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悲劇と混乱

私は今、交通事故で母を亡くし、自身の歩く足をも無くした私は絶望に暮れていた。

あれは一瞬の出来事だった。

ある日私と母は夕飯を買いに行く途中交通量の多いい交差点で信号を待っていた。すると何処からかパトカーの音が徐々に大きく聞こえてきた。音の聞こえる方向に目を細くして見るとものすごいスピードで走る車をドローンが追っていた所だった。

今の時代パトカーで犯人などを追うよりも小回りの効くドローンで追い、追跡した方が早い。

そしてドローンの位置情報を元に先回りし、捕まえるのが主流となっている。

今の世の中犯罪者は絶対に捕まえられる。なのにそれを知っても尚犯罪に手を染める。

やはり人の感情というものは分からないものだ。


「おい!逃げろ!」


逃げろ?一体何から?


私は声のした方向に目を向けた。

逃げろと言ったサラリーマン?の男は焦っていた。


一体何に焦っているんだ?


「奏!」


「…ッ!」


いきなり一緒に信号を待っていた母の声を聞いたと思ったら強い衝撃が体に走った。それは私の母が私の体を力いっぱい押した事なのだなとすぐに分かった。


だが何故押した?


その答えもすぐに理解した。

なんと私の目の前には先程ドローンから逃げようとしていた車が突っ込んできたのだ。


そして私はその後のことを覚えていない。

気がついたら病院のベットの上だった。


「ここ……は……」


「おお!気づいたか奏!」


いつの間にかベットの隣に居た私の父が涙を流しながら嬉しそうに言った。


「お母さ……んは?」


父は黙った。


何故黙る?別に黙るような事でもないでしょ?


すると父は小さい声で私にこう言った。


「母さんはもう居ないんだ……奏を助ける為に身を呈してお前を助けたんだ……」


「……え」


身を……呈して私を助けた?


分からない。一体何を言ってるの。その言い方じゃもうお母さんはこの世に居ないことに……


「嘘……だよね……?」


「事実だ……」


お父さんは涙を堪えながら私に言った。


「そしてすまない! 奏……今の技術ではお前の足を治すことが出来ない……」


「足……? 足がどうしたの……お父さん?」


「事故の影響で神経が傷ついて下半身が麻痺してしまったんだ……」


ふと、自分の足を見てみる。

確かにそこには私の足が感じられなかった。足はあるが、感覚がない。


何も感じない。


どうやら私はあの事故で……母と歩くための足を奪われたようだ。

あぁ……こんなに悲しいのになんで涙が出ないんだろう……。

私には感情がよく無いと言われていた。こんな時ですら感情を表せない。

そんな私は悔しくて堪らなかった。


「でも大丈夫だ奏。お父さんが奏の為に良い物を用意した」


「良い物……?」


「そうだ。これはまだ開発途中なんだが何とか1つ仕上がったものを友人が貸してくれるって言ってくれたんだ。これがあれば奏は自分の足で歩くことも、走ることも出来る」


「でも……さっき治すのは無理だって……」


「まぁ嘘だと思って使ってみなさい。幸い下半身が動かなくなっただけで後は異常が無かったから明日にでもその友人の所に行こうか」


父はにっこりと微笑んだ。

私はその微笑みに何故か引っかかるものを感じた。


本当に父は母の死を悲しんでいるのだろうか?

母が死んでしまったのに何故そこまで落ち込んで居ないのだろうか?

私の目にはどう見ても何かがあるのだろうとしか思えなかった。

最初こそ涙を流していたものの、今はもうスッキリと忘れたような顔をしている。

その訳を知らないと言えば嘘になる。

私の母と父はとても仲が悪かった。それはもう帰ってきた父にいきなり母が離婚届を出すほどに……だ。

その後私がそれを止めた事もあって何とか離婚せずに済んだものの夫婦の仲はさらに悪化した。

何故こんな事になっているのか。それは父が私が赤ちゃんの時にある研究所で私を使って実験をしたいと母に言ったからだ。

それを言われた母は大激怒し、父に殴かかったという。

母からこの話をされた時は父がそんな事をする訳ないと流していた。


だがこれが本当の話なのかは今でも謎だ。

何せ母はその時精神疾患を患っていたからだ。


「……お父さんはお母さんを愛してましたか?」


無意識に私は今まで聞きたかったことをポロッと口に出してしまった。

父は一体私が何を言っているのか分からない表情になった。


「愛していたさ。もちろん奏もな」


「……そう」


あまりにも軽い答えに私はどうしたらいいか分からなくなった。


「どうしたんだい? 急に()()()()()聞いて」


あぁ……やっぱり父にとっては差程お母さんは大事ではなかったのか……。


「少し気持ちを落ち着けたいからお父さんは……」


「長居してすまなかった。お父さんは仕事に戻るから何かあったら近くの看護師に言うんだぞ」


父はそう言ってせっせと病室を出ていった。

後に残ったのはシーンと静まり返る静かな病室と、どうしたらいいか分からない私だけが残った。







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