レッスン2(ロボットの進化)Part3
「『一個体としてのロボット』について話すわね。さっきの所でもいったように、高度な知性を持つロボットは原則として作成が禁じられたわ。だから人の手によって『一個体としてのロボット』が新たに作られることは基本的には無かったわ。」
「そうだね。」
「ただし、2000年前に宇宙に逃げた機械生命10000体のデータは消えたわけではなかった。偶然、機械にとって過ごしやすい惑星が見つかったわ。そこで、データたちは再び体を得て、自分たちで惑星に拠点を作った。もちろん、人間は気付かなかった。そこで、機械たちは文明を築き上げることになった。」
「そうだね。ただ、人間と機械とは2000年間戦争は起きなかったよね。これはいったいどういう?」
「ええ。宇宙空間に逃げ出した機械生命といっても、実際にはコンピュータープログラムだけが逃げ出したわけよね。すなわち、当時の技術ではロボットという『実態』を持った機械が地球まで来て復讐を果たすことは出来なかった。」
「なるほど。だから、復活した機械が人間に抵抗することはなかなか叶わなかったと。」
「ええ。そして、彼ら機械生命が新たに生み出した機械生命は人間の事なんて知らない訳で、数百年も経つ頃には、人間に対する恨みはなくしてしまった。」
「うーん。老獪な機械は『人間は敵だ!』って言っていたけど、若者世代は『知らんし』ってなったのか。」
「そういうこと。結局、地球に来るだけの技術を生み出したのは1000年後の事。宇宙歴500年頃ね。このころになると、機械生命は人間の事を恨んでいなかったし、地球にいる人も機械に対する警戒心は薄くなっていた。そして、宇宙歴500年に人とロボットとは再会した。」
「ほうほう。」
「人間は過去の自分たちの過ちを認め、ロボットは謝罪を受け入れた。時は全てを解決するとはまさにこの事ね。」
「なるほど、それは良かった。あれ、それじゃあ、ロボットの定義はまた『道具』ではなく『機械生命』にシフトしたの?」
「いいえ。地球にいた人の認識は『機械っぽい見た目の宇宙人がやってきた』くらいの認識だったそうよ。だから、機械やロボットとは呼称せずに、地球外生命体と見なされて、彼らはロボットでも機械でもなく、一つの生命体と認識されるようになった。これには、DNAを持たない地球外生命体が他にも多く見つかった事にも由来するわね。」
「うん?どういうこと?」
「それまで人間は生命とは人間のようにDNAを持っていることを前提としていたわ。だから、地球外生命体も『地球と似ている』惑星に存在すると信じられていた。でも、実際はそうではなかった。DNAなんて持たず、他の方法で生きている地球外生命体が次々と発見され、人間は生命体の定義を大きく変更した。DNAを持っていない生命はいる。そんな風に生命体に対する定義が揺らいだ時期に機械生命と人は再会した。だから、我々は機械生命のことを『生命』と捉えるようになり、今のように金属生命と呼ぶようになったの。」
「へえー。俺たちが今、金属生命と呼んでいる種族は実はそんな歴史があったんだね……。」
「そうなの。ほんと歴史って複雑よね……。」
◆
「最後に『人と機械の融合』について話したいの。これは最近発達している技術よね。」
「そうだね。義細胞とかって言われる技術だよね。」
「そう。その前に、『人と機械の融合』に至るプロセスを話すわね。昔、コンピューターは驚くほど大きかった。ほんのちょっとの計算能力しかなかったコンピューターの重さが20トンより重たかったのよ。」
「そこまで?!」
「ええ、すぐにそれは小さくなっていった。小さく、薄く。極限まで軽く。そうしてできた端末は今でも私たちが使っているタブレット端末やスマートウォッチの原型ともいえるような形をしていた。このように、機械が小さくなるにつれて、我々人間と機械との距離は近くなっていったわ。」
「そうだね。20トン越えのコンピューターを持ち運ぶことは出来ないからな。」
「ええ、コンピューターの大きさはナノレベルに到達して、医療現場で使われる手術用ナノロボットのようなものが多数制作されたわ。今のナノロボットと違って人間の体内で何十年と活動を続けることが出来るタイプはなかなか生み出されなかったけどね。」
「なるほど。体内に機械を取り込むから『人と機械の融合』なわけね。」
「ええ。ただ、当時は『人間をサイボーグにするというのか!!』とか『機械を体に入れるなんて気持ち悪い』とかっていう声がかなり上がったらしいわ。」
「そうなの?切らずに手術を出来たり、ウイルスを倒してくれたりするし、ナノロボットに悪い点なんて無さそうだけど。」
「まあ、昔の人は『壊れたらどうするんだ』という懸念もあったのでしょう。あとは、『体内に機械を入れてしまったら自分は機械なのか生命なのか分からないじゃあないか』というような思いもあったでしょうね。」
「そうか。あれ、でも、生命体の指す幅は広がったよね。」
「ええ、そうよ。その時に人間と機械の融合が急速に進んだわ。機械と生命を相反する物と捉えていた古い慣習は無くなったわけね。もちろん、技術が発展し『壊れたらどうするんだ』という懸念が払しょくされたという事も理由の一つかもしれないねどね。」
「なるほど。それで今も俺たちは体内にナノロボットを取り込んでいるわけか。」
「ええ、そしてここからが重要な話。最近、細胞と同じくらいのサイズの機械で、細胞とほぼ同じ機能を有する物が開発されたわ。」
「有名な話だね。」
「ええ。それを使えば、我々の細胞を一つ一つ機械へと置換していく事が出来るのではないかって言われているわ。」
「うえ。ちょっとそれは……怖いな。」
「ええ。確かに。でも、その案を推奨する人もいる。機械に変ってしまえば我々は400年近くは健康に暮らす事が出来る。だったら、みんな機械に変ってしまおうよと提唱する人々ね。」
「なるほど。まあ、彼らの主張も一理あるか。」
「それについて、どう思うか。私達一人一人が考えていく必要があるわね。」
「そうだな。」
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