追放された英雄の子は世界樹産モンスターと化して病弱な妹のために復讐します~クズ人間まで守るのはやめました。村にもどってもいい?もう遅いしお前を生かす選択肢はないぞ?~
「ヒロ、悪いが村をでていってくれんか」
曲がった腰を抑えながら村長のグースがうつむき告げた。
端的に言えば追放。
村の英雄、その息子の俺に出ていけと言う。
玄関口でかたまる2人。
「やっぱり、お金ですか」
「ああ、英雄の子に申し訳ないが納税ができないとなるとな……本当にすまない」
俺の顔みてグースはさらに縮こまる。
俺はいいが病弱な妹――シスだけはなんとしても村においてもらいたい。
「村に納めた世界樹の宝――それでシスだけは村においてもらえないでしょうか?」
「その節は確かに助かった。しかしシスの薬代をまかえないんだ……今は俺の私財でたもっている状態……だが英雄の子にチャンスを与えんのも酷な話。ふたつ条件をつけてよいか?」
父さんたちが遺した宝はもうない。
グースが俺たちを嫌う村人を抑えてくれているのもしっている。
本当に限界がきたのだろう。
だがシスが安全に暮らせるなら是非もない。
少しだけ軽くなった胸を張りうなづく。
「ここだ。丘に構えるあんたらの家を手放してくれ」
「かまわない。もうひとつは?」
「世界樹の宝だ」
世界樹だって?
魔物がうようよいる?
遺産はもうないっていったよね?
ついにボケたのか?
「ボケたの?」
あ、声にでちゃった。
「ボケとらんわ! いいか、シスの薬は高い。いつ治るかわからん娘の面倒をみるとなると必要になる」
「……わかりました」
「本当にすまんが、明日の朝には村からでてもらう。村人たちをもう抑えきれんのだ……それとこれは最後の差し入れだ」
「いつもありがとうございました」
頭の整理をしながらグースを見送る。
父さんたちが死んでから毎日のように用意してくれた差し入れは、いつもと同じ汁物だが具が多い。
空腹をまぎらわすのに重宝していたがこれも最後か……いや善意に対して贅沢は言えないか。
本当は父さんたちのように俺が村のみんなを守りたいのに……英雄の顔に泥を塗るばっかりだったな……。
「けほっ、お兄……玄関口でなにを話してたの?」
壁にもたれかかるシスが少し形の崩れたウサギのぬいぐるみをかかえながら心配そうな声をあげる。
シスは不安になるといつも母製作のウサギ隊長を強く抱く。
まったく、昨日は一日中寝込んでいたくせに無理して。
外で話すべきだったかな、反省。
「寝てなきゃだめじゃないか」
「でもお兄の手震えてるよ。教えて」
隠し通せる話しでもない、シスをベッドに追いやり追放の旨をつたえる。
「へあっ!? けほっけほっ……お兄が追放? いやいやあり得ないよ」
「でも金が」
「お兄はずっと村の結界の見回りとかしているのに」
結界は英雄の子の義務みたいなものだし、シスの薬が高いからとは言えない。
「しかも昔とはいえ……お父さんたちは村を救ったんだよ? お父さんの剣とお母さんの儀式魔法がなかったら生きてすらいないんだよ?」
「大丈夫だ。シスだけは置いてもらえるから」
「それなら……ってならないよ!? けほっ」
興奮しすぎて身体にさわらないか心配だなあ。
ずっと肩で息をしているじゃないか。
「魔物避けの結界もお母さんが残したものだから利用料とる? ねぇとっちゃう?」
「シスさん落ち着いて」
顔色が真っ青になっていくシスのやわらかいほっぺを引き伸ばしリラックスさせる。
みょんみょーん。
おーのびるのびる。
……癖になりそうだと思ったがあっけなくはらわれた。
「お金は、けほっ……私のせいでしょ? 私が出て……いく」
「わかったわかった。グースともう一度話してみるから」
