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瞳の奥の発明品1

 翌朝、ニウブは一人で砂浜に来ていた。

 砂浜で屈んで何かを必死に拾い集めている。

 昨晩、ヒストリアの魔法を掛けて引き出した、新たな”役に立つモノ”のレシピ。

 そのレシピに必要な材料をあつめているのだ。

 夢中で集めていると、やがて足元に満ち潮が押し寄せて来る。


「おい! おまえ、何やってんだよ。漁をしている時間に海入ったら感電すんぞ!」


 海水に浸かって、材料拾いをしていたニウブを注意してきたのは、キキョウだった。

 電撃魔法を使った漁に出ようと、砂浜に係留している舟に乗り込みにやってきたのだ。


「あ! おはようございますキキョウさん。貝殻を集めるのに夢中で……。いつのまにやら、海の中に」

「貝殻? 貝が好きなのか?」


 ニウブに対して不思議なものを見るような眼差しを向けるキキョウ。


「いえ、新しい発明の材料で、殻の方だけ必要なんです」

「こんな苦労して探さなくたって、ゴミ捨て場行けば貝殻なんていっぱいあんだろ?」

「えええ!? そうなんだ……。でも、ゴミ捨て場ってどこに?」

「ちっ! しょうがねぇな、案内してやるよ!」


 やれやれといった感じで、キキョウは村の方へ歩き出した。


「あ、ありがとうございます!」


 トテトテと先を行くキキョウに駆け寄るニウブ。


「キキョウさんって、やさしいんですね」

「ばーか。漁やってる所でウロチョロされたら邪魔だからだよ」

「うふふ」

 


