二人の使徒
訪問者のひとりは、白い長髪に黒のカチューシャを着け水色の瞳を潤ませている、どこかあどけなさの残る細身の少女。
もう一方は、落ち着いた色の金髪を左右アンシンメトリなボブにした、黄色い瞳の小柄だがキリっとした印象の僕と同じ年くらいの女性。
それぞれ青とこげ茶の、かっちりとした制服っぽい衣装を身にまとっている。
二人を苛立ち気に睨みつけたカルミアが口を開く。
「着替えて行くから、食堂で待ってなさい。ニウブちゃん、案内お願いできるかしら? それと、お茶でも出しといてあげて」
「わ、分かりました。カルミアさん! お二人ともどうぞこちらへ」
「あ、わたしも行きまーす!」
ニウブに連れられて、3人は出て行った。
カルミアは、こちらに向き直り、声を掛けて来る。
「タスクくん、しばらくお預けね」
「ぐぬぬ……」
悶々とした気分を残したまま服を着た僕は、カルミアの後をついて、食堂に入った。
皆、テーブルを囲んで腰掛けていたが、カルミアが見えると、新参の二人は直ぐに立ち上がる。
二人は、カルミアが座るのを待ってから座りなおした。
「あの、カルミアさん。この人たちは?」
「白髪の方が、疾風のミュクス。金髪が神罰のグレタ。二人ともナインシスターズの一員。ふたりともこんな僻地に何をしに来たの?」
カルミアの問いかけに、グレタが険しい顔で彼女を見返して答える。
「カーマイン。エルピス様を連れてお帰り下さい。教皇ヴォイド猊下からの命令です」
「嫌よ」
「拒否権など無いことは、ご存知かと。カーマイン」
「姉さま、帰ってきてください!」
隣のミュクスも瞳をウルウルさせて訴えかけてきた。
それに対し、カルミアは薄っすら微笑みながら答える。
「ミュクス。傍に居たかったら、ここに残っても良いのよ?」
「え?!」
「大きくなったわねミュクス。すっかり美人になって」
「そんなこと……」
「駄目だミュクス! 取り込まれるな!」
「グレタ。あなたも残れば良いじゃない?」
「何を言ってるんですかカーマイン!」
「堕落した教皇都より、このコハンの村の方が未来はあるわよ?」
「ふふ、戯言を」
「あら、聞いた口きくようになったわねグレタ。でも、なんであなたが来たのかしら? 本来ならあなたが次期リーダーになるはずだと思ったけど」
「それは……」
「今のリーダーは誰なの? ヴァルタ? それとも、ゼノン?」
グレタの代わりにミュクスが答える。
「ルークですわお姉さま」
「なるほど。ルークなら教皇に対して厳しく言えないし、言いなりに出来るものね」
「カーマイン。教皇都が上手くいってないことをご存知なら、あなたの手腕が必要な事をお判りでしょう?」
「言葉で言っても無駄なようね。今日は疲れたわ。続きは明日にしましょう。大丈夫、逃げたりしないから」
「絶対にあきらめませんよ。カーマイン」
その夜は、ミュクスはカルミアと、グレタはニウブと一緒に寝ることになった。
それと、ヴァナモは一人で空き部屋へ。
もちろん、どっちに行っても危ないからだ。
そして、僕は……。
「くそ、くそ、くそ、クッソー!!」
僕は部屋に戻ったあと、悶々とした気持ちを解消しようと、2度も自分で処理したにもかかわらず、その気持ちが解消されることは無かったのだった……。
翌朝。
食堂に行くと、すでにニウブの他にカルミア、ミュクス、グレタが居た。
カルミアにベッタリくっ付いているミュクスに、グレタが強い口調で話している。
「何をしているのです! ミュクス。カーマインから離れなさい!」
「嫌ですグレタさん。ミュクスは姉さまのモノです」
「何を訳の分からないことを! 使命を忘れたのですか?!」
「ミュクスは、昨夜、姉さまにオンナにしてもらいました。もう、教皇都には帰りません!」
「なんだってー!」
つい僕は大声を出してしまった。
だって、昨夜は僕がオトコにしてもらうはずだったのに!
そうか!
カルミアさんも悶々とした気分を、手近な美少女で処理したんだな!
「くー! うらやまけしからんではないかー!」
「タスクさん! 心の声が漏れちゃってますよ」
ニウブが背中をさすって宥めてくれるが、なんともやりきれない。
「カーマイン。女の武器を使うとは、あなたそれでも聖職者ですか!」
「グレタ、私が還俗したのを忘れたの?」
「だとしても! 元聖職者がそんなふしだらな……」
「相変わらず真面目ちゃんねー。そんな風だから教皇に煙たがれるのよ」
「私は、私の信じた道を行くだけです。教皇猊下だろうが、間違ったことは正します」
「あらあら、涙目になっちゃって」
意外と痛いところを突かれたのだろうか?