話さないけどね。
すでに無税で数ヶ月耐えてもらっている。
守るべき人の足枷になり続けるわけにはいかない。
「私も空間や魂に干渉できる【儀式魔法】つかえるんだからね。あ、そうだ今日読んだ本に処女の臓物は儀式につかえるって書いてたけど処女ってなに? それがあればなんとかなる?」
【儀式魔法】は魂に干渉できるが故に邪法と呼ばれ、成功例はないが死者蘇生実験にも使われた過去がある。
「処女も臓物もシスにはまだ早い、もう遅いから寝な」
「えー、でもお兄は私が守るからね」
「はいはい、ありがとさん」
まだ10にもならないのに心配性は母さん並みだな。
父さんたちが死んでから4年か。
久々に父さんたちの話をして思い出しちゃったな。
父さんたちはいつでも弱い村人を守った。
自分が損をしても、傷ついても、……命をおとしても。
俺も父さんのような英雄になりたかったけど、どうにも無理くさい。
特殊な能力を授かったが【自己制御】なんて誰でもできることだ。
空腹に耐えるのに便利なだけ。
父さんの【狂戦士】や母さんの【儀式魔法】には遠くおよばない。
非力な兄と病弱な妹。
なんで俺たちこんなに弱く産まれたんだろうな。
「さてと、出るか」
嘆いてもしかたがない。
穴だらけのズボンについた埃をパンパンと払う。
俺がいれば食いぶちが減り村が助かるんだ。
シスだけでも達者に暮らしてくれ。
「お兄は……ダメなんだから……」
寝言でも心配するシスを横目に静かに身支度をして夜中に家をでる。
あとは世界樹の宝をもってくればいいだけだ。
魔物さえ気をつければどうにかなる。
◆◆◆◆◆◆
「俺、死ぬのか……?」
息ができない、喉が熱い、全身が凍るように冷たい。
パニックは危険だ【自己制御】で冷静になるんだ。
……よし、よし制御できるぞ。
やってしまった。
世界樹の魔物を侮っていたわけじゃないのに、あっさり見つかり腕も脚も魔物に食われちゃった。
シス、ごめん。
失敗したみたい。
身動きできない俺を魔物が運んでいる。
ずっと世界樹を登っているようだ。
保存食にでもするつもりか?
気づけば雲を抜け広い平地にでた。
どうやら世界樹の樹頭まできたようだ。
魔物たちに捨てられ無抵抗にころがる俺。
視線をおよがせば辺りには武器や鎧、金品が山のように積まれている。
これが世界樹の秘密か。
なんとか宝を持ちかえらないと。
俺のよこしまな心を罰するように身体が木に沈み込んでいく。
世界樹が俺を食べてる?
抵抗もできず視界は遮られ闇へと落ちる。
養分として分解されるのがわかる。
全身を針で刺されたような痛みが走るが声がでない。
耐えろ耐えろ耐えろ。
シスを助けなきゃいけないんだ。
自分が自分でなくなるみたいだ。
魂が取り込まれる。何に?
俺の魂を媒介にして肉体が構成されていく。
意識が遠のく…………ダメだッ!
いま意識を失えば戻ってこれない気がする。
【自己制御】で維持しなくちゃ。
気づけば俺は樹頭の上にひとりたたずんでいた。
手足を食われて立てるはずがないんだが……。
自分の身体が自分でないような奇妙な感覚に襲われ、恐る恐る自身の手を確認する。
眼前にあるのは鋭くとがった3本の指とおぼしきもの。
人間の手とは似ても似つかない。
色は黒く。脚も同様だ。
尾が生え自在に動く。
俺は魔物になったのか?
世界樹は人間を魔物に変える?
疑問は尽きないが生きているのならそれでいい。
それに宝に触れても辺りの魔物は俺を見ても襲ってこない。
いや襲われたとしても問題ない。
さっきから全身に力がみなぎっている。負ける気がしないんだ。
しかし魔物の姿まま村に帰れば混乱を招く。
なんとかならないものか。
……【自己制御】
そうか、自分の形を制御すればいい!
