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謀婚 平和な次世代編  作者: 樫本 紗樹
大国の王太子と小国の王女

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縮まらない距離

 パウリナは寝室でスカーレットに教えてもらった柔軟体操をしていた。乗馬の前後だけでなく、日常的に行うとより効果的だと聞いたのだ。最近座っている事が多く、首や肩の凝りも気になっていたので、それらを解す動きも一緒に教えてもらった。キアーラは動かすといいとしか助言をくれなかったが、スカーレットはこう動かすとこの筋肉が解れると細かく教えてくれたのだ。いい友人に恵まれたとパウリナは楽しそうに筋肉を伸ばす。

 扉を叩く音が聞こえ、パウリナは返事をしながら何事も無かったかのようにソファーに腰掛ける。以前油断していたのを反省し、今日は音を聞き逃すまいと思っていたのだ。上手く対応出来たと彼女は無意識に微笑みを浮かべる。

「何かいい事があったのか?」

 笑顔を浮かべているパウリナにリチャードが問いかける。彼女は流石に今の行動を報告するのは違うなと思い、他に何かあっただろうかと考えた。

「今日は乗馬をしました。思っていたより楽しかったです」

 初めての乗馬だったので短い時間ではあったものの、楽しかったのは嘘ではない。乗馬服から着替えた後、スカーレットとお茶を飲みながら色々と話した方が楽しくはあったが。

「不安と言っていたのに、楽しかったのなら良かった」

 何気なく話した事も覚えていてくれるのかとパウリナは嬉しくなる。そして疑問に思った事を尋ねようとリチャードを見つめた。

「レティの横にアレックスと名乗る近衛兵がいたのですけれど、何か聞きましたか?」

「いや。アレックスは今日休みだ」

 リチャードの言葉にパウリナは安堵する。彼女は心の底から彼の貴重な時間を許可なく割くのは嫌なのだ。こうして寝る前に話をするのも、彼が眠いと言えばすぐに止めるつもりでいる。

 一方リチャードは何故その場にアレクサンダーがいたのかわからない。アレクサンダーは王太子付ではあるが、エドワードの命令も聞くのでそちらの要件だろうかと考える。しかしスカーレットが教える乗馬をアレクサンダーに監視させるのは、無駄を嫌う父らしくない。

「愛馬の世話をしていたので、そのついでに挨拶をしてくれただけかもしれません。そういえば私は彼と会った事がありますか? 見覚えはあるのですが思い出せなくて」

「アレックスは結婚式に参列していた」

 結婚式と言われてもパウリナは確信を持てない。そもそも参列者をあまり覚えていない。粗相のないように振舞うので精一杯だったのだ。

「他の場面だと思うのですけれど」

「他だと、サリヴァン家で私の通訳をしたのがアレックスだ」

「あの少し眠そうだった人ですね」

 パウリナはリチャードの言葉でやっとアレクサンダーを思い出した。リチャードの横にいたグレンがスカーレットの夫と言う話は聞いていたが、通訳が誰かまでは聞いていなかったのだ。

「アレックスは大抵の者が一度見たら顔を覚えるのだが」

 リチャードは不思議そうに尋ねる。アレクサンダーの顔は整っているので、一度見れば誰もが覚えるものだと思っていた。リチャードも顔は整っているのだが、アレクサンダーには劣ると認識している。そもそも顔だけではなく能力全般、アレクサンダーには何ひとつ勝てないと思っている。

「あの日はリチャード様からあのような言葉を聞けるとは思っていなくて。周囲の人はあまり覚えていないのです」

 パウリナは笑顔を浮かべた。その笑顔を見て、当時の彼女がレヴィ語を習得していなくて良かったなとリチャードは思う。アレクサンダーが結婚を前提にと意訳をしたから結婚に至ったのだ。リチャードが告げた「仲良くなれるよう交流をしたい」を受け取ったならば、ただの友人で終わっていたかもしれない。