 二人は、村はずれのゴミ捨て場にやってきた。


「にしても、まだ諦めてなかったのか?」

「はい! だって、こんな私でも必要としてもらえるチャンスですから」

「ふん。その諦めねぇ根性だけは認めてやんよ」


 ゴミ捨て場で二人が話していると、後ろから忍び寄る怪しい影が……。


「キョウちゃん、言うことがイケメンやなぁ~」


 そう言って、キキョウの肩にまわしてくる毛皮の腕。


「なんだよクマ公! ニヤニヤすんなよ。どっから現れた!? てか、冷てえ!! お前、びしょ濡れじゃねぇか!!」

「ニウブちゃんに言われて、昆布取って来たんやで―!」


 びしょ濡れの毛皮から海水を滴らせ、縛った大量の昆布を肩から下げるクマ。


「クマちゃん! もう昆布を取って来たんですか! 私はまだチョットしか貝殻集められてないよー」

「昆布と貝殻? 味噌汁でも作るのか?」

「えへへ、あともう一つ集めないとイケないんですが……」


 ニウブがゴミ捨て場の貝殻を集めた後、みんなでクマの家に向かった。


「貝殻は高温で焼かないといけないから……、先に昆布を乾かしてから焼きましょう」


 たき火を焚いた横に、物干し台を立てて昆布を乾燥させる。

 しばらくして、からっからに昆布が乾いたら、石の土台に載せて火を点けた。

 完全に燃え尽きて、灰になったものを茶碗に集める。


「あんなにいっぱいあったのに、ずいぶん少なくなるんだな」

「ええ、でもお茶碗一杯分もソーダ灰が取れたのでもう十分です!」

「ソーダ灰?」

「もしくは、炭酸ナトリウムですね」

「キキョウには理解できないと思うわー」

「こら! お前だって分かるわけないだろ!」


 キキョウがクマを怒鳴りつけるが、クマはすでに興味を失ったかのように無視して空を見上げた。


「シギ遅いねぇ~」

「おまえ、そうやって都合が悪くなると無視するの良くないぞ!」

「シギさんには、なるべく白くて透明なものって、お願いしたので……」

「あ!」


 クマが声をあげて指さした方向に、飛んでくる小さな人影が見える。


「シギが帰ってきた!」


 だんだん大きくなり、形がはっきり見えてくると、風呂敷を背負ったシキだとみんなにも判った。

 みんなが集まっているところへ、ふわりと着地するシギ。


「お気に入りの砂浜まで、行ってたから時間かかっちゃった」

「いえいえ、苦労かけさせちゃってすいません」


 ニウブは申し訳なさそうにお辞儀をする。


「ほんとだよ~! やったことないから、集めるの大変だったよ~。でも、みてみて!」


 シギが風呂敷を広げて、集めたもの自慢気に見せてきた。


「うわぁ~! キレイですねー!」

「キラキラしてとるなー!」

「おい!俺にも見せろよ!」


 キキョウが、風呂敷の前に陣取るクマとニウブを押しのけて、中身を見ようと首を伸ばす。


「って、なんだよ。ただの白い砂じゃねぇか」


 しかし、風呂敷の中身が何の変哲もない白っぽい砂だったのでがっかりした表情をする。


珪砂けいさって言うんですよ。まぁただの砂なのは本当ですが、これが一番大事な材料なんです!」

「ただの砂だけど、なるべく透き通った砂だけより分けるの大変だったんだよー! 何度もグルグル飛ばしてより分けたんだから」


 シギは、風の魔法を使って空中に舞い上げた砂から、不純物だけ吹き飛ばして透明な珪砂を選別したのだ。 


「シキさん。帰ってきた早々で、悪いんですが…。貝殻を焼くの手伝って下さい」

「えー。ちょっと休ませてー! お腹がすいて力が出ないよー」

「すみません! そうですよね。みんなでお昼ごはんにしましょう」


 みんなでクマの家に戻り、有り合わせの材料で昼食の準備をする。


「クマ! てめぇ料理が雑なんだよ! 出汁とった昆布をそのまま味噌汁に入れるか?」

「うわーん……! シギー! キキョウがいじめる~!」

「てめぇ! ウソ泣きやめろ!」

「仲が良いんですね。クマちゃんとキキョウさん」

「あれは、キキョウがもてあそばれてるの~。キキョウって単純バカだから~」


 二人を無視し、貝を食べるのに集中するシギ。


「最初に浜辺で採った貝をお昼ご飯に使えて良かったです」

「あー。後で貝も焼くんだっけ?」

「はい、貝殻を高温で焼いて生石灰きせっかいを作るんです」

「生石灰なら、有るじゃん……」

「「「「え?」」」」


 発言の主は、いつの間にか昼食にありついていたアレクサだった。


「おまえ? いつから居たんだ?!」

「何かブリリアントなモノを作ってるって噂を聞きつけて、のぞきに来たのよ」

「あ、あの! 生石灰があるって……」

「クマ! あんた持ってるんじゃないの?」

「え? 知らへんよ」

「ああ、この子。モノを知らないんだった……。クマ! 漆喰とか、白壁に使う白い粉のことよ! あんた家建てるのが仕事なんだから、いっぱい持ってるでしょ?」

「それは、たぶん消石灰では?」

「え? 違うの?!」


 ニウブに否定され、戸惑うアレクサ。


「生石灰を水に反応させたものが消石灰。セメントや白い塗料に使えます」

「じゃあ、消石灰の元になるものが生石灰なのね」

「はい。なので、消石灰を作った人は持っているかと……」

「クマちゃん、白い粉カルミアからもらったで」

「カルミアさん……」


 ニウブが頭を下げて暗い顔をする。


「なに? 反対してると思ってるの?」

「大丈夫。お姉ちゃんはそんな心の狭い人じゃないわ」

「残りの材料も持って、家に来なさいよ。その方がこんなぼろっちい竈じゃなくて良いのが……」

「ガブ……!」

「痛たたたたたた! 悪かったわよクマ! ごめんなさいー!」


 朝から徐々に増えて行った総勢5人の魔法使いたちは、村の中心のちょっとはずれにあるカルミアの家へ向かった。



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