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悪役令嬢の生き様  作者:
本編
33/57

悪食の悪魔

 穏やかな昼下がり。わたしは公爵邸のサロンで殿下――ヴィルヘルム様とお茶会をしていた。


「へえ、クリスティナ王女も『転生者』なんだ?」


「そうなんですの。『悪食の悪魔』が憑いている(さかずき)を可及的速やかに引き取ってほしいとおっしゃっておいででしたわ」


「では、約束を取り付けないとね。シャル、今度の休日は空いている?」


「はい」


「じゃあその日に一緒に行こうか」


 ヴィルヘルム様が手帳に予定を書き込んでいる最中、ノックの音がした。ニーナが応対し、手紙を運んでくる。


「お嬢様、アヴェルチェヴァの王女殿下よりお手紙ですわ」


「……クリスティナ様から?」


 封を開けると、「鬼気迫ってます」感が満載の文字が羅列していた。


『助けて、シャルロッテ様! このままじゃアレク兄様に嫌われちゃう! クリスティナ』


「……?」


「使者の方は今すぐ屋敷に来てくれ、とおっしゃっておいででしたけど……。シャルロッテ様を呼びつけるなど、なんて無礼なんでしょう! お断りすべきです!」


「ニーナ。ヴィルヘルム様、ごめんなさい。クリスティナ王女が心配なので、行かせていただきますね」


 同じ恋する乙女としては彼女が非常に心配だ。


「……なんだか嫌な予感がするから、僕もついていくよ」


 かくしてヴィルヘルム様と一緒に、クリスティナ王女の屋敷を訪ねることになったのだった。



「……クリスティナ王女?」


 屋敷のクリスティナ王女の部屋に通されて目にしたのは、机にかぶりつくクリスティナ王女だった。


「ううっ、早く扉を閉めてくださいましっ! こんなことが万が一アレク兄様に漏れたら死ねますっ! 殿下っ、さっさとあの忌々しい(さかずき)を可及的速やかに(はら)ってくださいまし」


「私は王太子であって魔術師ではない」


 殿下はそう言いつつも、ついてきていた侍従の青年に王宮から魔術師を呼んでくるよう指示していた。


「そもそも『(はら)う』のではなく『封印する』のでしょう」


「そんなことどうでもいいのです! ああっ、お腹がすいた……」


 机をガジガジ噛んでいたクリスティナ王女の双眸がキラリと光った。


「え、ちょっ、おやめになって!」


「クリスティナ王女、何をするんだ! シャルから離れなさい!」


 本気で嚙まれると割と痛いので止めてほしい。「私だってやりたくてやってるわけじゃありませんわよ!」と叫ぶクリスティナ王女を二人がかりで引き離したものの、彼女は「人間にも机にもかみつきたくないのに、どうしてこうなるんですの!」と悲しそうだ。


「クリスティナ王女……」


「ほう。さぞお苦しみと愚考いたします。それではこの不肖アヒム、ご苦労を減らす手伝いをさせていただきたく」


 建国祭の時、ルイーズ殿下の鳩琴(オカリナ)を回収した黒ローブの魔術師が現れ、飄々とそう言ってのけた直後――クリスティナ王女は縄のようなもので縛られていた。


「ふがっ!!」


「ちょっと我慢してくださいね~。あ、例の(さかずき)はこれですか」


 魔術師――アヒムはローテーブルに出してあった(さかずき)を手に取り、異常に長い呪文を唱えた。その呪文、建国祭でも唱えてたな、たしか。


「その呪文は……?」


「お久しぶりですお嬢サマ。軽い封印魔術ですよ。これだけだと心もとないので王宮に帰って厳重な方の魔術をかけなおしますが、悪魔野郎はこれで王女サマに取りつけなくなったんじゃないですかね~。あ、てことで拘束魔術は解かせていただきますね」


 クリスティナ王女を縛っていた縄が消え、彼女は足の力が抜けたようにすとん、と着地した。


「……あのねえ、そこの黒ローブ陰険野郎! この私にこの狼藉! いったいどういう了見なのよ!」


「あはははは、ごめんなさ~い。それはともかく、これで()()()とはさすが殿下。一つハズレもありましたけど心配しなくてもいいですよ。女性は完璧な男よりもチョイ悪なオヤジに惹かれるものです」


「? ちょっと、ハズレってどういうことなんですの!?」


「ノーサンバランド嬢から渡された手鏡には、『傲慢の悪魔』は憑いていなかった。悪魔の残滓はあったそうだから、かつては憑いていたのだろうが」


「あーやだやだ、お引越しなんて。あ、そうだ。殿下、魔術師長がお話があるそうですから一緒に戻りますよ」


 アヒムに促される形でヴィルヘルム様が帰ることになったので、わたしもお屋敷を辞去した。



「え!? あの令嬢たち、『嫉妬の悪魔』に憑かれていたんですか?」


「ああ」


 いつもの生徒会室、メンバーはヴィルヘルム様、わたし、スカーレット様にクリストハルト、クリスティナ王女。


「……悪いことをしたかな」


「クリストハルト?」


「ティナに『嫉妬の悪魔』が憑かないよう全力を尽くしてきた。それを後悔するつもりはないけど、その代わりに彼女たちが憑かれたんだって考えるとさ」


 わたしとアデリナを監禁した令嬢たちは謹慎になった。ヴィルヘルム様と王妃様は事の顛末を聞いて怒り狂い、即刻修道院送りにすべきだと主張したが、それは彼女たちの人生を完全に閉ざすことだ。お二人に頼み込み、謹慎で打ち止めにするよう譲歩してもらった。


「だから先日の『悪食の悪魔』で五件目ということになる」


 残りは『色欲』、『憤怒』、『傲慢』――ん?


「ちょっと待ってくださいまし。四件じゃありませんの?」


 捕らえている悪魔は『強欲』、『怠惰』、『嫉妬』、『悪食』――たしかに四件だ。スカーレット様の指摘に、殿下は少し気まずそうな顔をした。


「実は、『憤怒の悪魔』は既に封印済みだ」


「えっ?」


「どうしておっしゃってくれなかったんですの!?」


「今から言おうと思っていた。『憤怒の悪魔』が憑くのは叔父上だという情報に基づき、その『器』である壷を片っ端から調べさせた。そして封印した。以上だ」


 殿下の言葉は、それ以上の追及を拒んでいた。だけど、クリスティナ王女たちにわずかに不満の気配を感じる。悪魔封印のために協力していく仲間なのに、これではいけない。

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