試行錯誤を重ね人間の頃の姿に戻したつもりだ。
指は5本ずつ、尻尾もない。
完璧。
意気揚々と宝を抱えてシスのもとへ向かう。
◆◆◆◆◆◆
村につく頃には追放から丸一日が経過していた。
小高い丘に構える自宅の扉を開け放つ。
「帰ったぞシス! ちゃんと宝も持ちかえった!」
「誰だお前」
我が物顔で俺を見るのは村長のグースだ。
「グース、約束以上の宝を持ちかえりました。どうか俺も村においてください!」
「お前……ヒロ……なのか?」
なにを言ってるんだ俺は俺だ、ヒロに決まってるじゃないか。
やはりボケたか。
「ボケたか」
やべ、声にでた。
「ボケとらんわッてやはりヒロか。世界樹で死ななかったのか?」
「ああ! いや……とりあえず今は生きてる!」
「そうかそうか、頭ひとつ分もでかくなっていたから見違えたわ。よく戻ったな心配したぞ」
あ、身長を制御できていなかったか。
失敗失敗。
グースは微笑みながら俺の肩に手をのせる。
人の体温に触れ安心した瞬間。
グースが突然俺の腹を殴った。
「だが死ね」
違う。殴られたんじゃない、刺された。
グースの手元にあるナイフから俺の血が滴る。
「どうしてお前たちはこうも面倒なんだ」
「どういう……」
ナイフのような尖った目で俺を一瞥するとグースは話し始める。
「手を汚すつもりはなかったがもう限界だ」
いったい何を言っているんだ。
「どうして英雄――――お前たちの親が死んだかしっているか?」
「世界樹から魔物が押し寄せて……」
「そうだ、だが英雄は勝利したんだ。命からがら100を超える魔物にだ。だからこうしたッ!」
「ぐわッ!」
ナイフが俺の肩をえぐる。
「グースッ!」
「殺してやったさ」
さがる目尻からグースの愉悦が伝わる。
悲しみか悔しさか怒りか理解できない感情のせいで涙がこぼれる。
いやらしい笑みを浮かべ続けて話しだす。
「突然村に現れて、英雄と呼ばれ、舞い上がり我が物顔で村を占有した罰だ」
違う。父さんたちは占有なんてしていない。ずっと村のために戦っただけだ。
「当時の村長だった俺の父は支持を失い、地位と名誉を失うと自ら命を絶ったよ。いいか英雄は俺から奪ったんだ!突然!なんの断りもなしに!全てを!」
「ふぐッ!」
次は腕を刺しやがったッ!
「俺は理解した。この世界は奪ったもの勝ちだとな。だから俺もそうした! 英雄に毒をもりトドメをさした! はははは、頼りをなくした村人が俺にすがる姿は傑作だったなぁ」
「あとは簡単なもんだ、英雄の悪評をながしヒロとシスを孤立させてやった、あはははは! ひとつ誤算があったとすれば。異状に強いお前たちの身体だ」
「まさか」
「ずーーーーっと差し入れしてやっただろう? 毒汁を」
目の前が真っ暗になった。
なぜ?
父さんたちは村を救ったんだ。
王国騎士になる話を蹴ってまで村を想いとどまったんだぞ。
それがこの仕打ちか?
村の食糧難だというから父さんたちの遺産を村に差し出した。
それがこの仕打ちだっていうのか?
妹の病も、俺の弱さも全部全部ッ!
人間を守る必要なんてなかったんだ。
身を削るほどの価値なんてなかったんだ。
「ぶっ殺してやる」
「おいおい、それが英雄の子の表情か? まるで魔物だ。あはははは」
傷が邪魔だな。
簡単に治せそうだし治すか。
「お前ッ傷が!」
後ずさるグース。
逃げられると面倒だ。
手の一部を刃に変えて片脚を切り落とす。
「うがああああああッ! わ、わかった村にもどってもいいから命ッ! 命だけは……ッ!」
「もう村なんてどうでもいい。それに何をしたところでお前を生かす選択肢はないぞ?」
ここからは想像できる限りの拷問をしてやろう。
片耳を削ぎ、爪を剥ぐ。
次は眼でもくりぬくか。
ははははは。
「あの~……お兄の声がしたような……」
声の方へ視線を向けると、壁からウサギの耳がのぞいている。
しまった。シスの位置はまずい。
「シスッ! 魔物だ魔物が出た!」
「えっそんな……母さんの結界は? けほっけほっ」
なにを言ってるんだ。
なぜ俺を睨むんだシス。
すぐそばの姿見に視線を向けるとそこに人間はいなかった。
鋭い爪牙に黒い身体、我を忘れて制御を怠った俺は天災級の魔物――――黒龍と化していた。
「グースさんは……さがってッ!」
「すまない……頼んだっ」
シスの後ろで笑いを堪えるグース。
お前も英雄の子なんだなシス。
弱い人間を捨て置けない、盾になってでも守ってしまう。
だが俺は知った、守る価値のないクズはいる。
「シス。俺はヒロだ。そいつを殺すからどいてくれないか」
「お兄ならそんなこと言わない。守るべきものを傷つけたりしない! げほっ……ぐっ」
瞬く間にシスが汗ばんだかと思うと血を吐いた。限界を超えてなお、シスは俺を睨み付ける。
確かに数分前の俺なら決して言わない言葉だ。
だが理解してしまった。
「俺はお前を守れれば良い」
「ならグースを殺す必要はない」
それもそうか?
