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5話壺 1/2

 月末。この時期になると、毎月飲み会が開かれる。飲み会といえば、酒の力を借りることで皆が明るくなり「一発芸やります!!」「○○さん、一気飲みするって~」などわいわいと騒ぐ、そんなイメージ。

 しかし、僕が入っている大学のサークルの飲み会は、そんな愉快を絵に描いたようなものとは異質のものだった。


 オカルトサークル。僕が所属しているサークルである。運動を面倒だと感じてしまう僕が「大学ではサークルに入るのが当然だろう」という周りの声に気圧さて止む無く選んだのが、唯一興味のあるオカルトだったのだ。


 このオカルトサークルでの飲み会が他とは異質だった。毎回十人ほどで集まり、順々に怖い話をしていく。その話をツマミに酒を飲むという変わり者達による宴なのだ。


「お、サークルからのお知らせだぜ」

同じサークルの友達と昼飯を食べているときに、丁度メールが届いた。


『今月も三十日に飲み会やります。場所・時刻はいつも通りで。今回は、ゲストも来るので是非参加して下さい。』


「今回は、お前がいつも話してるあの人が来るんだろ?楽しみだな」

と僕の肩を友人が叩いてきたので、期待してろよと返しておいた。

 そう、今回の飲み会はいつもとは一味違うのだ。異質な宴のなかでも異質な回。僕に恐怖というスパイスを与えてくれる人、あの人に無理を言って参加してもらうのだ。


飲み会当日。

この日はたまたま講義がなかったので昼まで寝て過ごし、準備などいろいろ行ってから一時間ほど早く家を出た。ゲストを呼びに行くため、家まで迎えに行く。


 家のチャイムを鳴らすと

「もう来たのか。まだ時間には早いだろう」

と今回のゲストであるユキタカさんが出迎えてくれた。"まだ準備してない"と家の中へ招かれる。


「ルーズそうに見えて、時間にはキッチリしてるんだな」

「いや、今回が特別なだけですよ。凄く楽しみですからね。皆も今回の飲み会が待ち遠しいって言ってましたよ」

あっそ、とユキタカさんが寝転がる。よく考えると、普段から化粧などしていないので、準備なんて何もないじゃないかと気が付く。


その後も、ユキタカさんが時間ぎりぎりまで寝転がっていたので、急いで家を出るハメになった。


「あ、ちょっと待て。忘れ物」

とユキタカさんが引き返す。戻って来た彼女の手には大きな鞄が握られていた。何ですか?と聞くと


「それは見てからのお楽しみ」

と笑顔ではぐらかされた。





ーーー危うく集合時間に遅れるところだったが、なんとか時間に間に合った。


「えー、今月もオカルトサークルによる飲み会を行います。今回は、特別ゲストとして、普段からお話に聞いているユキタカさんに参加してもらいました」

では、皆さん楽しみましょう、と部長がビール片手に挨拶をした。乾杯する。


「それでは、今回も交代制で行きましょう。では俺から」

と部長から順々に怪談を話していく。

 今回はなかなか面白い話ばかりだ。皆、ゲストが来るということで力が入っているらしかった。

 僕の番になる。僕はいつも、ユキタカさんと体験した出来事を話しているので、今回も体験談について話した。

 つい最近出向いた廃墟についてだ。最初は、何も起きないのでただの廃墟じゃないかと思っていたのだが、ユキタカさんが「ルール」について語りだした所から雲行きが怪しくなった。その後、二人で風呂場を見に行き、天井に張り付いているヒトらしきものを見つけたと話す。


「うわぁ、それは怖かったな。俺もルールの辺りで鳥肌が立ったよ」

部長が感想を述べてくれた。皆も僕の体験談は怖かったらしく"本当にそんな体験するんだな"と怖がってくれた。普段から作り話じゃないかと疑っていた先輩も


「ほんとのこと」

とユキタカさんが言ってくれたので信じてくれたようだ。ただ

「こいつは走って逃げたよ」

この発言は余分だったが。


 僕の後も怪談が続き、盛り上がってきたところでユキタカさんの番となった。

 ユキタカさんは、吸っていたタバコを消し「では」と咳払いをする。

「まずは挨拶代りに一つ」


 これは夢の話。体験者は普段から「これは夢だ」と気付くことがあるらしく、このときも夢だと分かったらしい。

 夢の中では、体験者は一人で駅のホームで電車を待っている。そこへ


「 まもなく、電車が来ます。その電車に乗るとあなたは恐い目に遇いますよ~」

と精気のない男のアナウンスが流れる。


 何を言っているんだ?と不思議がっているところへ電車、といっても普通の電車ではなく、遊園地にあるようなお猿さん電車のようなものがやってくる。


 中には数人の顔色の悪い男女が一列に座っている。

体験者は、変な夢だなと思いつつ、自分の夢がどれだけ自分自身に恐怖心を与えられるか試してみたくなり、その電車に乗った。いざとなったら、自分から目覚めることができると考えたのである。


