瞳の奥の発明品2
「ここがカルミアさんのお家かぁ」
周りの木造古民家風の家と住居と違って、平たい石を積んだ壁と平板な陶器を重ねた屋根で出来た平屋建てで、この村では珍しい小ぶりな家だった。
「私と二人暮らしだから、このくらいでちょうどいいの」
アレクサはそう言うと、皆を家の中へと案内した。
「あら、開拓団のメンバー全員集合ね」
「カルミアさん! 生石灰があると聞いて……。少し分けてもらえないでしょうか?」
「良いけど、何に使うの?」
「それは……」
「それは?」
少し自信なさげに話していたニウブは、勇気を振り絞ってカルミアを見つめた。
「それは、とてもキラキラしたモノを作るためです!」
「はい。これが生石灰」
カルミアは、取り出した生石灰を水の入ったカップに少し入れてみる。
すると、カップの水がブクブクと激しく沸騰しだした。
「わー! おもろいなー! クマちゃんにもやらせて!」
目をキラキラ輝かせ、クマは生石灰によって沸騰する水を眺めている。
「たしかに、生石灰です」
ニウブは、お椀にシギに集めてもらった珪砂、クマの取ってきた昆布を焼いて作ったソーダ灰とカルミアにもらった生石灰を入れて混ぜ合わせた。
「これをどうするの?」
「昨日の鉄みたいに高温で焼く……じゃなくて、入れ物に入れて温めます」
「なるほどね。でも、こんなにいっぺんに時間をかけて焼くより、少しずつを短い時間で温めれば良いんじゃない?」
「あ! そうですね。鉄みたいにいっぱいは作らなくても……」
「だったら、私が焼いてあげる」
そう言うと、カルミアは小鉢に混ぜた材料を入れて、竈に置いた。
そして、両側から火を浴びせて小鉢を高温で温めだした。
やがて、お椀の中の混合物がふつふつと泡を立てて上蓋をゆらしだす。
「もういいかしら?」
泡立ちが収まってきたところでカルミアがふたを開ける。
「オレンジ色に溶けてるわ」
「ちょっと、見せて下さい!」
「わー! ほんとに出来てる~!」
「クマちゃんにも見せて!」
「待って! クマちゃん! まだ完成じゃない!」
「でも、クマちゃんにお願いしたいことがあるから!」
温度が下がるとともに、オレンジ色だった液体は茶色くくすんだ色へと変化していく。
ソレを窪ませた鉄板の上に垂らしていくと、まるではちみつみたいな粘り気を持って零れ落ちる。
そして、クマが器用に跳ねたさせたり転がしたりしているうちに、どんどん硬くなっていく。
温度が下がって赤みも無くなっていくと、最後には薄緑に透き通った球体へと変化した。
「綺麗……」
「ほんと、キラキラしてんな……」
「エクセレントね……」
クマは、まだ温度が500度近くある輝く小さな球体を、熊の爪で挟んで持ち上げる。
「これ、なんて言うん?」
ニウブは、自らの瞳と同じ輝きを持つ球体を見据えて答えた。
「ガラスのビー玉です!」
粗熱の取れたビー玉を光にかざし、丹念に見つめるカルミア。
「良いんじゃない?」
「ということは?」
ニウブは、胸のあたりで両手をギュッと握りしめ、緊張の面持ちでカルミアを見つめる。
「ようこそ! 開拓団へ。修道女さん」
カルミアは、ニウブの方へ向き直りニッコリと柔らかな笑顔を見せた。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがと……」
涙を流して喜ぶニウブを祝福しようと開拓団の仲間が殺到する。
「うっ、クゥー! よがっだなぁ~! ほんと、よがった! うぅ……うわーん!」
一番最初に抱きしめに行き、感極まって大声で泣き出すキキョウ。
「よく頑張ったねー……。いいこいいこ。うぅ、私も泣いちゃう……」
ニウブの頭を撫でながら、涙を流すシギ。
「ひっく……。あんたのこと認めてあげるわ! ひっく……泣いてなんかいなんだからね!」
強がりつつも、我慢できずに泣き出すアレクサ。
「うえーん! みんなが泣いてるから。クマちゃんも泣く!!」
訳も分からず泣くクマ。
そんなこんなで、泣きあっていた魔法使いたち。
落ち着いてくると、先ほど出来上がった輝かしい球体に興味が……。
「お姉ちゃん! 貸して!」
アレクサが奪い取るようにビー玉をつかみ取り、高々と掲げた。
「透き通る氷のよう……。まさに、冷凍魔法使いの私にこそふさわしい一品!」
「何バカな事言ってんだよジャリが! いろいろ世話を焼いた功労者の俺がもらうべきだろ!」
と言って、今度はキキョウが奪い取り、手のひらで転がしながらうっとりと見つめる。
「何言ってんのよ~! 一番大事な砂を集めたのは私なんだから~!」
今度は、風の魔法で掠め取ったシギが、奪われないように胸の前でギュッと握りしめた。
「カルミア! もっとデッカイの作ってー! 熊の目玉にするんー!」
「あ! 抜け駆けすんなクマ!!」
「お姉ちゃん! 私にもー!」
「こらー! 私の砂を勝手に使うな~!」
「はいはい、順番にね」
「わたし、調合します!」
ということで、みんなでガラス作りで夢中になっていたころ……。
「あー! 神さま仏さま! どうか、ガラスを……。無事完成させてください!」
ひとり忘れ去られていたタスクは、必死に神頼みをしていたのだった。