「あれから通訳なしで話したくて頑張りました。通訳がいない方が良いですよね」

 パウリナは嬉しそうに言っている。勿論リチャードも彼女の努力は素晴らしいと思っているし、とても助かっていた。しかし意訳をしてくれる者がいない故に、彼は彼女と何を話したいのかわからないでいる。

「レヴィ語を覚えるのは大変だっただろう」

「嫁ぐのに必要な事ですから」

 パウリナは笑顔のままだ。他国語を覚えるのは簡単ではない。小国から大国へ嫁ぐのだから当然だとレヴィ人なら思うかもしれない。しかしリチャードはそこまで割り切れていなかった。

「レティもアレックスもメイネス語を話せるなんて凄いですね。レヴィ語とメイネス語は似通ってもいないのに」

 パウリナは感心したように言う。実際彼女は嫁ぐ為に必要だったのだが、彼等は違う。特にスカーレットはこの婚約が調ってから覚えたと言っていた。国の為に出来る事をしたのだとスカーレットは言っていたが、その考えがパウリナにはない。しかし王太子妃になった以上、彼女もまたレヴィ王国の為に出来る事はやらなければいけないのだ。パウリナは心の中で改めて王太子妃として、リチャードの妻として正しく振舞わなければと決意をする。

「アレックスは出来ない事があるのか不明なほど、何でもこなす男だ」

「そうなのですね」

 パウリナは特にアレクサンダーに興味がなかったので適当に相槌を打つ。正直リチャードはアレクサンダーを買い被っているのではとさえ疑っていた。実際今日も結局何がしたかったのか、彼女にはわからずじまいである。

「自己紹介で護衛と言っていたので、普段はリチャード様の側にいるのですか?」

「基本業務はそうだが、父の命令で私の許可なく消える事も多い」

「知らぬ間に消えるのですか?」

「あぁ。各地に視察へ赴くのも近衛兵の仕事のひとつだ」

 リチャードの言葉にパウリナはそうなのですねと、再び適当に相槌を打つ。レヴィ王国が平和なので護衛の必要性は低いのかもしれない。それでも護衛ならば主から無言で離れるのはおかしいとしか思えなかった。ただ、近衛兵は多く存在するとは聞いたので、きっと安全ではあるのだろうと彼女は判断する。

 一方リチャードは何となく面白くない気分であった。パウリナの口からアレクサンダーの名前が出てくるのが、何と表現していいのかわからない気持ちである。その気持ちを隠すように彼は必死に他の話題を探す。

「ここでの暮らしで困っている事などはないか?」

「お気遣いありがとうございます。何も問題ありません」

 リチャードの問いにパウリナは明るく答えた。不安だった乗馬も問題なかったので、彼女は本当に何も困っていなかった。刻一刻と迫る王宮舞踏会も不安ではあるものの、それを彼に伝えても仕方がないとわかっている。

 パウリナの答えを聞いてリチャードは黙ってしまった。徐々に会話が続くようになったが、やはり彼は会話が苦手なのだろうと彼女は思う。しかし彼女はこの沈黙を気にしなくなっていた。会話がなくとも一緒にいられるだけで幸せだと思えるようになっていたのだ。しかし目の前の夫は沈黙を気にしているような気がした。

「リチャード様は何かありますか? 私に改善すべき点があれば何でも教えてください」

 パウリナの言葉にリチャードは口を開きかけてすぐに閉じた。

「私は妻としてリチャード様を支えたいと思っています。何でも教えてください」

「いや。リーナは頑張っていると思う」

 リチャードは微笑みながらそう告げたが、その笑顔は作りものみたいだとパウリナには感じた。語り合いたいと伝えたはずなのに、彼は言葉を良く呑み込んでいるように見える。まだ彼に信用されていないのだろうかと彼女は不安になるが、優しいが故に言葉に出来ないだけかもしれない。日々の生活は充実しているのに、彼との関係だけは物足りない気がする。しかし踏み込み過ぎて拒絶されるのが怖く、彼女は距離感を測りかねていた。

「そろそろ寝ようか」

 そうリチャードに言われてしまえば、パウリナは頷くしかない。誰に相談をすれば解決するのだろうと思いながら、彼女はベッドへと移動をした。

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