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謀婚 平和な次世代編  作者: 樫本 紗樹
幕間 その2

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義理姉妹の茶会

 スミス公爵家の庭には四阿がある。公爵夫人であるフローラはあまり社交性が高くないので、邸宅での茶会は滅多に催されない。次期公爵となる嫡男エドガーが第一王女アリスと結婚しても状況に変化はなかった。故にこの四阿を使用するのはほぼスミス公爵家の人間である。そして今日はその四阿でアリスとグレースの茶会が催されていた。

「本日はお招き頂きありがとうございます」

「あら、そのような他人行儀な挨拶はやめて欲しいわね」

 丁寧に接するグレースにアリスはおどけたように答え、二人は顔を見合わせて微笑む。アリスが結婚してそれなりの月日が経っているが、エドガー夫妻は別邸を建てて暮らしており、グレースも女官見習いとして忙しくしていたので、このように四阿で会うのは初めてだった。

「エドガーと接するのと同じ態度で問題ないわよ。ここにはもう監視はいないのだから」

「あの方ならここにも潜入させそうな気もするのですが」

「王家の人間ではなくなった以上、近衛兵に私の監視をさせられないの。そもそも王女の監視は近衛兵の仕事ではないのよ」

「王妃殿下には続けられているのですよね?」

「以前母を狙った事件があったから名目があるのよ。そもそも何故か母は受け入れているから、近衛兵も仕方なく従っているのだと思うわ」

 アリスは視線を落とす。王妃ナタリーを狙った事件は大事にはならなかったものの、スカーレットが怪我を負い近衛兵を辞めるきっかけとなった。気にしなくていいと言われたものの、アリスは未だに申し訳ない事をしたと悔やんでいる。

「レティなら楽しそうにしているわよ」

 アリスの心境を悟って、グレースは明るい声を出した。言葉も崩したことで、アリスもグレースの気遣いに気付き、視線を上げて微笑む。

「一緒にパウリナ殿下に会いに行くか検討中なの」

「わざわざ?」

「手紙でやり取りしているとはいえ言葉の壁がないわけではないから、直接会って意見を聞きたいとなったの。向こうには有能な通訳もいるから」

「キアーラね」

 アリスは以前、メイネス王国を知る為に一人の商人と会った。それがキアーラである。キアーラはケィティ人だがメイネス王国とレヴィ王国で商売をしているので、レヴィ語もメイネス語も堪能なのだ。

「えぇ。それと彼女の父親であるアルロさんがサリヴァン公爵夫人のレヴィ語の教師で、彼も有能らしいの」

 サリヴァン公爵夫人ボジェナはメイネス王国出身者である。レヴィ国立大学の試験はレヴィ語しか用いられないが、それにもかかわらず一度で合格し、しかも彼女は最高得点をたたき出している。その点を踏まえてもアルロが如何に有能な人物なのかはアリスにもわかった。

「許可が下りるのなら訪ねてみるのはいいと思うわ。隣国とはいえ、環境はそれなりに違いそうだから」

「アリスも一緒に行く?」

「私は遠慮しておくわ」

「エドガーお兄様が許してくれないの?」

 グレースは心配そうな表情をしている。義理の妹が要らぬ心配をしているのをアリスは知っていたが、あえて放置していた。しかしそろそろ伝えるべきかもしれないと、アリスは微笑みを浮かべる。

「私が誰の娘なのかを忘れてはいけないわよ、グレース」

 父親と同じ表情を浮かべるアリス。顔が似ているだけにその恐さも同じくらいである。レヴィ王家の血縁者に引き継がれるという、相手に有無を言わせない鋭い視線。グレースも話には聞いていたものの、目の当たりにしたのは初めてだ。

「その視線をエドガーお兄様にも向けたの?」

「必要と思えば向けるかもしれないわね」

「それなら何故私に向けたの? 鳥肌が立ったわよ」

 グレースは両腕をさすりながらアリスを見つめた。そのようなグレースを見ながら、さすがリアンの愛娘だとアリスは感心をする。相手を黙らせる視線であるにも関わらず、グレースはすぐに言葉を発した。敵に回すと面倒な性質であるが、リアンもグレースも王家に反抗心を持っていないのが救いである。

「心配しなくてもいいと伝えたかったの。私はエドガーの心が満たされるように、かつ私が満足できるように振舞っているから」

「つまり今までエドガーお兄様の言うことを聞いているふりをしていたの?」

「人聞きの悪い言い方をしないで。エドガーを愛しているのは事実だから」

 アリスは微笑んでいるが、瞳の奥の意図までグレースには図り切れない。国王であるエドワードに一番似ていると言われた第一王女アリス。普通に考えればエドガーが御しきれる女性ではないのである。