俺は壊れたのか。
魔物の身体のせいか?
いや違う、これは心の奥底でずっと眠っていた俺の本質。
村から拒絶され搾取されてもなお、父さんのようになりたい――英雄の子の役割だと自分を騙してきた。
しかし、どうしようもない人間は消さなきゃ本当に弱い人を守れないんだ。
「わかってくれ」
「わからなッ! ……かっはぁ…………な、んで?」
シスの白い服が赤く染まっていく。
じわじわとシスの命を汚染するように赤が広がる。
「くそ兄妹が目障りなんだよッ!」
シスからナイフを引き抜いたグースは続けて俺を狙う。
抱えていたぬいぐるみを手放し倒れ込むシスを抱き止め傷を診る。
背中に冷たい何かが刺さるが無視だ。
「シスッ! 目を、目を開けてくれッ! くそっくそっ!」
「本当にお兄……なの?」
どこを見ているかもわからないようなシスの目がうっすらと開く。
「ああそうだ、必ず助けるからもう喋るな」
「私、ダメみたい。ずっと迷惑ばっかりごめんね。お兄を守ってあげたかったのに……最期まで脚引っ張って……」
シスの瞳から体温がぼろぼろとこぼれ落ちる。
「シスのせいじゃないッ! 全部グースの仕業なんだッ」
「はやく死ね! 死ね! 死ね!」
何度も何度も背に大穴ができるが瞬く間に修復される。
考えるのに邪魔だ。
槍のような尾の先でひと突きするとゴミは動かなくなった。
集中して考えろ何か手があるはずだ。
毒に侵された身体。
こぼれ続ける血液。
横たわるぬいぐるみ。
【自己制御】
魔物と化した身体。
【儀式魔法】
近づく死。
シスをシスだけを生かす方法がッ!
……あ……あるかも知れない。
【儀式魔法】なら魂に干渉できるはずだ。
迷わず自身の前腕を切り落としシスの傷に合わせる。
同じ血をもつ俺たちなら血を介して同一と見なせないか!?
足元に魔方陣がひろがる。
【自己制御】によってシスの【儀式魔法】の行使するッ!
媒介とするのはシスの身体――――処女の臓物。
魂の定着先は……ウサギ隊長!
魔方陣の文字が一瞬ごとに書き変わり儀式を実行する。
頼むッ!
頼むから成功してくれッ!
……
……
「お兄……なんかおっきくなってない?」
「……ははっ、シスが小さくなったんだよ」
成功した。
身体の一部が赤く染まったウサギ隊長からシスの気配がする。
なんでもいいけどどうやって発声してるの?
「シス動けるか?」
「人間の時の100倍は動けそうっ」
跳ね回るウサギの速度は龍の目でも追えない。
不思議がいっぱいだなぁ。
「そりゃややこしそうだ」
「なんでよっ!」
つっこむウサギをつかまえて目の前に置く。
「シス、村をでよう」
「うん。私本当に困ってる人を助けたい」
人の身を捨てた俺たちは旅をする。
一匹の魔物とぬいぐるみが理不尽に苦しむ人を救う旅を。
◆作者からの大事なお願い◆
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