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悪役令嬢の生き様  作者:
本編
27/57

王弟一家との交流

「ヴィルヘルム兄様、学園ってどんなところ?」


「勉強するところだよ」


「やだ! つまんない!」


「……おまえも王家の一員なのだから、真面目に勉学に励みなさい」


「ちちうえのいじわる!」


「おぎゃあ!」


 オスカー殿下とベアトリクス様の間に生まれた三人の子どもはとても賑やかだ。末娘のイディリーナちゃんはまだ乳飲み子だが、両殿下の意向で食卓に同席している。ちなみにオスカー殿下は晩餐の件はとっくに知っていたらしい。「秘密にしていたのに!」と頬を膨らませるベアトリクス様に「きみのことはすべて知っていたいんだよ」と流し目をよこしていた。色気の無駄遣いだと思う。


「シャルロッテねえさま、おもちゃをありがとう! ずっとおれいをいいたかったのに、ヴィルヘルムにいさまとシャルロッテねえさまはオンシツにいるからだめだって、ばあやがいうんだもん!」


「それはこの前、おまえが温室で暴れまわって薔薇をダメにしたからだろう」


 不服そうに頬を膨らませる次男フーベルトくんに、オスカー殿下から容赦ないダメ出しが炸裂した。


「……シャルロッテ、姉様。ぼくにもご本をくれてありがとう」


「ふふっ。喜んでもらえると嬉しいわ。兄様が小さな時に好きだったご本なのよ」


 元気溌剌なフーベルトくんの満開の笑顔も可愛いけど、少しシャイな長男レオンハルトくんのはにかみ顔も可愛い。レオンハルトくんは最近『姉様』呼びが少し恥ずかしいらしく、照れを含んで呼んでくれる。


「おぎゃぎゃ!」


「きっとリーナも『おもちゃをありがとう』って言っているのだと思うわ?」


「まあ!」


 なんて可愛いんだ。美男美女から生まれた子どもはやはり美少年と美幼女(いや、美乳児?)。


「イディリーナちゃんは本当にかわいいですわね。ベアトリクス様に似ていらっしゃって、将来は引く手あまたでしょうね」


 ベアトリクス様は結婚前、咲き誇る大輪の薔薇として社交界に君臨した美女。大勢の貴公子が想いを寄せ、破れたらしい。そりゃ、オスカー殿下には勝てないでしょうよ。


「あら、シャルロッテったらお上手ね。上ふたりはオスカー様に似ているから、今度もそうなのかなって思っていたのよ。生まれてくるまでわからないわね」


「まあ、そうなんですか。あら、でもフーベルトくんは髪の色はベアトリクス様譲りですよね?」


「そうなのだけど、顔立ちはオスカー様にそっくりなの」


 フーベルトくんは融合型というわけか。わたしの考えを読んだのか、ベアトリクス様は悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「どちらか片方にだけ似るとは限らないもの。ヴィルヘルムとシャルロッテの子どもも、髪は黒だけれど顔はシャルロッテ似かもしれないわよ」


 突然の爆弾発言に思わず飲んでいたノンアルコールカクテルを吹き出しそうになった。隣の殿下を見ると、平然としている。……この余裕綽々っぷりはどうすれば身に付けることができるのでしょうか。


「あ、あの、そんな先のこと……」


「まあ、もう成婚まで二年でしょう。そう先のことではなくてよ? 王太子の結婚ですから、もう準備に入っているわよ。ねえ、オスカー様?」


「ああ。王妃陛下が仕立て屋(ブティック)にもう注文はしていると言っていたな。大聖堂は白薔薇で飾る予定だから、そのための薔薇は数年前から育てているそうだ」


「王太子用の離宮を、妃を迎えるために改装しているとも聞いたわ」


 何もかもが初耳だ。非難の視線を殿下に送ると、少し気まずそうな顔をした。


「……叔父上、叔母上。あまり遅くなってはレルヒェンフェルト公爵に叱られてしまいますから、そろそろ」


「ああ、そうだな。引き留めてすまない」


「また来てね、二人とも」



「怒ってる?」


 馬車の中、殿下は罰が悪そうに切り出してきた。


「ドレスの採寸は、いつなさったのですか?」


「建国祭に贈ったドレスのサイズを使った」


「殿下の宮に、最近人の出入りが多いとは思っていました。家具の選定も手伝わせた理由を、ずっと黙っていたのですね」


「……」


「どうしてわたしに黙って……」


「……それなら、『結婚式用のドレスを作らせてほしい』と言ったら素直に作らせてくれた? 『結婚のために宮を改装するから手伝ってほしい』と言ったら協力してくれた? 僕とは結婚できないと言って、拒んだんじゃないか?」


 怒ったような口調とは裏腹に、殿下の紺碧色の瞳には隠しきれない苦悩がにじんでいた。


「逃げられないところまで囲い込まないと、君は僕と結婚してくれない。そうだろう? 君は僕を信じていない」


「そんなことは……」


「あるだろう。僕はすべてを捧げてきた。君以外の女性にふらついたことなど一度もない。だけど君は僕ではなく、前世の記憶を信じている。態度もいつまで経っても他人行儀なまま」


 なにも、言い返せない。事実だから。目の前にいる殿下(かれ)を信じずに、『貧乏伯爵令嬢』の『王太子』(かれ)を信じていた。


 こわかったのだ。信じて裏切られるのが。それなら、最初から期待しないほうが心の傷が浅くて済むと、逃げていた。


 それがどれだけ殿下をずたずたに傷つけているかも理解せずに。……いつからか、どこか寂しげに微笑む殿下に気づいていたはずなのに。


――シャル。僕、立派な王様になれるようにたくさん勉強するよ。誰もが憧れる立派な王子様になれたら


「で、殿下……。わたし……」


「シャル、着いたよ」


 今は優しくしてあげられる自信がないから、早くお帰りなさい。殿下の優しい笑みには、はっきりとした拒絶が浮かんでいた。それに、思わず身が竦む。


――僕のこと、名前で呼んでくれる?

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