転生
『対象の生命活動の停止を確認。第3フェーズに移行します』
私は……死んでしまったの?
『対象の残存意識を読み込んでいます』
あぁ……何も感じない。事故で動かなくなった下半身のみならず頭、腕、首までもが感覚がない。
よく見ると私の体がそこには存在していなかった。これは魂だけの存在ということなのか?
『事前に解析した対象の生体データを元に新しい身体を構築します』
身体の構築……?一体何をしようとしているの?
『構築、移行します』
何処からかやってきた光の粒が私を次第に包んでいく。そのうち腕、足、頭などが次々に出来ていくことを実感した。
出来上がっていく私の体にはしっかりと感覚があった。勿論感覚を失い動かなくなった私の下半身も。
『最終構築完了。これより対象名〔ユズハ〕は世界抑制システムに組み込まれるます』
世界……抑制システム……?
『対象名〔カナデ〕をエリハの森に転送させます』
転送……?それに森?
転送が開始されると柚葉の足から順に光の粒となりついには全身が光の粒と化した。
「ゔっ……ここ……は……?」
次に目を開けた時には煌々と照りつける太陽の下だった。私が寝ているところはふさふさとした背の低い草が一面に生えている。
「森……?」
周りを見てもあるのは草木だけ、本当にここは森の中のようだ。
『対象名〔カナデ〕の設定を開始します』
『対象名〔カナデ〕は〔エレノア〕に変更します』
『これで対象名〔エレノア〕の設定を終了します』
突然頭の中に何かが喋りだしたと思ったら何もする間もなく終わってしまった。
取り敢えずは私の身に何があったか確かめなくてはいけない。
『次にシステムアシストを開始します。手順にそって進めてください』
どうやらあれで終わりではなかったようだ。
この頭の中で直に話しかけてくるような声は一体なんなのだ?
『まずステータスと言い仮職業を決めてください』
「……ステータス」
今はこの指示通りに動いた方が良いだろう。下手に無視して後で失敗するよりかはマシだ。
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名前:エレノア 種族:━
Lv:0/400
職業:━
HP100/10000
MP100/10000
ATK100/6000
DF100/6000
SP100/6000
【通常スキル】
無し
【種族スキル】
無し
【固有スキル】
無し
【権能】
無し
【称号】
無し
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目の前に現れた半透明の何かにはゲームさながらのステータス表が映し出されていた。
『現在エレノア様が選べる職業は探索者or剣士です』
ふむ……これは実質一択だろう。
探索者は何かを探すことに特化した職業だろう。剣士は剣を扱う職業の事だな。
この状況下で選ぶべき職業は探索者だ。
探索者にした理由としては近くにある家や人を見つけやすくなると思ったからだ。
『探索者が職業として設定されました。これにより【通常スキル:〈探索簡略化〉〈鑑定〉〈気配察知〉】を獲得しました。以降スキルを使う際には強く念じ、スキル名を言えばそのスキルを使うことが出来るようになります。最後に何か質問はありますか?』
質問か。
ならこれしかないだろう。
「じゃあ……ここはどこ?」
『ここは調整中のフルダイブ式VRMMOの中です。調整中な為貴方以外のプレイヤーやNPC、敵性エネミーなどはまだ存在しません。ですが建物や物資は既に存在しています』
なるほど……ゲームの中ということか……。
しかもフルダイブ式VRMMOとは……。ここまで開発が進んでいることに驚きだな。
でもこのぐらいの技術なら今の世の中公表されてないだけで確実に無いとは言えないしな。
『他に質問はありますか?』
「私は本当に死んでしまったの?」
『対象名〔ユズハ〕は現実世界で死に、ゲーム内で〔エレノア〕として生を与えられました』
なるほどね。大体理解出来た。
つまり今の私は自我のあるNPC又はこの世界に縛られた死者という位置づけだな。
何にせよ私はこうして新たな生を与えられた。ならば楽しまなくてはなんになる。
別に父に復讐しようとは思わない。逆に感謝していると言っても過言ではない。
こうして私に今まで以上に楽しくなりそうな日々と歩く足を与えてくれたのだから。
『質問は以上ですか?』
「あー……プレイヤーやNPC、敵性エネミーはいつここに来るの?」
『それは未定ですが敵性エネミーは早くて2日後、NPCは3日後、プレイヤーは当ゲームがリリースする1ヶ月後に来ると思われます。質問は以上ですか?』
「ありがとう」
『これでシステムアシストを終わります』
システムアシストが終了すると耳にキンキンと響くような声は止まった。
まず私が最初にやるべき事は町を見つけることだ。
確かシステムアシストは強く念じてスキル名を言えば使えると言っていた。
「〈探索簡略化〉」
そう口に出すと目の前の光景が一瞬にして変わった。私の目には黒の大地を走る蛍光緑の線が一メートル四方の枠を無数に作り見渡す限り広がっていた。
草や葉っぱなどの細かいものは視界から無くなり、あるのは岩や木などの大きなものが私の目に映っている。
「これは便利だな。邪魔なものは省き、必要な情報だけを最適化して見えるようにするスキルか」
目から見える光景には一メートル四方に蛍光緑の線が入っているので距離が図りやすい。だが周りを見渡しても人らしい影はない。
もしかしたらこれはあくまで探索を簡単にするスキルであって、人などの生物を見つけることに対しては効果外と言うことか。
ならばもう一つのスキルが有用になってくるな。
「〈気配察知〉」
思った通り〈気配察知〉を使うことによって〈探索簡略化〉に生物の形が赤く映し出された。
〈気配察知〉に引っかかる生物は見る限り小さな虫以外の動物のようだ。まぁ虫が表示されたら一面真っ赤になりそうで怖かったな。
ん?これは……山道?