「二人が幸せなら私が口を挟むことは何もないわ」

「私は口を挟みたいのだけれど、ジミーとはどうなっているの?」

 アリスに問われ、グレースは身体を強張らせる。そして視線を外した後、用意されていたものの手を付けていなかった紅茶を口に運んだ。

「その様子だと上手くいっていないのね」

「別に婚約解消すればいいだけの話だから」

 グレースはそう言ってティーカップを戻すと、用意されていた焼き菓子に手を伸ばす。アリスは優しい表情を浮かべた。

「グレースが姉という立場に憧れて、そのように振舞っているのは知っているわ。けれども私には妹として接してくれていいのよ。私は六人きょうだいの長子であり、グレースの義理の姉なのだから」

 アリスは出来るだけ優しい声色で言葉を紡いだ。グレースは何でも器用にこなすが、恋愛面に関しては不器用である。婚約者であるジェームズも不器用な男であり、正直二人で恋愛関係を発展させるのは難しいのではないかとアリスは思っていた。だがグレースの周りにそれを指摘する友人がいるとは思えず、それ故に今日茶会を催したのだ。

「遠慮しなくていいわよ。愚痴を吐き出したら視界が開ける可能性もあるから」

「面白い話はひとつもないわ」

「グレースには面白くなくても、私には聞く価値がある可能性があるわ。それに現状のままでいいとは思っていないのでしょう?」

 アリスに優しく微笑まれ、グレースの心は揺らぐ。グレースは家族に愛されて育ってきたが、愛されているが故に父と兄達はジェームズとの婚約は納得いっていない様子である。母フローラは受け入れているが、相談には向かない相手だ。そして多少の愚痴は漏らしているものの、ジェームズに対しての事を本音で語った事は今までなかった。

「本当にいいの?」

「遠慮するような仲ではないでしょう?」

 包容力を感じるアリスの笑みにグレースは完全に落ちた。彼女の姉への憧れはそもそもアリスへの憧れだったのだ。六人きょうだいの長子は頼りになると、グレースは今まで誰にも言えなかったジェームズに対する不満を滔々と話し出した。次から次へと出てくる愚痴にアリスは優しい表情を浮かべて耳を傾けながら、ジェームズに如何に制裁を加えようかと考える。

「確認だけれど、ケイトは新婚生活が上手くいっているのよね?」

「えぇ。最近は常に惚気ているわよ」

 グレースは一気に話して疲れたのか、茶菓子を食べて紅茶を飲んでいた。アリスは声が聞こえない程度に離れた侍女に合図をして紅茶のお代わりを要求する。

「それならグレースもジミーの相手をせず、女官見習いを頑張ればいいのよ。メイネス王国にも行くべきだと思う」

「それに意味がある?」

「ジミーは甘えているのよ。グレースは結婚してくれると。実際、婚約解消する気はないのでしょう?」

 アリスの問いかけにグレースは視線を逸らす。口ではいつでも婚約解消すると言っているが、グレースは現状解消する予定はない。アリスに嘘は通用しないだろうと、グレースは視線を逸らしたまま頷いた。

「いつでも婚約解消できるのだと行動で示すべきなの。手綱は結婚前から握るべきだわ」

 アリスは笑みを浮かべた。その笑顔は優しそうに見えるのに、どこか怖さも感じるもので、グレースは改めてアリスが王家の人間だと思い知らされた。

「ジミーにはケイトの惚気を聞かせた方が良いわね。少し裏で動くわ」

「裏なの?」

「表立って動くと嫉妬する困った人がいるから」

 アリスは笑みを深めた。グレースはつくづくアリスが味方でよかったと思う。しかし兄には同情をしない。エドガーがアリスの本性までわかっているかは不明だが、別れるという選択肢など持っていないのは間違いないのだ。故にグレースも笑顔を浮かべる。

「頼りになる姉が出来て嬉しいわ、アリスお義姉様」

 二人が微笑み合っていると、侍女が新しい紅茶を持ってきた。そして冷めてしまった紅茶をカップ毎下げて、新しく用意したティーカップに紅茶を注ぐと一礼をして去っていく。

「それでは姉妹として改めて友好を深めましょうか」

「えぇ」

 こうして声の聞こえない場所に控えている侍女からは和やかに見える茶会は滞りなく行われた。

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