グレタは、顔を赤らめ涙目になってきた。
なんだか、生真面目な委員長が弱さを見せたみたいな萌え要素を感じさせる。
「グスッ……。ともかく! 帰ってきてください!」
そう言い残すと、グレタは部屋から出て行ってしまった。
カルミアは、やれやれといった表情で、彼女が出て行くのを見送る。
「ほんと、強情なのよねグレタは……」
「グレタは姉さまの前だと、素直になれないんじゃないでしょうか?」
「そうね」
カルミアは、右手の人差し指をアゴに持っていき少し考えるそぶりを見せた。
そして、何か思いついたのか、僕とニウブの方に微笑みかけてくる。
「タスクくん、ニウブちゃん。今日一日、グレタに村を案内しながら、こっちに付くように説得してくれないかしら?」
「え? 僕たちがですか」
「うぴゃー! 無理無理無理ですよぅ!」
「ダメなら、また別の方法考えるから。今日のところはお願い。じゃないと、子作りがいつまでたっても再開できないわよ?」
「それは、困りますぅ! タスクさん! 頑張ってグレタさんを説得しましょう!」
「お、おう……」
ということで、二人して村を案内しながらグレタを説得することに。
「へぇ、コンクリートというんですか! 教皇都では古いレンガ作りの建物しか無いですよ」
「素材はそんなに変わらないと思うんですが、中に鉄筋が入ってるのが大きな違いですね」
グレタは、僕の説明に感心しながら村を見て回っている。
次に僕らは、川の上流にある水車と溶鉱炉へ向かう。
完成した水車に取り付けられたフイゴを経由して、高炉に空気が送り込まれ、上部の投入口には、これまた水車を動力にしたベルトコンベアが稼働していた。
周囲では、はぐれ人たちが、あまり魔法を使わずに作業に従事している。
「どうですか、グレタさん。はぐれ人たちも村の一員として働いています。こういった環境が可能になったのも、カルミアさんの進歩的な考えから来ているんです」
「魔法力が低くても、活躍できる環境を作られたことは素直に敬服します。本当にすごいと思うし、さすがカーマインだと。でも、教皇都でも頑張って実現してほしかった」
「教皇都では足を引っ張る勢力が有ると聞きましたが?」
「カーマインの考えからすればそうなのかもしれませんが……。決して、教皇都が邪魔ばかりしていたわけではないんです。ただ、全員の一致が無いと前に進まないことが問題なだけで、もっと時間をかけて丁寧に説明すれば、みんなだってわかってくれる時がきます。それに、私が仲間になったとしても、圧倒的な武力の差が有ります。もし戦争になった時に、千人近くの精鋭部隊に太刀打ちできる力を、タスクさんのいう科学で乗り越えることが出来ますか? 数の差ですぐ制空権を握られて終わりでしょう」
「うーん、魔法での戦いを研究してないので何とも言えませんが……」
「戦いになるのは、私もイヤですぅ~」
「やっぱり、難しいですよね」
グレタは僕らの説得が失敗に終わったことに、胸をなでおろしているようだった。
戦術については詳しくないけど、制空権が大きな要素なのは現代とあんまり変わらないかなとも思う。
簡単な差で言えば、僕らは、3機の超音速戦闘機と、10機のセスナ機。
対して、グレタに少し聞いた話から推測すると、教皇都は、200機の超音速戦闘機と50機の戦略爆撃機があるようなものだ。
ただし速度のスケールは20分の1以下だけど。
「こんなの、迎撃ミサイルでもないと絶対無理だわー」
大体、爆薬は有っても、そんな誘導装置なんて無いし、単純な大砲や打ち上げ花火じゃ狙いをつける前に逃げられてしまう。
そんなことを考えながら、次の案内場所である農場に向かっていると、空中に舞うもみ殻が見えて来た。
「シギさん! もう収穫ですか?」
「うん、早くとれる品種があってさぁー」
ニウブが声を掛けた先で、シギが器用に空中で脱穀をしていた。
優秀な風魔法使いは、飛びながら空中でモノを扱えるのだ。
「あ!」
「どうしましたか? タスクさん!」
「制空権を握るアイデアを思い付いた!」
「本当ですか?」
「うん、グレタさん! しばらく時間をください。きっと教皇都に対抗できる戦力を実現させて見せますよ!」
僕は、急いで試作品を作るためにラボへと駆け出した。