私は少し遠くに道らしきものがあることに気がついた。道と言っても綺麗に整備された道ではなく人などが歩くことによって出来る自然の道だ。
あそこまで行けば町とかに道が続いているかもしれない。
それから私はしっかりと感覚のある足で歩き、森を抜けて山道に出た。
地面が木の根っこや石でガタガタしているせいで足腰がガクガクだ。
そしてスキルを2つ同時に使っているのが原因なのか知らないが、目がとてつもなく痛くなった。しばらくはこのスキルを使うのは控えておこう。
「……取り敢えず道に沿って行くか」
永遠のように続く何も無い道を歩くこと数時間。ようやく何かを遠目で発見した。
それは巨大な壁だった。それも円状に何かを囲んでい巨大な石の壁だ。
近くに行くとさらにその大きさが分かる。
高さ30メートルはあるだろう。さながら城塞都市みたいだが作りが甘い。触ると所々がボロボロと剥がれ落ちてしまうほどだ。
「まだ調整中だから作るが甘いのかな?」
そんな事を思いながら私は人が一人やっと入れるような小さな門から中へと入った。
中へ入ると大通りに沿って周りに沢山の建物がずーっと連なっていた。
ここはもう町ではなく国だな。
今はシステムアシストが言っていたようにここに住むはずのNPCはまだ居ない。なので今出来ることをやろう。多分だがNPCが導入されればお金も流通することになる。
だが今の私の所持金はゼロだ。無一文だ。
かと言ってどう稼ぐかと言われても人が居ないから働き口も無い。
こうなったら人が来る前に欲しいものは揃えちゃった方が良いという結果になる。
少し罪悪感はあるが法もお金も、人も居ないのならば今は私が全てだ。
なので今だけは私がやりたい事をやればいい。
取り敢えず最初はこのダサい服を着替えたい。
服屋は何処だ?と歩き回っていたらそれらしい店を見つけた。店内は狭く品揃えが最悪だったが良い服も数点見つけた。
その中で良いと思ったのが白の生地に金色の刺繍が少しだけ入った半袖の服と、黒い生地にこちらも金色の刺繍が少しだけ施してあるショートパンツだ。
そしてその後私は他に何か無いかなと探していると店の奥から膝まである黒いコートを発見した。
どうやら表には飾られていないことから非売品だったのだろう。
身につけていた粗悪な服を脱ぎ捨て、白い半袖の服と黒いショートパンツを履き、膝まである黒いコートを着た。
中々に良いデザインの服では無いだろうか?
次にやるべき事は武器探しだ。
あと2日後に敵性エネミーが導入されると言っていた。敵性という事は襲ってくるということだろう。その為ここを出た時自分の身は自分で守らなければならなくなる。
確か服屋の隣が武器屋にありそうな剣と剣が交差した看板が立ててあった気がする。
服屋を出て隣の店に入ると案の定そこには大量の武器が置いてあった。
剣から槍、斧、鎧などが大量に所狭しと言ったん時で置かれていた。
だがここで剣を持った時に1つ問題が起きた。
それは重すぎたのだ。
いくら柄の部分が木で出来ているとしても他は鉄で出来ていることには変わりない。
一応剣よりも使用している鉄の量が少ない槍も持ってみたのだがどうもしっくり来なかった。
剣より重い斧なんてさらに無理だ。
後に残るは弓、短剣、細剣だ。
遠距離から敵を倒すことの出来るのが弓の良い所なのだが矢が無くなってしまったり、敵が自分の懐に入りすぎると使えなくなる難点がある。
逆に短剣は近接戦や投擲によって幅広く戦えるが、こちらも投擲してしまった場合武器が無い状態になってしまう。それにリーチが短いというのも難点だ。
と、言うことは残るは細剣だな。細剣は刀身が細く、軽く振り回しやすいが横からの攻撃に弱く折れやすい。なので刺突で敵を倒すことに特化している分打ち合いには不利だ。だがこの細剣は何故かそう感じられなかった。必要最低限の装飾をしてある白銀の細剣。
この武器ならば私でも上手く扱えると心が言っている。
「これからよろしく」
そして私はこれから相棒となるだろう白銀の細剣を装備した。
明日も同じ時間帯で