亡国の王子アルベルト 1
『大陸の帝王』シルフェリアに牙を剥いた、短絡的な愚王。それが、俺の父だ。
シルフェリアをはじめとした諸国が位置するアーリング大陸は、ほんの百年ほど前は血みどろの争乱の最中にあった。――そしてシルフェリア王国は、内乱が絶えず、まさに内憂外患といった状態だった。
その争乱を終結させたのは、四代前のシルフェリア王コンスタンティン・シュヴァルツェンベルク・シルフェリア。『軍神』として諸国から畏れられ、シルフェリア中の軍人から命を賭しても構わないほどの忠誠を捧げられた偉大な王だった。
コンスタンティン王は国内の乱れを収束させ、アーリング大陸を取り巻いていた戦争の終結に着手した。争いによってではなく、話し合いによって、問題の解決を図ろうとしたのだ。これが、シルフェリアを盟主とした「円卓会議」の始まりである。
もちろん、納得しない国もあった。コンスタンティン王はそれらの国を武力で納得させていった。徹底抗戦を掲げた国は、血の粛清を受けることになった。
残った国全てが「円卓会議」に参加し、大陸には平和が戻ってきた。それは数百年ぶりの、雪解けの時代だった。
だが、コンスタンティン王の過激なやり方に抵抗感を覚える者も一定数いた。彼らを宥める役になったのが、三代前の国王フィリベルトだ。
コンスタンティン王とフィリベルト王に仕えたマテーウス・フォン・アスマン――国王陛下の側近中の側近、アスマン卿の祖父――はフィリベルト王のことを「先王ほどのカリスマ性はないが、臣下の意見に耳を傾けられる御方だ」と評したらしい。
父親とは打って変わって穏やかで優しい気質で、大陸の平和を維持すること、シルフェリアへの敵対感情を宥めることに奔走した。かつて父親が滅ぼした諸国を復活させたのもフィリベルト王の業績のひとつだ。
フィリベルト王は大陸中の民から敬愛され、遂に「アーリング皇帝」として戴冠することになった。
とはいっても、これは形式的なものである。というのも、「アーリング皇帝」の位が諸国家の盟主を表し、フィリベルト王は既にアーリング大陸の盟主だったからだ。
歴史を数百年遡ると、大陸中を支配した「アーリング帝国」という国が存在した。しかし、広大すぎる領土ではいつかガタがくる。帝国は幾度も分割され、また、独立した地域も少なくなく――いつしか「アーリング帝国」は消滅し、大陸の名前を始めとした地名に残る程度になった。
もちろん、消滅したとはいえ「アーリング帝国」はかつて大陸中を支配した国だ。「アーリング皇帝」として戴冠したのだから、大陸中を支配下に置く権利がある、いやそうであるべきだ。偉大なるシルフェリア王――否、「アーリング皇帝」フィリベルト陛下の統治を受けるのが、全ての民にとって最も幸せな道である。フィリベルト王に心酔している過激派のなかには、そう論じる者もいた。
だが、それを諌めたのは他ならぬフィリベルト王だった。「私は支配者になりたいのではない、彼らの良き友人になりたいのだ」。シルフェリアに――いや、アーリング大陸で育った者ならだれでも学ぶ名言である。
血みどろになりがらも平和な時代を切り拓いたコンスタンティン王。慈愛を以て治めたフィリベルト王。二人の賢王が彼らの人生をかけてつくりあげた平和を、突如崩そうとした者が現れた。




