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謀婚 平和な次世代編  作者: 樫本 紗樹
公爵令嬢と侯爵令息
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王太子の食事会

 レヴィ王国では、王太子の側近は公爵家嫡男が務めるのが慣習となっている。現国王エドワードの側近の一人が異母弟フリードリヒなのは、側近であったハリスン公爵家嫡男が病死した数年後にエドワードが指名したからである。この側近の慣習に王太子リチャードも倣ってはいるが、今までとは少し違う。

 公爵家嫡男が王太子の側近の座をものにする為には、年齢が近くなくてはならない。何故なら側近になる前に学友として共に育ち、その後で側近に選ばれるからである。しかしリチャードと同じ年の公爵家嫡男はいない。これはエドワードが結婚してからリチャードが生まれるまでに約七年を要している事と、約二十年の間に公爵家のうち二家がなくなり新たに二家増えた事に因るだろう。増えた公爵家の当主はどちらもエドワードの異母弟である。

 そのなくなった公爵家のひとつはクラーク家であるが、家門名をベレスフォード家に変えただけだ。もうひとつはレスター家である。当主が国家反逆罪で裁かれ、領地は国に没収された。しかしその当主の嫡男スティーヴンが父を訴えた為、彼は現在リスター侯爵家当主として国王の側近を務めている。スティーヴンはエドワードの忠臣であり、息子の学友が欲しいとエドワードに言われて妻との間に子供をもうけた。それがジェームズである。

 幼なじみとして一番年齢が近かった事もあり、リチャードとジェームズは幼い頃から一緒に遊び、学友として共に励んだ。しかし侯爵家の嫡男である以上、王太子の側近とするのにエドワードは躊躇った。その為、エドワードが選んだのはスミス公爵家嫡男エドガー、ベレスフォード公爵家嫡男オースティン、ハリスン公爵家当主の弟の嫡男グレンである。ハリスン公爵家だけ甥なのは当主が生涯未婚を宣言しているからだ。

 そのハリスン公爵家当主ウォーレンは、側近になれなかったジェームズを将来の宰相候補として育てたいとエドワードに相談をした。国王と宰相は同じ未来を見ている方が国政は安定する。エドワードも国王になるには優しすぎる息子を心配し、ウォーレンの希望を受け入れた。またジェームズも打診された時、二つ返事で了承をした。

 リチャードの治世が盤石であるようにと親世代が整える中、次世代もそれぞれの意思で動いていた。リチャードは父と同じ政治は出来ないと悟っていた為、多くの貴族と交流を持つようにしている。そして時に親しい者だけで夕食をとる。今夜はリチャード、オースティン、ジェームズ、アレクサンダーの四人で夕食を囲んでいた。

「この前エドガーに話していた件、その後は順調?」

 リチャードは自分の婚約が調ったので、オースティンの結婚が気になり尋ねる。

「魅力的な女性に出会えました」

 オースティンは嬉しそうにそう告げた。それを聞いてリチャードも笑顔を浮かべる。リチャードは成人してから数え切れない程の女性の釣書を見てきただけに、苦労せず見つかってよかったと心から思ったのだ。

