進む
神社の前を通り過ぎると、
頭上を烏が鳴きながら
飛んでいった。
雨上がりの昼下りになる。
蒸し暑さは変わらず、
日が差してきた分、
尚更、暑くなりそうで、
疲れたなと呟いていた。
蒸し暑さは即ち、疲れと
感じるのは、子供の頃から
変わっていない。
他所の人もそうではないか。
いつものように父親の世話に
向かおうとしていた。
その後で仕事もあった。
早めに事を運びたかった。
ふと烏の鳴き声が
久しぶりに聞こえたと思った。
晴れてくるからだろうけれど、
予報は曇のマークだった。
雨は降らないとしても、
曇り空が続いてゆくらしい。
それを知るたびに、
それでも乾くと覚悟する。
大した意味はない。
畑の水やりを思うだけで。
傘のマークを見ても、
降らないと安心できない。
親の世話と仕事と畑と、
それから、あれとあれと、
あれとあれと、を
思い浮かべては疲れている。
いつも、何にも考えすに、
休日はテレビを見ながら、
居眠りをしていること、
それしか頭にはなかった。
なるようになる、で、
曇り空のような日常を
傘を持つか持たぬか考えずに、
ご都合主義で暮らしてきた。
そうであったから今で、
そうであったからここで、
たくさんの、あれ、を
抱えたのは間違いない。
烏は鳴きながら、
どこかへ飛んでゆくもの。
大切な巣に帰ったか、
仲間のいる餌場に行ったのか。
なるようになるでは、
それはずっとわからない。
自分の方向さえも、
曇り空の下、霧の中だ。
おーい、誰かいないか。
神社の森に声をかけたくなる。
蒸し暑いのは疲れたと同じ。
だからね、少しでも進む。
烏の行く先がわからなくても、
向いている方向が見えなくても、
疲れたと感じて止まることは、
自分らしくないとして。
神社の前を通り過ぎたのは、
父親の家に行くからだった。
烏と蒸し暑さのせいか、
仕事も一緒に少し忘れていた。