どっちがかわいそう?(奈々)
「はー。やっぱり遠くの街にくると落ち着くね〜」
「あの、電車に間に合いませんから、少し急いでくれませんか!」
友達(?)の蛍と電車に乗って日帰り旅行を楽しんだ私たち。
今は家に帰るために駅に向かっています。
「そんな急ぐことないじゃん」
私は急ぎ足だというのに蛍は首の後ろで手を組んで呑気にあくびをしている。
左手の中指にはコンビニ袋を引っかけていて、ポニーテールのように右に左に揺れている。
早めに帰って、自分の時間をゆっくり過ごしたい私。
疲れるのは嫌だし、家は1人でさみしいからゆっくり帰りたい蛍。
「急いで乗っても、乗り換えで待たないといけないからさ、ほら」
蛍が私にスマホを見せる。
電車の時刻表だった。
それを見ると、確かに急がなくても良さそうです。
「ふーむ」
私は、それを見て呟いた。
「奈々ちゃん、ホームで30分くらい退屈な時間を、汗を流して、息を切らせて、待つつもり?」
「それは・・・・」
汗で濡れた服と息切れした自分の姿を想像すると、確かに。
「私たち女子高生だし、落ち着いて優雅に行こう♪」
「そうですね。到着が変わらないなら急ぐ必要はないですし」
蛍に丸め込まれる形になったのが釈然としないので少し心はモヤモヤします。
「でも普通、電車の時刻を調べてから動くよね。さすが情弱」
・・・ そういうのは思っても口に出さないでください ・・・
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『やーい、お前の母ちゃん、低所得』
2人で歩いているとどこからか声が聞こえました。
大きな男の子の声とそれに続いてケラケラという複数の笑い声。
「あそこだね」
蛍が指をさす方を見ると公園でひとりの女の子を数人の男の子が囲んでいます。
みんな、ランドセルを背負っているので小学生だということがわかりました。
暴言を吐かれた女の子はうずくまっています。
「ここまで、ベタないじめの風景ってあまりないよね〜」
「あの、感想はいいんで助けに行きましょうよ」
「あ、ちょっと。奈々ちゃん!!」
とっさに体が動いた私は小学生の元へ向かいました。
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「すいませーん」
子供たちにやんわりとした口調で話しかける。
「お姉ちゃん。なんなのいきなり」
ガキ大将の子供は動じることもなく答える。
なんというか、大人慣れしているようです。
「女の子、泣いてますけど」
「泣くほうがおかしいと思う」
このガキ大将、倫理観がないようです。
・・・ 私、この手のやりとり苦手なんだけどな ・・・
「えっと、相手が嫌がったり傷ついたりするようなことは言わない方がいいと思います」
「そっかー、傷ついてたんだ知らなかったー」
棒読みで男の子は答えたが顔は笑っていた。
その様子を見て周りの子もニヤニヤしている。
現代の子供たちは手強いです。
・・・ というか、私がなめられてます。 ・・・
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「まだ、終わらないの?」
公園の入り口で待っていた蛍が会話に入り込んだ。
私とガキ大将のやりとりが長引いたので待ちくたびれたらしい。
「まー、私は女の子が泣く理由も男の子が笑う理由もわからないんだよね」
手にかけたコンビニ袋を軽くグルグル回しながら怪訝な顔をする蛍。
「だってさ、自分の親が貧乏でからかわれても私は『だから何?』って思っちゃうもん」
「そうだよね!」
男の子たちには思わぬ味方でした。
どうやら私の友達は人の心がないようです。
しかし、蛍の様子がなぜかおかしい。
お腹を抱えて、苦しそうに笑っています。
「それよりも、笑いが・・・我慢できない、もうダメ」
笑いをこらえてなんとかガキ大将の方を見て息を整える蛍。
その場にいた全員は私も含めこの奇行に大きく引きました。ドン引きです。
「だってさ、鼻毛出てるのに気づかないで大声出してるんだもん。
個人的にはそっちの方が面白くて、・・・あはは、やっぱダメ、顔を直視できない」
・・・ この人、さっきからガキ大将の鼻を見て笑ってたんだ ・・・
これに対しては周りの男の子たちも驚いたがチラッとガキ大将の顔を確認してはみんな笑いをこらえていた。
当の本人は顔を赤くして鼻に手を当てています。
「だからね。私が思うのは親をバカにされてる人より自分がバカだと言うことに気づかないで騒いでる君の方がよっぽどかわいそうで・・・あはは、ダメだって動いちゃ」
蛍はそういうとさらに笑った。
ガキ大将は赤面になり公園を出て行き、友達もそれに続き公園を去りました。
数分後、
最後まで泣いていた女の子もしばらくして泣きはらした顔を拭い、帰って言った。
こうして私たちは小学生の諍いを治めた?のでした。
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駅へ向かいホームで電車を持つ私たち。
「もう少し、優しく解決できませんか?」
「優しくって、奈々ちゃんみたいに小学生を相手にオロオロすること?」
・・・ 痛いことを言ってくれます ・・・
スマホを見ながら肉まんを食べる蛍は私に呟いた。
「でも、自分の身内がからかわれるのって、ただ自分が不快ってだけで誰にも迷惑かからないけどさ・・・」
蛍は口に手を当てると思い出したように笑う。
「自分が馬鹿なことに気づかないっていうのは、知らないうちに周りに迷惑をかけていて、さらには知らないうちに自分が恥をかいているっていうのがかわいそうでさ」
スマホをバッグになおした蛍は私に問いかけました。
「親のことでからかわれる人と、自分がバカなのを自覚できない人ってどっちがかわいそうなんだろうね?」
・・・ それは、比較して意味のあることなのでしょうか? ・・・