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悪役令嬢の生き様  作者:
本編
23/57

侯爵令嬢スカーレット 2

 残るは、十歳の時に亡くなった王妃様。王妃様は『バル草』が届くのが間に合わず亡くなってしまった。『バル草』はシルフェリアの一部地域の山間部にしか生えず、シルフェリア国内ですらほとんど出回っていない。陛下が伝手(つて)を駆使して取り寄せた時には、遅すぎた。……陛下のシルフェリアへの憎しみは、このときから始まっていたのかもしれない。


 だからわたくしは、シルフェリアからバル草を取り寄せ、それをなんとかグランヴィルでも生産できないか試してみようとした……が、ここでおかしなことに気づいた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なんでも、王立研究所が大量生産方法を確立したんだとか。(そもそも)、グランヴィルで大流行が起きる少し前にシルフェリアでも『灰色の悪夢』は猛威を振るい、多くの者が命を落としたはずだ。たしか、王弟妃もそれで亡くなったと聞いている。王弟も十数年後に謀反を起こして亡くなって……。王族権力が弱体化して、もともと宰相の力が強かったシルフェリアでは王は完全に宰相の手に落ちたのだった。国王派の要だった、レルヒェンフェルト家が没落したことも大きいだろう、とアーサー様はおっしゃっていた。


 だけど王弟妃は生きているし、バル草は驚くほど安く手に入る。疑問は残ったが、バル草を取り寄せ、アーサー様に頼んでバル草を繁殖させてもらった。シルフェリアとグランヴィルの気候は然程(さほど)変わらない。繁殖方法を教えてもらって、それを利用させてもらった。


「『灰色の悪夢』は生食を避け、こまめに手を洗うといいらしいですよ」


 バル草を届けてくれた、出入りの商人はそのことを王弟妃に教えてもらったらしい。シルフェリアでは、王の厳命のもと国民がそれを遵守し、被害者は最低限に抑えられたとか。


 グランヴィルにおいて、その役割を果たしたのは王妃様で、『灰色の悪夢』の被害者は想定の半分以下だった。王妃様は臆面もなく「これはレティから聞いたのですよ」とおっしゃるものだから、なぜだか「聖女」と祀り上げられてしまった。


「邪魔が入ってもいいように、レティの人気を高めておかなくてはね? そう思うでしょう、アーサー」


「はい、母上」


 前世では早くに亡くなってしまわれたけど、王妃様がとてもお優しい方だったことはよく覚えている。そう、お優しすぎたし人を疑わな過ぎたのだ、王妃様は。


「やはりあの占い師は疑わしい」


 前世でもアーサー様の悩みの種だった占い師。王妃様がなくなられた後はちゃっかり陛下の愛妾におさまっていた。アーサー様は今世でも、王妃様に占い師をあまり信用しすぎないよう幾度となく窘めている。だが、その度に王妃様は困ったような顔をなさる。


「そんなことを言わないで? ラナの占いは本当によく当たるのよ」


 眉間の皺がだんだん増えていくアーサー様は心配だけど、シルフェリアの王立学院に留学する日がやってきた。


 戦争の時の王だった王太子・ヴィルヘルム殿下は公明正大、統治者の(かがみ)のような方だった。だけど一つ不思議だったのは、婚約者のシャルロッテ・フォン・レルヒェンフェルト公爵令嬢との関係だ。前世では、殿下は公爵令嬢との婚約を解消し、アヴェルチェヴァのクリスティナ王女と結婚していたはずだ。詳しい事情は分からないけど、公爵令嬢の悪評はグランヴィルまで流れていた。


 だけど、王太子殿下と公爵令嬢はとても仲睦まじく、わたくしに一年遅れて入学してきた公爵令嬢は立派な淑女だった。建国祭でお会いした王弟妃はとてもお元気そうだったし、国王陛下と王弟の関係も良好に見えた。国内の情勢は、国王派と宰相派で五分らしい。


「ごきげんよう、ノーサンバランド様」


 にこやかに話しかけてきたのは、ハイデマリー・フォン・ヴァイセンベルガー公爵令嬢、カールハインツ・フォン・ヴァイセンベルガー公爵令息の二人だった。令息の方は今年で成人らしく、このような大きな舞踏会は初めてだとか。ヴァイセンベルガー家は宰相派の筆頭格だ。


 わたくしたち(外国人)はシルフェリア国内の権力闘争には不干渉の立場。心情的には王太子殿下にお味方したいけど、二人とも表面上和やかに会話した。


 国王夫妻に王弟夫妻。王太子殿下にシャルロッテ様。エスターライヒ公爵にその婚約者のホーエンヴァルト伯爵令嬢。エスターライヒ公爵と、ダンディな貴族の男性が会話をしていた。


「あらぁ、ノーサンバランド様。王太子殿下が気になりますのぉ?」


「ちょっと、ミュラー嬢。失礼でしょう」


 不躾にかけられた声に、ぎょっとする。ハイデマリー嬢がたしなめてくれたが、ミュラー嬢は止まらなかった。


「ふふっ、仕方ありませんわぁ。だって王太子殿下は我が宰相派の令嬢にも憧れている子は多くいますものぉ」


「ミュラー嬢、ノーサンバランド様はグランヴィルの未来の王妃なのよ。そんな下賤な妄想はやめなさい」


「ええっ、でもノーサンバランド様はあくまで『仮』の婚約者なのですよねぇ? だからシルフェリアにいらっしゃったんでしょ?」


 嘲るような笑みに、ぞっとした。……遠回しに「男漁りに来た」と言われているのだ。お父様にはそんな風にほのめかしたが、わたくしにそんなつもりはないのに。


「ミュラー嬢!」


「うふふっ、ヴァイセンベルガー様、そんなにお怒りにならないでぇ? 恋するのは自由ですわぁ。ヴァイセンベルガー様のお父君に熱い視線を送っている令嬢は、国王派にも多いと聞きますしぃ」

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