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謀婚 平和な次世代編  作者: 樫本 紗樹
公爵令嬢と侯爵令息
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妹の願い

 ヨランダの部屋に幼なじみ四人が集まっていた。ケイトがヨランダに手紙を書き、ヨランダがスカーレットとグレースを誘ったのである。

「こういうのは見ているだけで楽しいわね」

 ヨランダはケイトが持ち込んだ家具の一覧表を笑顔で見つめる。そこには色々な種類の家具が図解付きで載っていた。

「どれも良くて目移りしてしまうのよ。必要以上に購入しても仕方がないのだけれど、決めきれなくて」

「わかる。私もこのソファーを選ぶのに結構迷ったもの」

 ヨランダの部屋にある家具は彼女が成人した際に購入したものだ。元々は王宮内にあったものを使っていたのだが、成人の祝いにエドワードが彼女の好きな物を選ばせてくれたのである。ちなみにこの対応は娘にしかしておらず、アリスは家具を降嫁の際に持ち出さず王宮内の彼女の部屋に全て保管されていた。これはいつ離婚して戻ってきてもいいというエドワードの意思の表れだが、アリスが戻ってくる事はないだろう。

「レティはどうしたの?」

「私は何も決めていないわ。ハリスン家だもの」

 スカーレットの言葉に三人は同情の眼差しを彼女に向けた。しかし彼女は家具に拘りがなく、ウォーレンが選んだ物の方がいいと思っている。

「ウォーレンの屋敷に妙な物は置けないわよね」

「昔からハリスン四兄弟は衣服も拘りが強かったものね」

 彼女達もお金に困っていないので、身に着けるものは一級品ばかりである。しかしウォーレンの選んだ物は逸品ばかりだ。甥達にそこまで拘る必要があるのかと思うが、ウォーレンに逆らう方が面倒だと全員が従っていた。

「グレンは今でもウォーレン様が選んだ物を着ているの?」

「成人してからは自分で選んでいるけれど、気に入らないものは言われるみたい」

「えぇ? それはレティも対象なの?」

 ヨランダは驚きを隠さずスカーレットに問いかけた。ヨランダは自分で選んだ物しか身に付けないし、誰にも文句を言わせない。

「私は自分の感性に自信がないから母に任せているの。母が選ぶものは大丈夫だから」

「結婚したのだから自分で買いなさいよ」

「もしくはグレンに選んで貰いなさいよ」

 ヨランダとグレースに言われてスカーレットは困り顔をした。スカーレットは身に着ける物にどちらかと言うと無頓着なのだ。勿論審美眼を鍛えられてはいるのだが、好みとは違うので諦めている。

「私の話はいいでしょう? 今日はケイトの家具を選ぶのだから」

「そうね。その話はまた後日として、今日は家具を選びましょう」

 ヨランダがそう言って、ケイトの新居に置く家具の選定を再開した。四人はあれでもない、これでもないと一覧表を見比べながら楽しく家具を選んだ。

「本当にありがとう。新居にも遊びに来てね」

 家具を一通り選び終えた後、四人は茶会へと移行していた。ケイトは満面の笑みで三人にお礼を言う。

「招待を待っているわ。招待状がないと王宮から出られないから」

 ヨランダは真剣にケイトに頼んだ。王族が王宮から公務以外で外出するのは簡単ではない。ヨランダは一度王都を歩いてみたいのだが、父に頼んでも許可は貰えず未だに叶っていなかった。

「レティもグレースも、いつでも待っているわよ」

「アリスからは連絡ないの?」

 スカーレットの問いにヨランダは首を横に振った。

「お姉様から手紙は届くのだけれど、招待状は来ないわ。この前舞踏会があったのでしょう? 元気だった?」

 ヨランダには先日の舞踏会の招待状も届いていなかったので、参加したであろう三人に話を聞きたくて尋ねる。しかしケイトは首を傾げた。

「舞踏会? 何の話?」

「ケイトも招待されていないの? レティは?」

「私はグレンと一緒に参加したわ。元気ではあったけれど、アリスらしさがなかったかも」

「どういう事?」

「アリスが前面に立っているのではなくて、エドガーを立てていたの。アリス主催という感じもしなかったのだけれど、私はスミス家の舞踏会が初めてだからわからなくて」

 スカーレットは困ったようにグレースに視線を向ける。グレースも困ったように微笑んだ。

「あれは兄主催よ。兄の独占欲が強く出た結果」

 エドガーを良く知るグレースはアリスに結婚前に忠告をした。結婚後に十日休みが欲しいと言ったエドガーの希望を退けて三日に減らしたのは良くないと。しかしアリスはその忠告を聞かず、結果エドガーの独占欲が強くなった。エドガーはアリスが自分以外の人間と関わるのを極力避けている。舞踏会も慣例上開催を避けられなかったのだが、アリスはごく一部の人間に挨拶をしてすぐに退場していた。

