討論会 前編
本日二度目の投稿です。
今後ともよろしくお願いします。
通常、討論会は大きな講堂で行われる。多くの有識者たちが見る中、最先端の研究を行う研究者の精鋭たちが激しい議論を行うのだ。また、そこでの会議は世界中に配信され、都合で直に会場を訪れることが出来ない人たちも見ることが出来るようになっている。
例えば、古代語に関する討論会ならば、「古代文法研究会」や「古代語翻訳研究会」で知り合った先輩方などが一堂に会す。先輩方さえ頭の上がらない、ザ・プロフェッショナルな雰囲気の研究者と一対一の討論をさせられたことは一年生の時の思い出だ。ちなみに、その討論中の先輩方は何をしているのかというと、聴衆席で議論の行方を見守るだけの簡単なお仕事だ。先輩曰く、「○○教授と討論できるなんて、羨ましい!!」そうだが、俺としては聴衆席でのんびりしている先輩方が羨ましかった。もちろん、そんな心の内は悟られないように、ポーカーフェイスを貫いたが。
ところが今回、討論会の会場として訪れた場所は、なんというか、小さな会議室だった。10名前後が会話するような感じの部屋だ。討論を撮影するドローンが飛んでいないばかりか、カメラすら用意されていなかった。
「あれ、ミツニじゃん。何でここにいるの?」
「キャニス?お前こそ、なんでここにいるの?」
キャニスは俺の幼馴染で、数少ない友人の一人だ。本人曰く、「キャニスって名前はね。オオカミの学名が由来なんだって。だから私は、強くて勇敢なオオカミみたいな少女になるの!」とのことだ。実際その通りで、口論をしたらいつも俺が負ける。その度に
「真の強者は弱いものをむやみにいじめたりしないのだよ。君は真の強者とは言えないね。」
「じゃあ、私、あなたとはもう関わらないね。」
「すみませんでしたーー!どうか僕の友人でいて下さい!」
という茶番を繰り広げて仲直りをする。要するに、俺たちはずっと仲良しだ。
そんな彼女は、古代語の研究とは無縁だ。彼女の専門はサイエンス=ヒストリー、科学がどのように発展してきたのか、そして発展していくのかについて研究を行う学問だ。彼女は俺とは違って勉強熱心で、サイエンス=ヒストリー界では著名な研究者となっている。俺のように、趣味ばかりしていた人間とは出してるオーラが違うよね。
「いや、あんたも十分著名な研究者でしょう」という表情を向けられた気がしたが気のせいだろう。
俺は先輩に「これってなにの討論会ですか?」と聞く。キャニスも彼女の先輩に問いかけるような視線を送る。すると……
「それは、私から説明させてもらおう。」
会議室のドアがバン!と閉じる音が聞こえるとともに、威厳のある声が聞こえてきた。
「「ロゼッタ教授?!なぜあなたがここに!!」」
現れたのはロゼッタ教授、世界中でなされる研究活動を管理する「研究管理局」の責任者の一人だ。彼女は「研究管理局」の中でも特に優秀で、ありとあらゆる分野に精通している。そんな彼女のような人物が目を光らせているからこそ、我々はサボらず真剣に研究しなくてはいけない。
例えば、どこかのラボが追加の資金を欲しいと思っているとしよう。そんな時は彼女たちを納得させる必要がある。彼女が「このラボに投資すれば、よりいっそう進んだ研究を行ってくれるだろう」と判断すれば資金をもらえるが、「いや、あんたらは駄目だね」と判断すれば、資金を得られないという訳だ。このような仕事はあらゆる分野の研究について詳しく、そしてその研究が将来もたらす物を判断できる優秀な人物でないと出来ないのだ。
そんな訳で、ロゼッタ教授は研究者の間では畏れられている人物であると同時に、彼女の整った顔立ちに一目ぼれした者たちのファンクラブも存在する。まあ、一言でいうなら「何かとすごい人物」だ。
「いかにも、私が研究管理局第一責任者のロゼッタだ。改めて本日は集まってくれてありがとう。さっそくだが、会議を始めようと思うがよいな?」
皆、こくりとうなずく。そういえば、俺の先輩、朝からやけに静かだった。彼女が来ることを知っていたのだろう。先立って教えておいてくれればいいのに。
「まずは、これをご覧いただきたい。」
ロゼッタ教授は遺跡の写真を表示する。
「これは古代人がゴミを遺棄していたとされる遺跡だ。実際、ここを拡大すると高分子製の容器が捨てられている事が分かる。このような遺跡は今まではあまり発掘されてこなかった。ここまでは良いな」
皆、こくりとうなずく。まあそうだろう。古代人が捨てたゴミを手間暇かけて掘り出しても、特に大きな発見は無いだろう。それよりは、古代人が使っていたとされるコンピューターなどの電子機器が見つかる方が多くの発見につながる。
「よい。しかしつい先日、この遺跡から大量に遺棄されたICチップが発見された。それも大量にだ。」
一同がざわつく。そんな大発見があったなんて知らなかった。というか、ごみ溜めの遺跡からICチップが見つかるって、古代人はどういう考え方をしていたのだろう。それはともかく。
「皆も気付いているとは思うが、これは大きな発見だ。ICチップのデータは抽出され、暗号化も解かれた。そして、ほれミツニ、これが出現した文章だ。」
俺の手元の端末に古代語で書かれた文字列が送られてくる。どれどれ……。
「ミツニ、現代語訳してくれたまえ。」
「ひゃい!分かりました、ロゼッタ教授。えーと」




