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悪役令嬢の生き様  作者:
本編
12/57

ついに王立学園に入学しました 3

「いえ、ですが……お連れしなければ私が公爵閣下に叱られてしまいます」


 いち早く衝撃から立ち直ったパイパー少尉が、慌てたように引き留めた。だが、今日のエリーザベト様はかたくなだった。


「申し訳ありません。ですが、()()()()だとアルベルト様にお伝えください。……長年のご厚情を裏切ることになってしまい、申し訳ございません。ですが、それがアルベルト様にとっても、最善であるはずです、と」


 エリーザベト様は一歩も退く気はないようだった。こんなエリーザベト様は初めて見た。少尉は困り果てたように頭を抱えた。


「いやしかし……」


「いいじゃないか」


 騎士をなだめたのは、殿下だった。おかしそうにくつくつと笑っていた。


「エスターライヒ公には王太子に帰されたとでも言っておけ」


「いえ、ですが……。第一、ホーエンヴァルト家の馬車は公爵閣下がお帰しになってしまいましたし」


 なにやってんだ、閣下。エリーザベト様を拉致する気満々じゃないか。


「もしよろしければ、我がレルヒェンフェルト家の馬車でお送りいたしましょう」


 そう申し出ると、殿下はにっこりと「それがいい」と笑った。


「じゃあそういうことだから、エスターライヒ公に『こうなった理由をよくよく考えろ』と伝えておきなさい」


「は、はあ……」


 渋々とではあるものの、少尉が踵を返すと、エリーザベト様に頭を下げられた。


「申し訳ございません、王太子殿下、レルヒェンフェルト卿、シャルロッテ嬢。ご迷惑をおかけしてしまって」


「そんな、謝らないでください」


 口をはさんだのは殿下だけだ。わたしもお兄様も、特に何もしていない。


「それにしても、君があそこまで言うとは驚いたな」


 お兄様の言葉には全面同意だ。あのおとなしいエリーザベト様が、と


「アル兄さんがよっぽどやらかしたんだろう。たまにはお灸を据えるのもいいと思うよ」


 殿下はおかしそうにくつくつと笑ったが、エリーザベト様は慌てたように首を振った。


「違います、アルベルト様はなにも……。悪いのは、すべて至らない私なのです」


 再びうつむいてしまったエリーザベト様を見て、お兄様が申し訳なさそうな顔をした。


「……お許しを、ホーエンヴァルト嬢。詮索するようなことをして済まない」


「いえ、とんでもありません」


 なんだか気まずくなってしまったので、「帰りましょう」とエリーザベト様を促した。エリーザベト様が静かにうなずき、お兄様がそれに続こうとしたのを、殿下が引き留めた。


「ルドルフ、お前は僕の馬車に乗れ」


「は?」


 なんでだよ、と顔にありありと書いてある。そんなお兄様に、殿下は肩をすくめた。


「我が従兄殿の嫉妬深さを体感したければ、別に止めない。アル兄さんはエリーザベト嬢がほかの男の目に触れることすら嫌っている。同じ馬車に乗ったりすればどうなるか、想像したくもないね」


「……」


 閉口したお兄様は、王家の馬車の方に向かっていった。エリーザベト様と一緒にレルヒェンフェルト家の馬車に乗ると、どうしてもさっきのことを思い出してしまう。


 いつだっておとなしかったエリーザベト様。それに、エリーザベト様も閣下のことを慕っている様子だった。そのエリーザベト様が、閣下に会わないと言うなんて。願いを叶えてくれるまでは会わないとおっしゃっていたけど、閣下はたいていの願いなら嬉々として叶えてくれるだろう。美しいドレスでも、きらびやかな宝石でも。


「……変なことに巻き込んでしてしまって、申し訳ありません」


 ずっと黙りこくっていたエリーザベト様が、おもむろに口を開いた。握りしめていたこぶしを、おずおずと開く。


「シャルロッテ様には、随分とご迷惑をおかけしてしまいました。……理由だけでも、説明させていただきたく存じます」


 そう言って、エリーザベト様は切なげに、苦しげに微笑んだ。


「実はアルベルト様に、婚約を解消してほしいとお願いしたのです」


「……!」


それで、閣下は学園前に乗り付けるという、らしくもない不躾なことをなさったのか。閣下がエリーザベト様を深く愛していることは、この国の貴族ならば誰もが知っている。伯爵令嬢という身分は、王家に嫁ぐには少々足りない。加えて、エリーザベト様は病弱だ。それでも、周囲を黙らせ婚約者に据え、エリーザベト様が学園を卒業すればすぐに挙式の予定を立てているらしい(by殿下)。婚約の解消など、許諾するはずがない。……だけど、婚約者を愛しているのは、エリーザベト様だって同じのはずなのに。


「いったいどうされてしまったのですか? 閣下のことを嫌いになったわけではないのでしょう?」


エリーザベト様はエメラルドの瞳から宝石のような涙をはらはらと零した。美少女は泣き顔まで美しい。


「嫌いになど、なるわけがありません……! 初めてお会いした時からずっと、お慕いしております」


「それなら、どうして……」


「ファルネーゼから、縁談の打診があったそうなのです」


ファルネーゼ。ファルネーゼ公国。ここシルフェリアの南方にある、綺麗な国。え、ちょっと待ってください。


「ファ、ファルネーゼって」


「そうです。アルベルト様の母君、ルイーズ殿下が嫁がれた国です」

 

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