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序章21

 少し離れていた魚取り組が採取組の元へと駆け寄るのを尻目に、魔力の線を通して骸骨達の構成が緩んできたのが伝わってきたので、補強出来るといいなー、と思いながら魔力線を通してMPを注ぎ込む。

 何かキュッと絞って固まった手応えが返ってくる。出来たっぽい。


 …そういや、子供達の親との別れを邪魔すんのも野暮だってさっさと上がったから、1Fの倉庫は全然調べてないんだよな。

 さっきも思ったが、兵士を殺したという事実から目を背けたかったというのもある。

 子供達が死体は消えたと教えてくれて、食材探しに出発する際には白黒で見づらいけど骸骨越しに確認済みではあるから、気は進まないが調べようと言う気にはなれた。何とか。

 もし死体が残っていたらそんな気にもならなかっただろうな…だがだからと言って放置して腐ったりウジが湧いたりした日には…うわ考えたくねぇ。多分、骸骨召喚して外に捨てたり掃除させたりしたんだろうか。

 うん改めて考えると人でなしな気がするな俺。

 いやいや、ほら、ス○イヤーズのリ○・イ○バースも言っていただろう。


『悪人に人権はない!』


 と。俺もその意見に基本的には全面的に賛成なんだ。


 まぁあの兵士が悪人だったのかどうかは知らんが。

 子供を追いかけ回したりこの体を襲おうとしたんだから多分悪人だろう。

 いや子供を追いかけたのは仕事、敵国の土地や女(厳密には違うのだが彼から見たらそうなるだろう)に対する略奪が認められていたなら、彼にとっては当然の権利を行使しただけで、悪人とは言えないのかも知れないが。

 俺は自分の身の安全が第一であるからして、それを侵害する輩を排除するの当然。

 うん、だから事実がどうであれ俺にとっては彼は悪人だった。

 …長々と何を考えているのかって?自らの行いの正当化、ぶっちゃければ言い訳だよ。


 子供達は帰り支度に取り掛かったようだ。やはりあの熊はインパクトがあったらしく、行きに比べて骸骨との距離が近い。

 これなら年少組がフラフラとはぐれる事もなさそうだと判断し、自動操縦に任せて自身の視界に戻す。

 まぁざっと見積もって骸骨の感知能力は100m程あるようだし、骸骨の視界は左下に小さく残っているから何かあっても対応は出来るだろう。


 そして目を開けると、日はほとんど沈み雲が赤い光を照り返し景色を夕焼けに染めていた。

 残念ながら空は見えても地平が見える程の高さはなく、森の終わりなどは見えない。この上によじ登れば少しは違うのだろうか。まぁ夕暮れ時の今やる事じゃないな。明日以降だ。


 1階に降りようと廊下に出て思う。さっきより暗い。

 基本的に外と隣接しているのは扉に付いている磨りガラス状の小窓2枚分だけであるため、外が夕暮れ時と言うのはあまり関係がないはず。

 つまり照明が弱くなっているのか。

 注視すると少し明滅している気がしなくもない。

 相当永い時間放置されてたんだろうから電源が尽きかけていても何ら不思議はない。

 尽きてたらこの飛空船に入れなかっただろうと思うとゾッとするな…

 厳密には電気じゃないから電源と言うのは正しくないのだろうが、わざわざ造語を作るのも面倒だし読み難いと思うので電源で通すぜ。


 しかしそうすると動かすためにMPを使ったのは何でかって事にならねぇか?

 いやまぁそれを考えるなら、まずMPがどういう力で、どの程度のエネルギーなのかを考える必要があるだろう。

 いやいや今大事なのはそれじゃない。ひょっとしたら指紋認証ならぬMP認証なのかも知れないしな。

 それはそれでいつ登録したんだよって話になって考察が長引くからその辺はとりあえずさておくが。


 それっぽいのは機関室の隣の部屋の謎の装置か。なんつーか中枢!って感じなんだよな。

 船橋を出てすぐだからちょうど通り道だし、もう一度入って調べる事にする。

 さっきはMPを突っ込んだのに変化がなかったように思えるが、容量が大きければ大きい程、燃料切れ寸前のところに少し足しても変化は感じられない、ってな事もあり得るだろうから、今度はもっと大量に供給してみる事にする。