 体験者は、電車の後ろから三番目に座った。辺りは生暖かい空気が流れており、本当に夢なのかと疑うほどリアルな臨場感があった。


「出発します~」

と男の声。これから何が起こるのだろうと不安と期待でドキドキしている。


 電車は、ホームを出るとすぐにトンネルへ入った。トンネルの中は紫色で怪しく照らされている。この光景は、子供の頃に見た遊園地の景色だなっと考えていると


「次は活けづくり~活けづくりです」

とアナウンスが流れる。活けづくり?魚の?などと考えていると、急に後ろからけたたましい悲鳴が聞こえる。


 振り向くと、一番後ろにいた男性の周りにぼろきれのような物をまとった小人が群がっている。よく見ると、男性は刃物で体を裂かれ、本当に魚の活けづくりのようになっていた。悪臭と男性の悲鳴が響く。


 体験者のすぐ後ろには髪の長い女性が座っていたが、男性の悲鳴に反応することもなく、黙って前を向いたまま気にもとめていない様子。体験者は想像を超える展開に驚き、怖くなったのでもう少し様子をみてから目を覚まそうと思った。

 気が付くと、一番後ろの席の男性はいなくなってしまい、赤黒い血と肉のみが残されている。


「次はえぐり出し~えぐり出しです」

と再びアナウンスが流れる。すると今度は二人の小人が現れ、ぎざぎざのスプーンで後ろの女性の目をえぐる。平然と座っていた女性は一変し、鼓膜が破れるかと思うほどの大きな声で悲鳴をあげる。


 体験者はこれ以上付き合ってられないと、夢から覚めようとするが


「次は挽肉~挽肉です」

とアナウンスが流れてくる。後ろからは小人が何か機械を運んでくる。機械からは「ウィーン」と音がする。その音がだんだんと大きくなって顔に風圧を感じ、もうだめだと思った瞬間に目が覚めた。


 どうやら、なんとか悪夢から抜け出すことができたようだ。この夢のことを友人に話しても、皆面白がるだけだった。所詮は夢だから。


 それから四年が経ち、大学生になった体験者はこの出来事を忘れて過ごしていた。そんなある晩……


「次は挽肉~挽肉です」

あの場面からだった。

やばいと思い『夢よ覚めろ、夢よ覚めろ』とすぐに念じ始める。しかし、今回はなかなか目覚めることができない。小人がやってくる。挽肉にするための機械を持って。

夢よ覚めろ、夢よ覚めろ

顔に風圧を感じる。


……周りがふっと静かになった。目覚めることができた。今回も何とか逃げられたと思い、目を開けようとしたとき


「また逃げるんですか~?次に来た時は最後ですよ~」

とあのアナウンスの声がはっきりと聞こえた。




ーーーユキタカさんが話終えると、皆顔を見合わせた。怖いからではない。

 皆、当然のように知っている話なのだ。


 猿夢。僕もインターネットで読んだことがある。確か、この話を読んだ人も同じような夢をみるという、有名な都市伝説だ。しかし、読んだ後も僕自身は何も起こらなかった。今でも多少の怖さは残っているが、ユキタカさんが話すネタとしては意外だ。他の皆もそう感じているようだ。


「猿夢ですよね?僕も聞いたことがありますけど、怖いですよね……」

部長が気を使ってくれているが、実際は皆『ユキタカさん』ってこんなもんなのか?と拍子抜けしていた。

そんな中、ユキタカさんが


「気を使ってくれなくていいよ。これくらいオカルトマニアなら知ってるだろ?」

だから挨拶代りだよ、と付け加える。


「この話は、知った人にも影響が出るという都市伝説だ。今の所、私には何も起こってないがな」


「私がしたいのは"知った人にも影響が出る"話さ」

そう言うとユキタカさんが、ある場所の地名を上げた。同じ県に住む人なら大体が知っている所だ。

そこの山にある神社の話だっと、ニヤッと笑った。


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