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謀婚 平和な次世代編  作者: 樫本 紗樹
大国の王太子と小国の王女

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結婚三日目の夜

 結婚三日目の夜。パウリナは昨夜同様の準備をして寝室のソファーに腰掛けながら、欠伸を噛み殺していた。午前中はグレースとスカーレットに会えて嬉しかったのだが、午後はレヴィ王国についての授業が始まったのである。乗馬に抵抗があった彼女ではあるが、長い時間あまり興味のない話を聞き続けるのは苦痛だ。乗馬やダンスの時間があるのは、気分転換の意味があるのかもしれないと思い至っていた。

 パウリナは置時計に視線を向ける。昨夜よりもリチャードが来るのが遅い。夜は会食予定が多く入っているので、一緒に食べる機会が少ないとは聞いていた。彼女も毎晩家族と食事していた訳ではないし、付き合いが大切なのもわかるので文句を言うつもりはない。ただ会食も執務の延長になるだろうから、楽しい食事とはならないだろう。彼女はレヴィに来てから食事の美味しさに毎回感動をしていた。調整すると言われた食事量は彼女にとって丁度いい量だったので文句もない。文句があるとするならば、夫と過ごす時間が少ない事だ。お互いを良く知っていくべきだと言った本人は、この時間をあまり重要視していないのかもしれない。

 パウリナはとうとう堪え切れず大きな口を開けて欠伸をした。用意しているハーブティーはリチャードが良く眠れるようにと選んだものなので、飲んでしまえば自分が寝てしまう。飲まなくても瞳を閉じればすぐに眠れるような気もする。やはり慣れない座学は良くない。無理のない範囲に減らしてもらおうか、しかしナタリーが配慮のあるものと判断した予定表を辛いと言うのは、王太子妃に相応しくないという烙印を押されないだろうか。彼女はそのような事を考えながら、とうとう睡魔に負けてそのまま眠りに落ちていった。


 扉を叩いても返事がないので、リチャードはそっと寝室の扉を開けた。そしてソファーで眠ってしまっているパウリナを見つけて安堵の息を零す。彼はソファーに近付き、テーブルの上にあるティーセットに気付いた。ソファーに腰掛け、掛けられている布を取りポットに触れると温もりを感じる程度。彼女を待たせ過ぎたのだと彼は反省した。そして折角自分の為に用意してくれたものだからと、彼はカップにハーブティーを注ぐとそのまま口に運んだ。慣れない事をしているので音が鳴っているはずなのだが、彼女は起きる気配がない。彼は温いハーブティーを飲み切ると妻を見つめた。

 リチャードは恋愛感情がどういうものなのかわからない。両親の仲が良いのはわかるのだが、子供の前でも基本的に国王と王妃の二人。父の政策の中に女性の医学などがあり、それが母を守る気持ちが発端だったというのは、成人して公務に関わり出してから理解した。子供六人のうち誰も母と一緒に寝る事が叶わなかったのも、父が母を独占したいだけだったのも理解した。王太子の自分でさえ、これだけ忙しいのだ。国王である父の負担は想像出来ない程だろう。母は自立した強い女性だからこそ、凭れ掛かっても優しく受け止めてくれるような包容力がある。そのような母故に働き過ぎる父を心配して毎晩一緒に寝ているのかもしれない。本当の所はわからないが、両親はお互い愛情を持っているのだろうと今の彼は思っている。

 リチャードは改めてパウリナを見つめた。瞳を閉じていると幼く見える。結婚当日には初夜が大事だと言い、二日目は自分の確認したい事を聞いた後ですぐ眠り、三日目の今日は最初から寝ている。彼には彼女が何に基づいて行動をしているのかわかりかねた。今日に関しては遅くなった自分が悪いので、彼女を責めるつもりはない。婚約期間中に彼女とどう接するのが正しいのか考えて、まずは会話をしてお互いを知ろうと思ったのだ。まさか身体の関係が先になるとは想像もしていなかった。だがこれも流された自分が悪いので、彼女を責めるつもりはない。触れ合う事でわかる事もあるだろうと思い直したのに、今の状況では何を彼女が望んでいるのか彼には何もわからない。

 リチャードは立ち上がると、パウリナの側まで歩く。そして暫く考えた。彼女をベッドまで運ぶべきだとは思うのだが、どのように抱えれば安全なのかわからない。彼は思わず自嘲的な笑みを零した。初夜の日に質問されて答えたのは嘘ではない。彼は結婚を楽しみにしていた。しかしこの三日間が楽しかったかと聞かれると、何とも表現しがたいとしか言いようがない。彼女を嫌いになってはいないが、彼女に対する気持ちがどういうものなのか答えられない。何もわからない男を愛するような女性もいないだろう。彼女は父親にレヴィ王太子妃の座を射止めてこいと送り出され、無事にそれを手にしただけだ。王族同士の結婚に愛などある方が珍しい。両親が異例なのは彼自身わかっている。

 リチャードが迷っていると、パウリナが身じろぎをした。答えが出なかった彼は彼女を起こしてベッドまで歩いてもらおうと、その場で腰を下ろして声を掛ける。

「ここで寝ては体調を崩す。ベッドまで行こう」

 リチャードの声に反応し、パウリナは目をこすって薄目を開ける。しかしまだ寝ぼけているようだ。

「眠いので運んでください」

 そう言ってパウリナは薄目のまま腕を広げた。リチャードが困惑して迷っていると、彼女は彼の首に腕を回す。

「おねがい」

 パウリナはリチャードに抱き着いて、彼の耳元でそう告げる。彼は困惑したまま首を回そうとしたが、彼女が強く抱き着いているので顔が見えない。しかも完全に身体を委ねられているので、ここで腕を振りほどくのも違う気がした。彼は彼女の膝の裏と脇の下に腕を入れて彼女を持ち上げる。彼は別段鍛えていないが距離が短いので問題なくベッドの脇まで移動をして、彼女をベッドに下ろした。

「ありがとう」

 パウリナはそう言うとリチャードの頬に口付けて、腕を離す。一瞬の出来事に驚いた彼が彼女を見つめると、彼女は既に寝息を立てていた。

「貴女は私をどうしたいのか」

 リチャードは困ったように眉尻を下げながらも、表情は満更でもなさそうである。彼は掛布を持ち上げてパウリナに掛けると、穏やかな表情で眠る妻を暫く見つめていた。

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