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レッスン1(ゲームの進化)Part3

読んで下さりありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

 「最後に触覚について見ていきましょうか。この技術は宇宙歴マイナス500年頃確立したけど、根本の原理は宇宙歴マイナス1000年の時代からできていたわ。」


 「ということは、読者にとって今から話す内容は『未来の技術』というよりも『超最先端技術』になるのかな?それにしても、触覚はどうやって再現するのかいまいちピンとこないな。FDVRを体験してる時って全身の触覚に反応があるよね。」


 「ええ、そうね。だからこそ我々はまるで現実世界かのようにバーチャルの世界を体験出来るわ。」


 「うん。FDVRの中でくすぐられると、本当にくすぐられている感覚に陥るよね。どういう仕組みなの?」


 「実は、触覚の再現を実現しているのは『空気の振動』なの。」


 「えっと?」


 「風が吹きつけてきた事を認識するのは触覚よね。それと同じで肌の近くで空気が激しく振動したら『何かが当たっている』と錯覚するの。それが触覚の再現の基本原理よ。」


 「ちょっと待って。確かに空気が振動が触覚と結びつくのは理解できた。でも、FDVRゲームをやってる時って『右手に何か当たった』『左手に何か当たった』みたいに体の特定の部位に何かを触れている感覚があったりするよね。あれはどうやって再現しているの?」


 「それは『波の合成』がキーになっているわ。」


 「波の合成?波がくっつくって事?」


 「そうそう。小さな波と小さな波がくっついたら大きな波になるって言うのは想像できる?」


 「それはまあ。お風呂とかで両手で水面を叩いたら、間に大きな波が立つって感じだよね。」


 「そうそう。で、空気の振動、すなわち音も波の一種よね。複数の小さな音が組み合わさってすごく大きな空気の振動になる事があるの。逆算して『特定の位置だけで』『特定の強さの』音を出すことが出来るわ。」


 「ふえー。難しいけど、取り敢えず『複数のスピーカーから色々な種類の音を出す』→『音波が合成される』→『特定の位置だけで激しい空気の振動が起きる』→『我々がそれを触覚と認識する』って訳ね。」


 「そうよ。まあ、詳しい原理は私にも説明できないわ、専門じゃあないし。」


 「専門じゃあないのにそこまで詳しいって言うのがすごいよ。流石キャニス。」


 「そ、そんな素で褒められるとむず痒いのだけど。ところで、この技術は何がきっかけで発展したと思う?」


 「え?音の研究とか?」


 「実は海洋学の研究なの。それほど強い風が吹いていないにも関わらず、大波が立つことがあるの。これって危険よね。」


 「だね。気象予報では『快晴!風一つないです!』って言われてたのに、現地では大波が立っているってことだものね。」


 「ええ。昔の人はこういう大波を馬鹿でかいイカのせいにしたり、巨大な魚のせいにしたりしたわ。」


 「それは知ってる。いわゆるクラーケンってやつだよね。ゲームの敵キャラで登場するね。」


 「そうそう。でも、もちろん大波はクラーケンのせいじゃあない。研究者たちは『意識しないような小さな波が集まってきて、それが大波になっているのでは』と推測したわ。」


 「なるほど。で、そういう『小さな波が集まって特定の場所でだけ大きな波が発生する』ことを用いて『触覚発生器』を作成したって訳か。」


 「正解。全く違う分野と思われていた研究が融合したときに大発見があったりするの。だからこそ我々は専門分野に関する狭くて深い知識を持ちつつ、浅くて広い知識も持っていることが望まれるの。」