 正十二面体の方に、MPが勝手に向かっていったのだから関連性がないって事もないだろう。


 もしくは単純に壊れてるだけか。

 その場合はお手上げだが、何となくその可能性は低い気がする。

 根拠と呼べる程はっきりはしてないんだが強いて挙げるなら、この船が全般的に動かした形跡がなく新品同様であったのと、俺が動かすまでまるで時間が止まっていたかのような保存状態だったからだ。

 いや、ベリルによると1,000年以上昔からあるらしく、であればトイレットペーパーなんぞ原形を留めてる筈がないのに新品そのものだった事から、まるでじゃなく本当に時間が止まっていたのではなかろうか。

 そう考えると今まで誰にも動かせず、傷一つ付けられなかったって言うのにもそれなりの説得力が生まれる気はする。

 ほらあれだ。ダ○の大冒険で凍れる○の秘法で時間が止まっていた大魔王○ーンの肉体にはダメージを与えられなかったってーのと同じ現象だ。

 それが俺が現れると同時に動き出した。つまり自分に都合良く考えるなら、俺のために準備されていた新品って事になる。それが壊れている可能性は低いんじゃなかろうかと。初期不良?あーあー聞こえなーい。いや冗談だが。つかその場合はこの船の何をどこまで使うのか見極めなきゃならんな。面倒臭い。無事に動く事を祈るばかりか。


 機関室の向かい、仮に制御室とでもしておこうか。

 制御室に入り、正十二面体に掌を向けてMPをぶちまける。何となく、水道の蛇口に繋いだホースで水やりをしている気分。

 ただ、ボーッと続けると3分くらいで飽きる。忍耐力ねぇな我ながら。

 自動車に給油する時はメーター見て気分を紛らしていたが、それに類するわかりやすい変化がないのが辛い。


 結果、色々試してみたくなる。さっきホースに例えたが、その延長の感覚で口を絞ってみたり、供給するMPの量を変えてみたり。

 

 そういや、烈○の炎で腕から炎を発する主人公がパワーアップして炎の技を使い出した頃にホースの例え話があったな。それまでは垂れ流しだったのを、口を絞って集中させる事で形を与え威力が増したとかの解説があったよーな。

 後、思うのが掌からの放出と言えばやっぱりドラゴン○ールとかでお馴染みの気弾系だよな。今はカ○ハメ波のように掌からの放出だがこれを○貫光殺砲の如く指の先端にまで絞ってみたりしたくなる。

 いややらんけど。本当に破壊的な特性を持っちまって破壊しちゃいました〜とかなったら泣くからね。


 だがちょっと待て。ゲームでMPを使うのは魔法だけじゃない。武器から放たれる、いわゆる武技を使う際に使うのもまたMPだ。

 そういやそのまま〈格闘〉の〈系統〉に〈気功波〉とかあったわ。

 あー、そうするとこのMP、マジックポイントの略称じゃないのか。おっさん世代のゲーマーは普通にそう訳しちまうんだぜ、多分。


 下らない事を色々考えている内にそれなりの量のMPを流し込めたと思う。

 疲れるほどじゃないから回復と釣り合う秒間300以内には収まっているだろう。

 時間的には多分15分程、とすると最大で27万くらい?

 しかし見たところ変化はない。

 手応えはあるんだよ。だが、そうだな…家庭用の水道で、庭に水撒きする位の勢いで、大型施設のプールに水を張ろうとしてるような、徒労感一歩手前な気分だ。

 こりゃ、プールの容量は下手したら億かね。気が遠くなるね。

 何かわかりやすい変化をプリーズ!


 …まさかその思考を読み取った訳でもないだろうが、ちょうどそのタイミングで正十二面体が僅か光を放ちながら浮かび上がり、ゆっくりと回転を始める。

 マジで飛○石?八面じゃなく十二面な辺り何とも言えないパチモン臭が漂うがそれは忘れよう。うん忘れた。

 ともあれ動き出したのだ。喜ぶべき場面であろう…なんか動きがゆっくりっつーか息も絶え絶えって感じだし、さっきのプールの感覚もあるからまだまだ足りてはいないんだろうが。


