序章3
っと、いつまでも現実逃避し続けてはいられない。
この体がゲームで使っていたキャラクターなら今居る場所もゲームの世界なのか。
ゲームの舞台はありきたりのファンタジーではあったが、この森の中では判断出来ない。
…俺はキャラなのにここが現実だったらそれはそれで悪夢だがねー。
取り敢えず深呼吸。
よし。この状況はTRPGのシナリオ開始時だと思おう。
小学生高学年で某迷宮と竜の奴にどっぷりはまって以来数十年、洋風和風メルヘンなファンタジー、伝奇、SF、サイバーパンク他、数多の世界を数多のキャラクターで駆け抜けて来た経験が伊達ではないと魅せてやろう!
歴代キャラクター達の最期が脳裏を過る…ゴメンけっこー伊達かも。
まぁそれはともかく、TRPGを始める上での俺的基本、キャラクターの行動原理の決定から始める。
このキャラクターならどう考え、どう動くのか。
オンラインゲームのキャラだから細かい設定は定めていなかったのだ。
性格は俺そのままでいいだろう。
本来の自分とは違う性格を楽しむのがTRPGの醍醐味ではあるが、TRPGのセッションに臨むより面倒な現状で、性格フィルターを噛ます余裕があるとも思えん。
確認してはいないが多分顔もゲームのままだろう。であるなら口調は優しげな美少女に合う丁寧な感じでいいか。
自分好みの女の子が俺の乱暴な口調とか、俺自身が許さん。
過去に関しては、現在地の状況がわからん以上、記憶喪失とでもしておくしかあるまい。
設定確認の次は状況把握がお約束というもの。
改めて周囲を見渡す…森だ。シダ系、という感じよりは針葉樹系の植物が多いから東京よりは寒い地方なのかも知れない。樹木が密集していて日光の強さとかはいまいちわからんのだが。
しかしそれにしては暑さ寒さを感じない。いや自身の格好、特に背中が涼しげとかは関係なく。いや大切な事ではあるんだが。今はそれよりも気にしなければならない事がある。
ゲームの世界なら森の中はモンスターが徘徊する、安全とは言えない場所である可能性が高い。
なら今一番緊急性が高いのは正確な現状把握、そして安全確保だ。
どうやらこの体の視力は超ド近眼な俺本来の体とは比較にならん程良いらしい。眼鏡を掛けている時よりも世界がくっきり見える。
んでその見える限り、聞こえる限りでは危険な存在は居なさそうだ。
見通しが良くないから本当に狭い範囲だろうし、そも森の中でのサバイバル経験もないから全く当てになんか出来ないのだが。
次に自身から見て後方、木々の向こうの離れた位置に建築物に見える人造物が見えた。
あと、その方向から木々の音に紛れて僅かに水音が聞こえる。川でもあるのかもしれない。
森の中を当てもなく歩き回るよりは探索に向かうべきだろう。しかしその前にやる事があった。
まずは立ち上がる事から。本来の体との誤差とかはなく、普通に立ち上がる事は出来た…結局、かなり高いヒールでふらついたが。
うぅ、キャラクターよ済まん。こんな靴で派手なアクションをさせるなんて、俺は今までとんだ苦行を強いていたのだな…
思わずそんな事を考えてしまったのも致し方ないであろう。慣れるしかなさそうだ…その前に元の体に戻るか、最低でもこの呪いの装備状態を解決したい所だ。かなり切に。
取り敢えず直立。これは如何に足場が悪いと言えども、支え付きのつま先立ちというだけだ。すぐに慣れた。
次に歩行。一歩目で足首がグキッといってスッ転んだ。痛い。
だが捻挫まではいかなかった様で、ちょっと擦っていたら痛みは引いた。
踵の接地面が少ないからバランスが取り難いのだろう。歩き方を変えないといけないという事か。
再び立ち上がって、足の指の付け根と踵が同時に接地するよう注意しながら歩く。歩けた。
少し練習したら慣れたので、ついでに軽く走る練習もしておく。
これもすぐにコツを掴めた。
この体がゲームの通りならスペックは高い筈だからこんなものなのか。
元の、本来の体だったらこんなに早く慣れはしなかったろうと思うと複雑な気分だ。
元の体だったら、そもそもこんな苦労は要らなかっただろう事も含めて。
胸が揺れる感触、逆に股間で揺れない感触、そして足に絡み付くスカートの感触にはまだ慣れそうにない。
何よりスカートの裾が、直立した状態で地面から10cm位しかない。
だから雑草とか小枝とかとにかく引っ掛かりまくり、すげぇ邪魔。
…だがまぁとにかく最低限、移動は出来るようになった。
次に必要なのは自衛手段か。