序章16
…いかんロールプレイが乱れた。
しかしこの能力値、俺とは明らかに違うよな。なんつーか根本的に。
ってか、レイアウトがどう見てもTRPGのキャラクターシートです本当にありがとうございました、って感じだ。
つまり俺はコンピュータゲームのキャラクターの姿でTRPGの世界に転移したってのか。何だそれは。何でだ。
…いや、まだだ。サンプル一人だけで判断は出来ん。
「ベリル君、カール君、ディエナちゃん、ちょっと順番にこの鏡の前に立ってもらえますか?」
「あ、はい…」
「ダメよ!」
頷きかけたベリルをアイリスが遮る。
「うわっ何!?」
「魔女の言う事なんか素直に聞いたら、どんな事が起こるか分からないじゃない!さっきから指突っ込んだりしてるし、鏡に食べられたりするかもしれないじゃない!」
お、おぉ…想像力豊かだな。つか何か俺、童話に出てくる魔女みたいな扱いされてねぇか?
「アイリス…そんな呪われた品はおとぎ話にしかないよ」
「でも先祖代々動かせなかったっていう遺物が動いてるんだよ。有り得ないなんて言えないでしょ!?」
「ま、まぁ、そうだけど…」
おや、ベリルが押し負けそうだ。それは困るな。
「ここではそういう魔法が一般的なのかと思いました」
「魔法で何でも出来るのは物語の中だけです。魔法は身振りと詠唱で世界の法則に割り込んで望む効果を導き出す法則魔法と、神に祈りを捧げる奇跡たる神聖魔法の2種類だと聞いていますが、ネイさんが居たところでは違うんですか?」
んー、その設定に聞き覚えはあるが、何だったかな。ダメだ思い出せん。とりあえずはこのキャラクターの魔法で語るとしよう。
「えぇ、主に属性で分かれますね」
「属性、ですか。攻撃系と回復系、とかですか?」
何回もある最後の幻想とか、色分けだけど基本は攻撃系と回復系だよな。
てか、コンピュータRPGにしろTRPGにしろ古いものほどその分類が多い気がするな。コンピュータRPGだと魔術師的なのとか、TRPGだと迷宮と竜のとか。
「そういう区別の所もありますが、違いますね。炎魔法は火に関わる魔法、雷魔法は雷に関する魔法のみ、という区分です」
「では、僕が知るのとは異なる技なのですね」
と、そこまで答えながら他にも共通点がある事に気付く。
その上で思い返せば、アイリスの能力にMPはなかった。
「ここの魔法は、連射出来なさそうですね」
「祈りに集中するか、呪文詠唱と発動動作が必要な上で回数制限がありますから、連射は出来ないでしょう」
「なるほど、私が修めた技術とは根本から異なるのですね」
やはり、ここはMPで魔法を使う世界ではない。
魔法は1日に何回使えます、の世界か。
最近だと某ゴ○スレさんが活躍してる世界が有名かね。
「そうなんですか。僕の知識もまだまだ少ないのは自覚していますが、やはり世界は広いんですね」
「そうですね、世界は広いです。私もここの事を全く知りません。なのでベリル君の依頼を引き受けましょう。報酬は、お金の代わりに今アイリスさんが立っているその辺りに順番に立ってもらう事。離れているし、今までアイリスさんが立っていて何もなかったのですから問題はないでしょう。あと一つ、街への道中、森で食べられる物について教えてもらう、という条件でどうでしょう。街には…あまり入りたくないので」
「それでいいんですか?」
「えぇ。確認が取れたらという事は、報酬はすぐには受け取れないのでしょう。いつになるか分からない報酬よりは、すぐに調達できる食料とその知識の方が重要です。私はここの植生を知りませんし」
日本の植生もろくに知らんがね!まぁそんな事をわざわざ言う必要もない。
「分かりました。では僕が」
「だ、ダメよ!」
「ネイさんはこの後、僕達に教わりたいって言ったんだよ。今僕達に何かしたらそれが叶わなくなるんだ。そんな事を態々するとは思えないよ。それに、形は違うけどどうやら大神殿にある《鑑定の鏡》と似たような物みたいだよ。」
ベリルがそっとアイリスの前に立ちながら言う。
俺が本当に騙すつもりなら意味ないぞー、と思わなくもなかったが案外ベリルは分かった上で言っている気もする。
それよりも気になったのが。
「同じような魔法の鏡があるのですか?」
「形は違いますし手がめり込んだりはしませんでしたが、鏡に写った者の能力が表示される鏡があります。ここファズムアーリー国では、6歳になった年に大神殿に行き、能力を登録する事で国民として認められるのです」
ファズムアーリー…聞いた事はないな。
オンラインゲームにせよTRPGにせよ、地名からの判断は未だ出来ないか。
そして神殿が戸籍管理をしているらしい。
まぁ日本でも昔は神社仏閣が担っていたと聞いた事があるし、そんなもんか。
それはともかく、ベリルの能力もアイリスと同じ表記だった。当然、能力値の数字や取得スキルは違うが。
アイリスと比べると器用、敏捷はやや低く、筋力、体力は同程度、知力、精神は高い。習得スキルは賢者が2となっている。
ちなみにHPは6。
…あえて言おう。便利解説キャラ乙と!
いやまぁ大変ありがたいが。ただ飛空船といい、何てーか都合が良すぎて気持ちが悪い気もする。
…と、この時は思ったもんだが後で聞いた話によると、古代から伝わる遺物はこれ以外にも各地に点在していて、それらから発見される、現在より高度な技術によって造られたアイテムや技術そのものは大変高価で重要なのだそうだ。
飛空船もその一つで、しかも他に類を見ない独自、唯一の物らしく、ベリル達から何代も前の時代に相当な予算を注ぎ込んで魔の森と呼ばれる危険地域を拓き、拠点を築き、道を繋いだらしい。
しかし品物だとか技術だとか以前の問題で、中に入るどころか傷一つ付ける事すら出来ず。
一向に成果を上げられないまま時が流れ、捨てられて半ば忘れられた、というか金を無駄に捨てさせられた苦い記憶、いわば国の偉いさんにとっての黒歴史となっているのだとか。
子供達が育った村は拠点の名残で、最早普通の農村と変わらなくなっていて、ベリルの先祖は調査に来た学者の一人で、唯一諦めずに飛空船の解明に挑み続け、子に孫に脈々と受け継がれ現在にまで至っている、という事らしい。
だからベリルが物知りなのだと考えれば一応理屈は通っている、か?
まぁ結局一番のご都合は飛空船で、ベリルの存在はそれに付随したという感じか。
年少の子供達の能力値は更に低く、スキルも覚えていなかった。年齢を考えれば妥当か。
そして改めて自分のステータスを確認しようと鏡の前に立つと、こんなウィンドウが開いていた。
『2種類の形態を検知しました。現在の比率は1:4です。比率の高い形態にコンバートしますか?Yes/No』
…えーと。何のこっちゃ?




