涙と始まり
久しぶりの投稿ですね。
「う……」
あれから数時間後。
ようやく目が覚めたエレノアはゆっくりと重い体を起こし、激しい頭痛に見舞われながらゆらゆらと立ち上がった。
「はぁ……まさか魔力が無くなるとあんな事になるなんて……」
激しい頭痛に頭を抱えながらエレノアは周りを見渡した。
そこは部屋全体が大理石で出来ている美しい広間だった。壁にはいくつものクリスタルガラスの窓、煌びやかな大きな扉。そしてなんと言ってもこの広間で一際異彩を放っている王座。
目の前に広がった光景はさながら王族などが住まう城そのものだった。
「まさかここまで凄いものが作り出せるとは……」
表情には出ないが、驚きを隠せないエレノアは出来上がったお城を探索してみることにした。
広間の出入り口である大きな扉はエレノアが近づくと自動的に動き、開いた。
そして開いた扉から見る美しい白い通路には目を奪われるものがある。
「これは流石にやりすぎ感はある」
これだとここがダンジョンとは絶対に思わないだろうな。まぁそれもそれで良いかも知れない。
ここがダンジョンだと分かればたくさんのプレイヤーが来るだろう。そうなると必然的に私の住処が無断で侵入されているようなものになる。
「まぁそんな心配しなくてもいいか。だってここ空の上だしそう簡単に人は来ないはず」
飛行系スキルが存在しなかったらな。
その後エレノアは城内を歩き回り大体の部屋の位置を把握した。
だが城内はかなり広く、見て回るだけで一日を費やしてしまったのは誤算だった。
何故誤算なのかと言うと明日が敵性エネミー実装日だからだ。
敵性エネミーが実装ということはエレノア自身とダンジョンの守りを固めなくては行けない。現在エレノアの持つ武器は細剣のみだ。
流石に細剣だけでは心許ないと思うのも仕方がない。
戦いは何が起きるのか予想がつかないのだから。
城内にある寝室でゴロゴロと寝転がりながら何をすれば良いかを必死に考えたがどれもパッとしない。
どうやらダンジョンマスターはダンジョンに敵性エネミーを召喚することが出来るらしい。
だがどの敵性エネミーもここの白い城には合わなかった。
だって骸骨やら、ゾンビやら、幽霊やら、ゴブリン、オークとかだもん。
せめて聖騎士ぐらい居て欲しかった。
「ふぅ……取り敢えず明日はひたすらダンジョン下の森でレベリングかなぁ」
今日は城内を見て回るだけで一日が終わってしまった。
今もこうしてゴロゴロしているだけでどんどん日が落ちて来ている。窓から見える空は美しいオレンジ色だ。
そういえばご飯食べてないな。
これは重大なことだ。
食事とは私の生き甲斐でもあるからな。
エレノアはベットから飛び起き、キッチンに向かった。
と、言ってもキッチンに向かった所で食材があるとは限らない。何処からか買ってきたわけじゃないし、狩ってきたわけでない。だから食材はある筈は無いのだが万に一つがあるかもしれない。
キッチンに着いた私は引き出しをガサゴソと漁った。
キッチンはとてもシンプルな作りだ。
別にこれといって特徴的なものはない。
強いて言えば火や水を出す物が魔石と言うことぐらいだ。
別に燃える氷とかあったし驚きはしなかった。
「……何これ?」
ふとテーブルの上を見てみるとそこにはサランラップに包まれているおにぎりが2つお皿の上に置いてあった。
いやいやいや。
明らかに不自然でしょ。
これ絶対人の手で作ったやつでしょ。
もしかしたらダンジョンの不思議機能が作ってくれたのかな?
不安は残るもののお腹がすいたのでエレノアはお皿の上に置いてあるおにぎりを口に運んだ。
味は塩味でシンプルだったが何か懐かしいものを感じた。
「え……」
エレノアの頬に一筋の水滴が走った。
それはそれは生まれて初めて自覚した涙だった。
次々に目から溢れる涙。いつの間にか目の前が見えないほど涙を流していた。
遅いよ……。
なんであの時に流してくれなかったんだろう……。
なんであの時に……。
一体何故この涙が流れているのかは分からない。
こんな気持ち初めて……。
この気持ちを私は表現することが出来ない……。
涙が収まる頃にはお皿の上に置いてあったおにぎりは完食していた。
たった2つのおにぎりであったがエレノアはお腹いっぱいになった。
その後エレノアは寝室に戻り、死んだように眠りについた。
数時間後
『これより敵性エネミーのポップを開始します』
『全敵性エネミーポップ完了』
『次にエリア〈エルディバルト大陸〉の難関エリアに強欲の獣を配置します』
『配置完了』
夜明けと共に世界に鳴り響く声。
それと同時に各地の至る所に敵性エネミーが続々と生み出されていった。
ある個体はオオカミのような何か。
またある個体は伝説上に出てくるドラゴン。
この世界にエレノア以外の生命が誕生した瞬間だった。
正確には本物の命を持っているエレノアとは違うが、その見た目、動き、鳴き声は本物の生き物にしか見えない。
敵性エネミーがポップした瞬間即座に生態系ができ、生存競争が既に始まっている。
生存競争に負けた生き物は光の粒子となり、その亡骸をそこに残すことなく消えていった。
太陽はゆっくりとエレノアの空中ダンジョンを包んでいく。
太陽の光に照らされたエリハの森には活力が生まれ、エレノアの作った白い城はより一層神秘的なものとなった。
次からは毎週金曜日の19時~8時の間に投稿します。
気まぐれ投稿もあるかもしれません