話し合い@カフェ
寒い季節は布団から出たくない……
今後ともよろしくお願いします。
「で、どうする?」
「さあ?」
討論会の後、俺とキャニスは喫茶店で談笑することにした。幼馴染の異性とお洒落な喫茶店に来ているけれども、俺たちの間に甘酸っぱい空気は漂わない。むしろ、先ほど引き受けてしまった仕事について今後どうするのかを必死で考えた結果、疲れ切った空気が漂っている。
予定としては、今週中にストーリーのあらすじを考えてロゼッタ教授に提出。数日の査定を行った後、OKが出れば、古代語で小説を書き始めるという流れだそうだ。
「とりあえず、ミツニは古代語を書く自信はあるのよね?」
「ああ、それについてはもちろん。だから今問題となるのは内容の方だ。『まるで空想上の話のように見えるようにしなさい』ってどんな要望だよ……」
「本当に困ったわね。『最近のニュースを要約しなさい』とか言われた方が百倍楽なのに。」
「ああ、本当に。SFを書くなんて、俺には荷が重いよ。……なあ、今最近のニュースを要約って言ったよな?」
「え、ええ。確かにそういったわね。それが?」
「いっそのこと、『私は未来からのメッセンジャーです。未来の生活はこんな感じですよ。』って書いちゃったらいいんじゃあないか?『未来ではこんな話題が流行っていますよ~』とか『未来ではこんなファッションが人気ですよ~』とか。」
「それは……フィクションでは無いような気がするのだけど。」
「ちょっと考えてみてほしいんだ。今現在『私は未来から来た人間です。未来ではこんなことが起こるんですよ!』って言った人が居たとしたらキャニスはどう思う?」
「エンターテイメントの一環として捉えるわね……。ああ、なるほど。あなたが書く小説、というよりもブログと言った方がいいのかしら、も同じようにエンターテイメントとして捉えられるでしょうね。」
「そうだと思う。だから変に脚色せずに、今日あった事とか、最近の時事ニュースについて淡々と述べるだけでSFチックになると思うんだ。」
「なーるほどね……まあ、ミツニがそうしたいなら、そうしましょう。で、私は何をすればいいかな?」
「そうだな……そうだ!最近の時事ニュースにまつわるサイエンスヒストリーを俺に教えてよ!あれだよ、ほら。ニュース番組に解説する人物が出てくるじゃん?『○○という事件が発生しました。これについて犯罪心理学者の△△さんのご意見を伺おうと思います。△△さん、よろしくお願いします。』みたいな。あんなノリで、最近のニュースをサイエンスヒストリーの観点から解説してくれると助かるんだけど、頼める?」
「もちろんよ!朝から晩までサイエンスヒストリーを語ってあげるわ!」
「ははは、それは御免被りたい。」
「ん?なんか言った?」
「いやいや、大したこといってないよ。ほら、こんな可愛い幼馴染から授業を受けれるなんて俺は幸せ者だなー(棒)って。」
「そうよね!しっかり私に感謝して頂戴ね!」
「……」
ま、まあこういう察しの悪さなんかも彼女の魅力の一つなんだろうけど……ははは。
そんなことを話しているうちに、注文していた品を乗せた配膳ロボットが目の前にやってきて「お待たせしましタ。ピリ辛麺とハーブティーをご注文のお客様、はい、こちらになりまス。そしてこちらがオムライスとミックスジュースになりまス。ご注文は異常でお揃いでしょうカ?」と言う。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
「それではごゆっくリ。」
それだけ言うと、配膳ロボはスーッと戻っていった。
「ああいうのも、昔は無かったんだよな?」
「ええ、今は機械が行っているような仕事も昔は人間が行っていたらしいわね。ロボットという概念はそれこそ宇宙歴マイナス4000年頃からあったそうよ。なんでも、神様が召使いとして『感情を持たぬ存在』を生み出したとかなんとか。『面倒ごとを感情なき存在に任せる』ということは人間が昔から望み続けている事なのかもね。」
「なるほど。」
「でも、その後数千年、人間はロボットといっても道具のような物しか作れなかったわ。すなわち、『身体の拡張』としてのロボットね。でも、機械学習の技術が進むにつれてそれこそ『身体の拡張』という言葉では言い尽くせないほど優秀なロボットが生まれだした。その結果があれよね。」
そう言ってキャニスは今も動いている配膳ロボットや清掃ロボットを指さす。
「なるほどね。早速サイエンスヒストリーを語ってくれてありがとうね。これもブログの題材にさせてもらうよ。」
「え、私が今言った事がそのまま小説になるの?」
「そうだけど。」
「なんか恥ずかしいわ。」
「こんなことで恥ずかしがるなよ。君はヒロインなんだから。」
「え、私の名前をそのまま登場させるの?」
「そのつもりだけど……」
「えー!!まあいいわ。その代わり、超可愛くって気配りもできる最高の幼馴染として描いてね!!」
「はいはい。そのセリフをそのまま載せさせてもらうね。」
「そ、それはやめて。そんなことしたら、私がナルシストみたいに聞こえちゃうじゃあない。」
「あはは。未来の人はみんなナルシストって思われないように、ある程度改変するから安心して。」
「もー、からかわないでよね!!」
と言ったものの、結局この時の会話をそのまま載せている俺は性格が悪いのだろうか?まあ、読者の判断に委ねるとしよう。
「ブログのように日々の生活を書く。そして、毎日の出来事についてサイエンスヒストリーの視点からコメントを挟む」という方向性で大丈夫かどうかという確認をロゼッタ教授にとる。約一週間後、返事が返ってきて、審査はパスしたと分かった。
こうして俺の「過去に小説を送る」もとい「過去にブログを送る」生活が始まったのだ。