 「はい。なんか本当に先生みたい。」


 「ふふ、ありがとう。」


 「ところで、嗅覚や味覚は再現できていないんだよね。」


 「現時点ではね。」


 「でもさ、こういう感覚も結局は神経に流れる電気信号だよね。」


 「ええ、そうよ。」


 「じゃあさ、脳に電流をバチバチ!って流すことで五感全てをカバーできたりしないの?」


 「えっとね、脳の構造はブラックボックスだから現時点では不可能とされているわ。」


 「ブラックボックス?」


 「簡単に言うと、人によって違う故に何も分かっていないという事ね。例えば、Aさんの脳波を測定すると、頭の一番上に位置する神経細胞を刺激する事で味覚を再現できると分かったとしましょう。でもこれは必ずしも別人でも当てはまるわけではないわ。例えば、Bさんの頭の一番上に位置する神経細胞を刺激すると味覚ではなく嗅覚の刺激になっちゃう、みたいな。」


 「そんなことあるの?」


 「これは例であって、実際はもっと複雑よ。うーんどう説明すればいいのかしら……」

 そう言いながらキャニスはこんな図を描いた。


目からの刺激→A→B→C→D→E→運動


 「例えば、目で見た情報が処理されて、運動に結び付いたとしましょう。『足元にボールが見えたから拾った』みたいに。」


 「オーケー。情報がAからEに伝わってるってことだよね。」


 「そうよ。ここで、何らかの原因によってDが壊れてしまったとしましょう。脳出血や外部からの物理的刺激などが主な原因ね。」


目からの刺激→A→B→C→<破壊>→E→運動


 「こういう時、どんな治療を受けるかな?」


 「リハビリテーションだね。はじめはうまく動けなくても、練習を続けることでまた通常通りの動きが出来るようになるよね。」


 「ええ。じゃあこの時、どんなことが起こっていると思う?Dの部位が復活したのかな?」


 「そうだよね?」


 「ぶぶー。不正解。まあ、そういう場合もあるかもしれないけど、基本的なメカニズムはこうよ。」


目からの刺激→A→B→C→X→Y→E→運動


 「え?どういうこと?どこからXとかYが出てきたの?」


 「まず初めに言わないといけないのは、『一度破壊された神経細胞が復活する事は基本的には無い』ということ。一度壊れたDが復活する事は無いの。まあ、新しく細胞が生まれるケースが無いという訳ではないのだけど……今はそのケースは無いという事にして。それでね、Dが復活する事は無いけれども、その代わりに全く別の経路が誕生するの。遠回りだから今まで使ってなかった経路が生まれるって訳ね。」


 「ふえー。そんなことが起こるんだ。なんか道みたいだね。通行止めになったから回り道をするみたいな。」


 「ええ、そうね。新しい回り道を模索する作業こそがリハビリテーションって訳ね。」


 「なるほど。あれ、そうだとすると、健康な人のDはこの人の場合はXやYってことになるよね。ちょっと違和感。」


 「そう。だからこそ脳って言うのは難しいの。これでさっき言った『人によって違う故に何も分かっていない』の意味が理解できた?」


 「ばっちりだよ。こんな風に、同じ動作でも人によって使う脳の部位が異なるケースがあるから、『脳に電気を流すことで五感を再現』って事は出来ないのか。」


 「出来ないんじゃあない。あくまで『まだできていない』よ。読者が生きた時代から4500年経って実現していないというだけで、もっと後の時代には実現しているかもしれないわ。」


 「そ、そうだね。頭ごなしに否定するのは科学の発展を妨げる行為だよね。あれ?でも最近ニュースで『クラウドに移住することの是非。人類は機械の中で暮らす?』ってやってたよ。あれって脳を機械に移すってことだよね。」


 「ええそうね。」


 「それって、可能なの?さっきの理論を聞くと無理そうに思えるのだけど……」


 「あれね……。『連続性の問題』の観点からあれは根本的に違う技術よ。」


 「?」


 「このことは、また機会がある時に教えてあげる。ちょうど"Drive in the Nature"のダウンロードが終わったわ。難しい話は終わり!ゲームしましょう!」


 「あ、ダウンロード終わったんだね。操作方法を教えるね。」


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