「もしかして父以上に危険?」

 ヨランダは困惑しながらグレースに尋ねた。ヨランダは結婚相手に相応しくない男性の一人はエドワードだと思っている。両親の仲が良いのは疑っていないが、それは相手がナタリーだから成り立っているのだ。勿論結婚相手がナタリー以外の場合、淡々とした政略結婚になる所まではヨランダは気付いていない。

「どちらが危険かはわからないけれど似ていると思うわ。それでも心配しないで。私がアリスの様子を確認して適時兄に忠告をしているから」

 グレースは笑顔で答えた。エドガーを落ち着かせるのは自分の役目だと思っているのだ。まだ結婚して日が浅いので難しいが、時間が解決するとも思っている。

「もしかして父が反対していたのは、エドガーに対しての同族嫌悪?」

「陛下はアリスの結婚相手が誰でも反対したと思うけれど」

「確かに。私も反対されるのかしら。まだ相手も見つかっていないけれど」

 ヨランダは憂鬱そうに視線を伏せて紅茶を口に運ぶ。そんな彼女にグレースは笑顔を向けた。

「私も相手は見つかっていないわ」

「ジミーはどうしたの?」

 ヨランダはグレースをまっすぐ見据えた。前回話を聞いてから時間が経っているので、そろそろ纏まっていると思っていたので意外だったのだ。

「ただの幼なじみだけれど」

「兄の気持ちはまだグレースに届いていないの?」

 ケイトは驚いたようにグレースを見る。ケイトはジェームズとグレースが纏まっている頃合いを狙ってヨランダと会う日を設定していたのだ。まさか何も進展していないとは思っていなかった。

「ジミーがどこまで本気なのか正直わからない」

 グレースは正直に自分の気持ちを言葉にした。自分に好意を抱いているだろうとは思うが、それが自分の望んでいる恋愛感情なのか判断出来ないのである。

「兄はわかり難いけれど本気よ」

「ジミーにはときめかないの」

 グレースに言い切られてケイトは口を噤む。兄が格好いいと一度も感じた事のないケイトには、ときめかないのは仕方がないとしか思えなかったのだ。

「あの兄が恋愛出来ると思っていた私が悪いのよね」

「私以外の女性が現れるかもしれないわ」

「それは想像出来ない」

 ケイトも言い切り、ヨランダも頷いている。しかしスカーレットは首を傾げた。

「ジミーは元々結婚しないつもりだったのだから、独身同士で仲良くするのではいけないの?」

「家は弟が継げば問題はないのだけれど、あの兄がいる家に嫁いでくれる女性はいると思う?」

「ジミーは基本他人に無関心なのだから問題ないと思うわ」

「それはグレースだから言えるのよ」

 ケイトは呆れている。グレースはケイトの言いたい意味はわからないが、ヨランダはケイトを肯定するように頷き、スカーレットも困ったような表情を浮かべている。ジェームズとの同居は嫌がられるのだとグレースは把握した。

「それなら弟夫婦を一旦別の家で生活させて、ジミーが亡くなった後に戻せばいいわ」

「それしかないわよね。弟は普通なのに」

 ケイトは小さく息を吐くと紅茶を口に運ぶ。そしてグレースに視線を向けた。

「兄の幼なじみとしては今後も付き合ってほしいのだけれど、それはお願い出来るかしら」

「勿論。パウリナ殿下の会議もあるから」

「その会議も私は心配しているの。リックを思うあまり暴走しないように助けてあげてね」

「今の所大丈夫だけれど、気に留めておくわ」

 グレースの言葉にケイトは安堵の表情を浮かべた。それを見てグレースは今までの会議を思い出す。そう言われると厳しい発言が多かったかもしれない。グレースは次の会議の時は全体を俯瞰するつもりで参加しようと決めた。

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