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序章2

 サラリーマンとして働く独身オタクのおっさんな俺氏、サービス終了によって消滅するマイキャラを惜しみながら最終日を迎えたオンラインRPGを遊んでいた。

 その最後を見届けてから寝た…んだったか?寝落ちかました?

 んー、その日その時を空ける為少し無茶をしていたからか、ちょっとその前後の記憶ははっきりしてないのだが、とにかく次に目覚めたら森の中。

 それも密林と言っていい。何となく、人の手が入った事などなさそうな感じだ。


 やけにしゃっきり覚醒して上体を起こしたが、寝惚けて夢みてんのかなーと思って、もう一度横たわったりもした。

 背中がガサッとか僅かチクッとか後頭部にグネッとした感触とか、とにかく自宅の布団とは明らかに違う。


 何より匂い。青臭いなんて言葉では到底追いつかない程に濃い、植物の入り交じった匂いが、圧倒的なまでの現実感を叩き込んで来た。


 で、いい加減夢じゃなさそうかなーなんて考えていたら、肩の辺りにわさわさと蠢く感触。

 わかる人にはわかってもらえると思うが、虫、苦手なんだ。

 いやパニクったね。

 飛び起きてその箇所をはたいて、ついでにその周辺も撫でさすり、鳥肌を収める。


 そして気付く。なんか腕も手も変だ。

 まず浮かんだのが、黒い。一瞬ビビる位の漆黒。

 それはすぐに手袋だと分かって一安心だったのだが、上腕部の半ばまで覆う長手袋、しかもこんな真っ黒でピッチリした、手触りの良い高そうなのなんか持ってない。ご丁寧に両腕ともだ。


 …だがまぁそれは森の中で目覚めた事とセットで考えてもいい異常ではあるかも知れない。

 普通に考えて『目を覚ましたら森の中で、衣服が変わっている』理由は…


 まず思い付いたのが、夢遊病になって意識しないままここまで来たという考え。


 …これまでそんな兆候はなかったし、一応首都ど真ん中在住。東京でこの植物感は無いと思う。いやまあ詳しく知ってる訳でも無いから高尾山とか奥多摩とかという可能性はあるかもしれないが…それにしても誰にも見とがめられずにそこまで移動可能とも思えない。第一ドコで買ったんだよこの手袋。


 それとも、急に二重人格にでもなったか?なるもんかどーかなんて知らんが。


 次に浮かぶ可能性は、家族あるいは友人達によるサプライズ。


 …俺自身がいい年こいたおっさんな訳で、つまりはこんな元気が必要で大人気ない悪戯をする体力気力のある家族、友人は居ない。


 更に次、誘拐された。


 …別段金持ちでも有名でも無い、冴えないおっさんを誘拐はしないだろう。第一誘拐したなら拘束もせずに森の中に放置はしないし、高そうな手袋をはめておいたりはしないだろう。


 今すぐに思い付くのはこの位だが…

正直どれも『ない』な。


 つまり普通に考えられる範囲では…いやだいぶ普通じゃない想定な気もするが…有り得ない事態が発生しているのは間違いなさそうだ。


 そこまで考えたところで次に思ったのが細いという事。腕と手がな。まるで自分のじゃないみたいだ。

 だが自分の思い通りに動くから自分のなのだろう、きっと。


 この段階で相当嫌な予感がしていたんだが、確認しない訳にもいかない。


 取り敢えずこの手袋を外してみる。

 手首や肘までぴったりで、そんなに伸びそうにも見えないが、恐る恐る摘まんで引っ張ると、無事に腕を滑っていく。少し安心する。

 そして全部脱げた瞬間、手袋は再び俺の腕に装着されていた。


 …は?


 確かに外した。

 しかし外した筈の手袋は忽然と消え、同時に何事もなかったかのように俺の腕を覆っている。


「…!?」


 今度は慌てて、力任せに外そうとする。ピリッと裂けながら脱げる。

 腕から外れた瞬間、やはり装着し直されている。

 破けた部分も元通りだ。


 あ…ありのまま、今、起こった事を話すぜ!

