのような気もしてくる。しかしシエンナは首を横に振って否定をした。

「いいえ、とてもお似合いでした。そしてあのドレスにその首飾りが似合いそうだと思ったのです」

 シエンナにそう言われてパウリナは手元の首飾りに視線を向ける。首元が空いていたので丁度いいかもしれない。色合いも問題ない。そしてヨランダとの約束は明日なので宝飾品は決まっていない。しかしパウリナは似合うと断定できなかった。

「それほど迷われるのでしたら、今夜身に着けていかれてはどうですか?」

 二人の会話に割って入ったのはキアーラだ。彼女はメイネス王国にいた頃からパウリナに宝飾品は身に着けるものだと言い続けている。しかし頑なにパウリナは身に着けなかった。そして今夜はスカーレットから誘いを受けた夕食会があるのだ。

「リチャード殿下も一緒なのに?」

「一緒だからではないですか」

 今夜の夕食会は元々リチャードと幼なじみの食事会に、スカーレットとグレースも参加するので一緒に参加しませんかという誘いである。パウリナはグレースの婚約者であるジェームズと話をしてみたかったので迷いもなく参加を決めた。この夕食会は元々男性のみであり、スカーレットも参加するのは初めてらしい。何故今回そのような成り行きになったのか聞いたところ、スカーレットの夫であるグレンが提案したとのこと。

「殿下は似合わないと思ったものを贈るような人なのですか?」

「失礼ね。そのような方ではないわ」

「でしたら身に着けない方が失礼ではありませんか?」

 キアーラの正論にパウリナは返す言葉がなかった。貰った時に嬉しかったと手紙に書いたものの、身に着けなければ口先だけと思われても仕方がない。大切なものなので大事にしまっておいたと言っても言い訳のように聞こえる可能性がある。

「キアーラの言う通りだわ。それならせめて浮いて見えないように髪型などを整えてくれる?」

「勿論です」

「シエンナも背中を押してくれてありがとう。ところで先程の価値観が違うとは、どのような意味なの?」

 パウリナは先程気にかかった言葉の意味をシエンナに尋ねた。シエンナは礼を言われて嬉しそうに微笑んでいる。

「贈られたものを身に着けてそれに見合う自分になるよう努力する方が、重みも感じますし視界にも入るので頑張れると思うのです」

「確かに言われてみると、そちらの方が良さそう」

 パウリナはシエンナの価値観をすんなりと受け入れた。王太子妃として似合うまでと思っていては、いつになるのかわからない。そもそも抽象的な目標なので、そのうちやる気を失ってもおかしくない。それよりもシエンナの考え方のほうが頑張り続けられるだろう。

「もっと柔軟に考えなければいけないわね。教えてくれてありがとう、シエンナ」

「お役に立てたのなら嬉しいです」

 シエンナはヨランダの侍女として学んだと言っていた。先日会ったヨランダは話しやすかったし、パウリナの心配をしてくれていた。きっとリチャードの妻として思い悩むだろうと予想をして、シエンナを友人のように話せる侍女として育ててくれたのだろう。これは明日お礼を言わなければとパウリナは心の中で決める。

「シエンナは婚約者がいると言っていたけれど、私の侍女はいつまで続けてくれるの?」

「妊娠するまでは勤めようと思っています。妊娠した時は相談させて欲しいです」

「お相手は結婚後も続けるのを受け入れてくれているの?」

「はい。レヴィ王国では王妃殿下が積極的に公務をされているので、結婚後も働く女性が増えてきていますから」

 シエンナの言葉にパウリナはいい傾向なのか判断に迷う。そもそもパウリナは母国で何もやっていなかったので、積極的に公務に取り組みたいとは思っていない。ただやらざるを得ないと思っているだけだ。しかし働きたくても働けなかった女性もいるのかもしれない。それこそ叔母はメイネス王国では選べない人生をレヴィ王国で歩んでいて幸せそうである。選択肢が多いのはいいはずだと、パウリナは結論を出した。

「それならシエンナが続けられるところまでよろしくね」

「はい、宜しくお願いします」

 シエンナは笑顔で答えた。いい侍女をつけてもらえて良かったとパウリナは思いながら箱を閉じてテーブルの上に置く。ここまで黙っているアビゲイルが気になったものの、彼女は必要な用件しか口にしない。今まで忘れていたがアビゲイルを侍女に選んだ経緯を、明日ナタリーにそれとなく聞いてみようとパウリナは思った。

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