 んー、どうでもいいが魔法だけじゃないならマジックとは言えんからメンタルポイントと呼称しとくかね。こう気力とかKIAI的な感じで。素晴らしいよねKIAIの万能感。

 と茶化していたが…魔法の源で、気功法だの剣技だのの源でもあって、この船においては動力でもあるのだからマジで万能なのかも。

 まぁエネルギーってだけなら現代科学だって熱エネルギーを回転エネルギーに変換して更に電気エネルギーに変換したりしている訳だから、このMPエネルギーが凄いのかどうかは一概には言えんか。いややっぱ回復魔法があるって点でMPすげぇよな。


 そういやエネルギー保存の法則的にはどうなんだろうか。湧いて出てるなら異世界特有の法則があるのかも知れないが、仮に気力が実は体重を1g減らしてエネルギーに変換してたとしたら元の世界と同じ法則であってもまぁ説明できなくもないか。変換効率すげー、ぜひ地球で再現してぇってなるけど。


 …やめよう法則まで考えてたらキリがない。少なくとも万有引力さんは仕事してるみたいだが。これまで動いて得られた感覚から言えば遠心力さんも慣性さんも立派に働いていると思う。

 …なんだかんだやめてねぇな。いやまぁこんなまとまりのない思考でも5分位はMP注ぐ時間増やせたからいっか。


 あ、多分、歩けてるんだから摩擦さんもちゃんと居るんだろう。ヴィトゲンシュタインじゃないけどさ。え、誰?哲学者だよ。オタクおっさんって奴は若かりし頃に哲学にハマるものなのさ(個人差あり)。


 終ノ○で知ったんだろうって?そ、そんな事ないぞ。今時は珍しくもなくなったが、当時はかなりマイナー路線だったクトゥ系も混ぜ込んでて好きだったけどさ。


 思い返すと、あの頃はやたら可愛らしいキャラクター絵の大人用ゲームが流行ってたんだよな。あれらで実用すんのは無理だったな。他に例えば○とか○とか…ぐぁ、漢字1文字のタイトルだから1文字伏せただけで分かんなくなったじゃねーか。まぁいわゆる葉っぱ系、電波を受信したり鬼の血に目覚めたりする話ってだけで深く掘り下げる必要はないが。

 そういや俺にとってそれ系にハマった始まりがM○ONで、飽きてやらなくなった最後がAi○だったのは何かの符号なのかね。興味を持った順であって発売日順じゃないから前述の作品との発売日のズレなどの細かいツッコミはノーセンキューだぜ。いやめっちゃどうでもいいが。

 よし更に5分稼いだ。


 分からん人には悪いね。注いでる間、暇だったんで懐かしくてつい。


 青い石の回転が安定して、照明のチラつきもなくなったようだからとりあえずここまでで良しとして1Fに向かう。


 しかし、さっきまでは状況に対応するだけで精一杯だったからそこまで意識が回らなかったが、落ち着いた状況で改めて動き回ると違和感が凄いな。

 何がって?衣服の感覚だよ!

 ピンヒールで歩く事には無理矢理慣れた訳だが、あれは死活問題だったからなぁ。


 まずスカート。ズボンと比べて妙に足にまとわりつく割にスカスカと風が抜けて行くし。

 このストッキングってやつの、爪先から太股の半ばまでピッチリ締め付けているのにそれより上がフリーな感覚とか、ピッチリしてるのに風通しが良いのとか、下半身を動かした時のガーターベルトが擦れる感覚とか、馴染みがなさすぎて変な感じだ。

 上半身だって頼りなさ過ぎだ。

 これまでの人生で着用したのはランニングシャツ、Tシャツ、Yシャツ、トレーナー。上着を含めてもスーツ、ジャケット、ジャンパー、パーカー、コート、その他は浴衣、道着くらいか。

 共通点は、背中に布地がない衣服などなかったという事。

 金太郎のコスプレでもした事ありゃ話は違ったのかもな。あれなら前掛けだけだから近いかも。

 当然、そんな経験はないが。


 とにかく剥き出しの背中、肩、脇、胸元とそれらの上を滑る髪の感触のなんと頼りなく、こっ恥ずかしい事か。

 指先から上腕部の半ばまでを覆うロンググローブも、脚のストッキング同様慣れない感触を伝えてくる。

 あぁ、ズボンが恋しい。ジーンズでもスラックスでもトレーナーでも、いっそジャージでもいい。シャツも恋しい。ワイでもティーでも。シャツじゃなくても、それこそトレーナーでもジャージでも。


 かと言って他に選べる選択肢はすっぽんぽんしかないから実質選択の余地などない訳だがね。泣きたい。

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