 俺は手袋を外したら、いつの間にか装着していた。

 な…何を言っているのかわからねーと思うが(中略)もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


 頭の中で某有名台詞がリフレインしてるぜ…


 何度か試したが、脱ぐとすぐ装着され直すようだ。

 破損すると一定時間後に元通りになる。

 完全に脱がず一部でも接触を残しておけばその状態は維持されるらしい。


 一刻も早くこの呪われたとしか思えん手袋を脱ぎたくはあるが、問題はそれだけではないので一旦棚上げする。

 脱ごうと悪戦苦闘している内にふと気になったんで、小指に引っ掛けて脱げないようにした上で腕や指をマジマジと観察する。


 妙に白く細く、つるっとしている。そう思った理由がわかった。毛穴がない、毛が無い。

 爪は艶々したピンク。

 最近増えてたシワもないようだ。


 腕から肩も指で受けた印象と変わらない。

 視点が肩から胸に移る。

 胸部を覆うのは、手袋と同じすべすべな黒い生地で、肩と言うよりは首に集まっている。視界が届かないから指で辿っていくと、首の後ろで金属製の輪っか型の留め具を通して反対側の胸部へと続いているのがわかる。


 で、指で首を確認している最中に糸の束に当たったので、反対の手で目の前にまで引っ張ろうとする。銀色に輝く真っ直ぐな糸の束が見えた瞬間、後頭部から突っ張る感触。


 ビクッとして思わず手を緩めると、さらりと肩を滑り、背中を撫でる。

 ほぼ思考停止したまま、右手は生地をなぞって首から胸部に、左手は剥き出しの背中を、糸を手繰っていく。

 左手は糸の束の収束部分である後頭部、斜め後ろで止まった。


 右手は、手袋越しにでもわかる程、今まで触れた事のない滑らかで薄い布の感触を伝えてくる。

 そして胸部で不自然な柔らかさにぶち当たった。

 目線が下に行く。そこには二つの山があった。ひとつの谷間があった。

 それが正面にあったら、ヤローならその大半が顔を見ているつもりで実際は頭ひとつ分下に視線を落とさせてしまうという、魔の吸引力を持つ魅惑の凹凸が。


 胸部を覆って皮膚に接触している布地を摘まんで隙間を作り、覗きこむ。


 …具体的には言わないが、むしゃぶりつきたい位美味しそうに見えた、とだけ言っておこう。

 …が、そういう欲求が高まる事はなかった。見下ろしているからだろうか?正面から見たらまた違うのかも知れない。


 現実逃避気味にそんな事を考えるのが精一杯だった。


 暫く硬直してたと思う。それとも一瞬だったのか。どの程度の時間が経過したのかはわからない。

 とにかく、錆び付いた歯車のように軋みながらも無事に思考が再開された。


 この服や手袋に、そこはかとなく心当たりがあるよーな気がして…ふと気付いた訳だ。

 これ、オンラインゲームのキャラに着せてるヤツだわー、と。


 VR技術も大分進歩したとはいえ物語でやってる様なダイブ型なんてまだまだ先の話な筈なんだがなー。


 いや、まだだ。まだ慌てる様な時間じゃない。


 別の某有名台詞を頭の中でリフレインさせながら糸の束…いいかげん髪の毛だと認めるしかないか…から左手を放し、恐る恐る漆黒のスカートに覆われた股間の辺りに持っていく。


 ほら、まだ鏡を見て確認した訳じゃないし、胸は何かの間違いでさ。

 一縷の望みは左手が到達するまでの儚い夢だった…思わずパンパンしてしまったが無かった…どこ行ったマイサン。

 つーか、息子だけじゃなくて体全体…ってかどちらかといえば俺の心が迷子って感じなのかこれは。


 ついでにスカートを捲って靴と靴下を確認。やはりアバター装備のようだ。

 そしてストリップの趣味はないが

どうしても確認しておきたかったので一通り脱いでみた。

 …やはり装着し直された。ピンヒールも、ストッキングも、ガーターベルトも、下着も、ドレスも。

 後、アバター装備は関係ないが髪をツインテールに結わえている紐をほどいても同様に元に戻される。同種の判定が成されているようだ。

 どないせいっつーんだ。マジで。


 夢ってーか悪夢の可能性は目を覚ました一番最初に否定したが、夢であったならどれだけよかったか。


 そもそも見て楽しむ為の格好であって自分が見られる立場になるなんて一切考えていなかった訳だが、自分がしているとなるとエラくこっ恥ずかしい。


 嫌だったらそもそもそんな格好させなければ良かった、自業自得だろうって?


 いや確かにその通りだけどさぁ、

自分がゲームのキャラクターになるなんて普通思わないだろう?

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