思ってたのと……
「ん、美味しい」
昨日は色々な所を回っているだけで日が暮れてしまったので比較的綺麗なベットの家を見つけてそこで寝させてもらった。
この世界には電子機械なんてものが無い。ここの時代設定はかなり古いものだろう。
だがそれはそれで新鮮味があって良いものだ。
機械に頼らずに己の肉体と経験、知識だけで生活していた昔の人達はすごいと思う。
井戸水を汲むのがあんなに疲れるとは予想外だ。
「ご馳走様」
今私が食べていたものはパンに焼いたお肉を挟んだだけの単純な食べ物だ。
今日の朝お腹がすいたので家を空き巣みたく漁っていると美味しそうなお肉とパンが出てきたのだからつい作っちゃったね。
それにいくらゲームの世界と言えどお腹が空くのは変わりないようだ。
無駄なこだわり感が否めないが、ゲーム内でありながら味をしっかりと再現した事は普通にすごいと思う。
なんだっけ?伊沢だっけ?
今でもあの笑顔を思い出すとイラッと来るけどここまでこだわりを持った人だとは思わなかった。
私にあんな事をした以外はちゃんとした人だったんだな。
「今日は何するかなぁ」
昨日の時点で行きたいところには全て行ってしまっている。それに人が居ないので話し相手も居ない。
敵と戦おうにもそれは明日導入予定であり今は戦えない。
なら外に出て色々と探索してみるようかな。
「まぁゲームらしくダンジョンでもあれば楽しめるかな」
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エリハのダンジョン(未稼働)rank:E
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「いや本当にあったよダンジョン……」
あれから私が目覚めた森に戻り、スキルをフル活用して探索していると大きな洞窟を見つけた。
スキルで洞窟の中を確認すると罠だらけだ。
この〈探索簡略化〉のスキルを持ってない人からしたらただの地獄とも思えるような罠の数だ。
「敵性エネミーはまだ居ないから安心して入れる」
と言っても敵が居ないのは少々寂しいところはある。
せっかく良い武器を持っているのだから試し斬りぐらいしたかったな。
残念と溜息をしながらエレノアは脇に刺してある白銀の細剣に目をやりながら剣の頭に手を置いた。
「攻略開始」
洞窟の中に入るなんて今まで無かったし良い経験にはなる。
まぁ私が今から入るのはダンジョンなんだけどね。未稼働とは言え興味をそそらせられることには間違いない。
とは言え入ってみれば洞窟なんて何も無いところだった。ゴツゴツとした岩や石、所々に生えているコケ、パタパタと飛ぶ鬱陶しい羽虫。
いや~まさかここまで何も無いなんて思わなかった。
ゲームなんだから道の途中に宝箱とか用意しておいても良いんじゃない?
不満を頭の中で垂れ流しながらエレノアはさらに洞窟の奥へと足を踏み入れて行った。
すると目の前に光る紫色の水晶を見つけた。
そこは水晶を中心に広がる円状の空間だった。
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ダンジョンの核(未登録)
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ふむ……あの国に入った時からちょくちょく〈鑑定〉で色々見ているがやはりこのゲームが稼働前とあってほとんどのものが誰の所有物ではなかった。
そしてこのダンジョンもまだ誰の手にも渡っていなかった。
私は紫色の水晶をペタペタと触った。
『エリハのダンジョンのマスターになりますか?』
「……マスター?」
この声を聞くのも昨日ぶりだな。それにしてもダンジョンのマスターか……。
ここは気になることを聞いてから決めるか。多分昨日みたく答えてくれるだろうしさ。
「マスターになった時の利点は?」
『ダンジョンマスターになった際の利点は3つあります。まず1つ目は1度だけ好きな場所にこのダンジョンを移動させることが出来ます。2つ目は自分の思い描くダンジョンを自由に作ることが出来ます。ですがダンジョンを作り替えるのにはそれ相応の魔力が必要になって来ます。そして3つ目の利点はダンジョンで死んだ者の経験値を全て貰える点です』
「ふ~ん……良いねぇ。面白いからなってみる」
『了承。只今よりエリハのダンジョンはエレノア様の所有物となりました。次に場所を指定してください』
場所ねぇ……。そう言われてもこの世界のこと私全く知らないのよね。今まで行った所なんて国とこの森だけだし。
『もしお悩みでしたらここに建てるなら理想と思うところをあげてください』
「……なら人が中々来ないところで、食料豊かな所」
『了承。転移を開始します』
え?今すぐなの?
少しの浮遊感を一瞬味わったかと思うとすぐにそれは収まった。
『転移完了』
転移とは案外あっさりしていものだな。いつか私も覚えてみたいものだ。
さて、外はどんな感じかな?
ゆっくりとダンジョンの入口に向かって歩き、外を見てみるとそこは空の上だった。
下には森が広がり、見渡す限り雲しかない青々とした空だった。
どうやらエリハの森も一緒に転移したらしく、まさしく上空に浮かぶ神秘的なダンジョンの島になっていた。
「いや……食料豊か要素何処?」
おかしいな。確かに私は食料豊かな場所って指定したはずなんだけどな。
『今現在この世界に食料が豊かな場所は存在しません。なので最初にお答えされました人が中々来ないところに転移させました』
それを先に言えよと思ったがNPCすら居ないのに食料豊かな場所なんてないということに気が付きエレノアは「はぁ」とため息を吐いた。
「まぁ見晴らしが良くなって何よりかな」
元々ここのダンジョンは森の木々に埋もれるような形で存在していたが、今は森の中心にそびえ立つ山のような所に存在していた。これのおかげもあってダンジョンを出た時に今の状況がある程度把握出来たのだ。
「で? どうやってここを改築するわけ?」
『ダンジョンルームに設置してある紫色の水晶に魔力を注ぎながら変えたい形を想像すれば出来ます』
あーあの水晶はその為の物なのね。
でも今の私の魔力はたったの100よ?
『それに関しては大丈夫です。一回目だけは現在保有する魔力以外消費しません。ですが二回目からはご自身のイメージする構造に比例した魔力を与えなくてはいけません』
なんという良心設定!
そうと決まればどんなダンジョンにするかを決めなくてはな。せっかく空中に浮かぶダンジョンなのだからお城系が良いな。
ダンジョンルームに戻りながらゆっくりとイメージを膨らませるか。
まず外装は白を基調とした感じで、芝生のある庭が欲しいな。内装も清潔感のある白を基調としたい。
あとベースは城なんだから広々とした王座を置く部屋が欲しいかな。勿論ふかふかのベットが置いてある部屋や、キッチンも欲しい。
その事を踏まえた上でしっかりとイメージすると頭がパックしそうだ。
ダンジョンルームに置かれている紫色の水晶に手をかざし、練りあがったイメージを水晶に流し込む。
すると激しい振動と共にダンジョン内部の構造が変化して行った。
だがエレノアは額に汗を浮かばせながらその場に倒れた。
「これは……」
『魔力切れによる影響です』
こんなシステムがあった……なんて……知らな……い……。
エレノアのかろうじてとどまっていた意識はそこで暗闇に消えていった。
ストック切れたので不定期になります