「ただ、彼女の気持ちは私に向いていないのです。それでアレックスさんに女性との距離の詰め方を教えて欲しいのですが、どうですか?」

 オースティンは期待の眼差しをアレクサンダーに向けた。オースティンにはアレクサンダーが恋愛経験豊富に見えている。アレクサンダーはそれを踏まえた上で微笑んだ。

「相手の女性によるけれど、くだらない嘘は吐かないに限ると思う」

「私は嘘など吐きません。それよりも贈り物は何がいいでしょうか?」

「それは俺に聞いても無駄だよ。相手の喜ぶ顔を想像しながら選ばないと」

「それが難しいから聞いているのではありませんか。殿下はパウリナ殿下に何か贈られましたか?」

 アレクサンダーから的確な助言がもらえないと思ったオースティンは視線をリチャードに向けた。

「私は日持ちのする菓子を贈っている」

「菓子ですか。それは彼女の方が詳しそうなので難しいですね」

 オースティンは落胆しているようだ。リチャードはパウリナが一番喜ぶだろう物を贈っているつもりだったので、その反応は面白くなかった。

「クラーク領は小麦の産地だ。産地ならではの菓子はないのか?」

 リチャードの言葉にオースティンは表情を明るくした。

「領地の特産品を贈るのは良さそうですね。調べてみます。ありがとうございます」

「差し支えなければその魅力的な女性を教えてもらえないか」

「スミス家のグレース嬢です」

 聞き慣れた名前が出てきてリチャードは驚く。ジェームズも驚くが表情には出さず、アレクサンダーは笑顔のままだ。

「彼女は女官見習いをしているはずだが」

「えぇ。ですが母は働きながら私を育ててくれました。働く女性でも私は特に気にしません」

 はっきりとそう言われてしまえばリチャードも反論するわけにはいかない。女性が国政に参加するのを彼も否定したくないのだ。これ以上は話を聞かない方がいいだろうと、彼は別の話題に切り替える事にした。


「あの態度、アレックスは知っていたのだな」

 食事が終わり、オースティンが帰宅して部屋には三人が残っていた。知っていたなら先に教えておいてほしいとリチャードはアレクサンダーに視線で訴える。

「それで四阿で話をしていたのか?」

「四阿?」

 事情がわからないリチャードを無視してアレクサンダーはジェームズに笑顔を向ける。

「グレースには幸せになってほしいからね」

「私では幸せに出来ないと言いたいのか」

 ジェームズは苛立たしそうだ。それをアレクサンダーは宥めるように微笑む。

「選ぶのはグレースだ。俺は口を挟まないよ」

「それなら何故四阿で話をしていた?」

 ジェームズはこれ程面倒な男だっただろうかと思いながら、それを表情には出さすにアレクサンダーは微笑む。

「恋愛感情をお互い持たない幼なじみが世間話をするのに理由がいるのか?」

「だが意味深な話をしていた」

「別に意味深じゃない。俺も恋愛結婚がしたいだけだよ」

「アレックスは私を応援してくれていると思っていたのに」

「俺はグレースの味方かな。グレースは笑顔が一番似合うから」

「そうだな。グレースの笑顔は周囲を幸せにする力がある」

 それをグレースに伝えればいいのにとアレクサンダーは思ったがあえて言わなかった。彼はグレースが己の意思で伴侶を選ぶべきであり、オースティンにもジェームズにも肩入れはしないでおこうと思っているのだ。それでも作戦さえ間違えなければジェームズの方が可能性はあると推測している。

「知らぬ間にグレースが人気者になっている。私には未だに妹にしか見えないのに」

「リックはグレースが妹以外に見えるようになったら面倒だからそのままでいいんだよ」

「確かにそうだな」

「それにグレースは元々評判がいい。本人も家族も恋愛結婚以外に興味を持っていないから、誰も婚約まで辿り着けないだけで」

 アレクサンダーはグレースの境遇に同情をしていた。彼もまた政略結婚など必要のない立場にありながら、この人と思える女性に出会えていない。似たような状況ではあるものの、公爵令嬢であるグレースの方が世間の目が厳しいのは間違いないのである。

「私が必ず辿り着く」

「うんうん、頑張れ」

 アレクサンダーの棒読みの応援にジェームズは不満気な視線を向ける。

「適当過ぎるだろう」

「だから俺はグレースの味方」

 アレクサンダーは満面の笑みをジェームズに向ける。ジェームズはそれが不満だが返す言葉は見つからない。必ず辿り着くと言葉にしたものの、その道は一切見えていないのだ。

「オースティンはグレースの望む恋愛結婚を出来るのだろうか」

「どうだろう。彼の両親にはそういう雰囲気がないから」

「それは当家にもない」

 ジェームズの両親は決して仲が悪い訳ではない。二人で観劇に行く時もある。しかしグレースが憧れているような夫婦ではない気がする。

「恋愛結婚とはこれ程難しいものだったのか。余程仕事をしている方が楽だ」

「一生独身が嫌ならば、誰かの側近のような発言はやめた方がいい」

 アレクサンダーの指摘にジェームズは顔を顰めた。父親を揶揄されたからではない。父より社交性があると思っていたのに、大差がないと気付いてしまったからだ。ジェームズは血は争えないのかと落胆しつつ、どうすればいいのか必死に考える。それをアレクサンダーとリチャードは黙って見守っていた。

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