エピローグ
短めです
「……!」
『魔女』の全身を覆っていた靄が消え、神々しいばかりの輝きで煌めく。息が苦しい。畏れ多くて、これ以上は近づけない――ああ、彼女はまさしく『女神』だったのだ。
「ありがとう」
彼女はそう微笑って――思わず見惚れる、とっても綺麗な笑顔だった――男性に手を取られ、霞のように消えた。
◇
「ロッティ。とっても綺麗よ」
「ありがとうございます、おばあさま」
今日は結婚式。白薔薇で飾られた王都神殿の控室にいるのは、侍女のニーナを除けばリッベントロップ侯爵夫人――おばあさまとわたしだけだ。
「きっと天国のユリアも喜んでいるわ」
もう顔も覚えていないお母さま。少ししんみりしていると、ドアがノックされた。
「レルヒェンフェルト公爵令嬢、お時間です」
黄色の僧服を纏った神官さまに先導され、式場の入り口まで行くと――涙目のお父様が待っていた。
「お父様……」
「シャル、大きくなったね。お母さまにそっくりだ」
ヴィルヘルム様が待っている、神殿長さまのもとまでお父様にエスコートしてもらう。
わたしより少し先に結婚したエマ。もう少しで結婚するドロテア。それぞれの夫や婚約者に寄り添われ、涙ぐんでこちらを見ている。最初は友達かどうか自信がなかった。だけど今では、大切な友達だ。
クリストハルトをはじめとしたベーレンドルフ家の面々の中に、クリストハルトの婚約者――マルティナ・フォン・ファインハルス伯爵令嬢の姿が見える。あ、ファインハルス伯爵夫妻もいる。あの二人は、マルティナ嬢のお姉さまとその旦那さまかな。
王太子の結婚式だ、名だたる貴族はほとんど来ている。もちろん「シルフェリアの四強」、残りの三つ、バルシュミーデ家、ヴァイセンベルガー家、シャウムブルク家が勢揃い。
ゲレオンはアデリナとの結婚が待ちきれず、学園を卒業後すぐに結婚した。アデリナは目下、公爵夫人となるべく猛勉強中だ。わたしも力になれるといいな。アーデルハイト夫人は、これからはわたしの義理の叔母様になる。
いつも通り氷の無表情の公爵の隣には、穏やかなほほえみを浮かべたリーゼロッテ夫人。ハイデマリー嬢やカールハインツ令息をはじめとした、五人の子息も全員いる。ハイデマリー嬢は女神を顕現することができ(『魔女』の過去を知り恋人を割り出し、一連の事件を解決できたのは彼女のおかげといっても過言ではない)、教会で聖女として仕えることが決まっているという。
シャウムブルク公爵夫妻と一緒に、跡取り息子であるフリードリヒ・フォン・シャウムブルク卿もいる。最近彼と結婚したクラウディア様も参列してくれた。二人の様子は、以前とは打って変わって穏やかだ。
外賓として、アヴェルチェヴァからクリスティナ王女とその婚約者となったアレクセイ・リィ・レニングラード卿。クリスティナ王女は本当に彼を落としたらしい。グランヴィルからは王太子・アーサー殿下と彼の妃になったスカーレット様。カザンからは、ファティマ王女が夫婦で参加してくれた。旦那さまとは、幼馴染の関係だとか。
エスターライヒ公爵アルベルト様の隣にいるのはエリーザベト様。公爵夫人になったエリーザベト様は、体調が許す限り社交活動も精力的に行っている。
王弟オスカー殿下に、その妃のベアトリクス様。お子様方は幼いので今回は欠席だ。今回の結婚式に関して、ベアトリクス様には随分とご助力いただいた。
最前列には、国王陛下、王妃さま、お兄様。
「シャル」
そして優しく笑う、ヴィルヘルム様。
「新郎、ヴィルヘルム・フォン・シュヴァルツェンベルク・シルフェリアは新婦シャルロッテ・フォン・レルヒェンフェルトを病めるときも健やかなるときも一生愛すると誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦、シャルロッテ・フォン・レルヒェンフェルトは新郎ヴィルヘルム・フォン・シュヴァルツェンベルク・シルフェリアを病めるときも健やかなるときも一生愛すると誓いますか?」
「はい、誓います」
シルフェリア王国では、結婚式の時に「結婚誓約書」というものにサインをする。病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しいときも、愛し敬い慈しむことを誓うものだ。これは二人が結婚をしているという証明で、神殿で厳重に保管される。
サラサラと流麗な筆致でサインしたヴィルヘルム様に続いてサインしようとすると――手が震えて、うまく字が書けない。
「シャル」
あたたかな手を重ねられて、冷たくなっていた手に急に体温が戻ってくる。……結婚する人がこの人で、本当に良かった。
誓いの儀式の後に重ねられた唇は、熱く情熱的でありながら――どこまでも甘く優しかった。
これで本編は完結です! お付き合いくださりありがとうございました!!
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