序章13
右の鏡にはウインドウの類は何も見えない。ただのかがみのようだ。
左の鏡にはステータスと取得スキルが表示されている。
レベルは80でカンスト。
心にそこそこ、技はほぼ初期値、体にガッツリ割り振った能力値はゲームそのまま。
この能力値と各々の装備品に付随する能力から細かいデータが算出される。
流石に事細かに全部の数字を覚えている訳ではないが、ゲームよりやや低いか?…いや、武器を装備していないから順当か。
スキルも記憶との相違はない。
まず最初の〈系統〉、〈斧〉で通常攻撃。振りはやや遅いが前方範囲攻撃なのが特徴。
極まった最速の〈槍〉は単体相手で秒間10回とかの攻撃回数になるが、こちらは前方範囲で頑張って秒間3回。
どっちが強いかと言うと、本来なら場合によったんだが、攻撃時にダメージを周囲に拡散させる特殊効果を持つ装備品とかが増えて、範囲攻撃のアドバンテージを食われて圧倒的なまでに負けていたが…
また〈斧〉は他の武器スキルにはある防御系スキルがない代わりにHPを割り増しにするスキルがある。
敵を絶え間なく攻撃してHPを吸収し、その上で秒間400回復してもゲームの終盤だと回復量が足りずに死ぬ。
その為、攻撃時に自身とその周辺の味方…骸骨含む…のHPを回復しつつ、敵にはダメージを与えるという特殊効果を持つ冠を装備している。
つまり、〈槍〉だったらそれだけで攻撃力も回復力も三倍以上の差が出るのだが…まぁそれは今は関係ない。
一発で最大HP越えるダメージ受けたら回復力がどれだけあっても無意味だしな!
く、悔しくなんかないし、負け惜しみでもないからな!?
こほん、話を戻そう。
次の〈系統〉、〈ネクロマンシー〉の説明に入ろう。
能動的に使えるのは〈骸骨兵士召喚〉と〈骸骨将軍召喚〉と、奥義の〈骸骨英雄召喚〉の3種類だけ。
奥義は各〈系統〉に1つずつ設定されていたが、覚えられるのはどれか1つだけだった。
若かりし頃嗜んだマジ◯ク・◯・ギャザ◯ングにおいて召喚による藁デッキを組んでいた俺だ。
かつて初めて遊んだMMOのU◯ではテイマーを選び、R◯ではアルケミになってホムを繰り、M◯Eでもテイマーになり、F◯11で召喚◯竜騎◯獣使◯絡繰◯を嗜んだ、常軌を逸したペット系スキーの、この俺が。ペット系の奥義を選ばない筈がなかったのだ…が、まぁそれはともかく、〈ネクロマンシー〉の説明に戻ろう。
通常攻撃は〈魂魄撃〉という魔法攻撃なのだが、魔法攻撃は杖でないと使い勝手が悪く、そもそも〈死神の大鎌〉を使う前提だったからこの〈組立〉では覚えていない。
他のスキルは全て付随効果、常時効果だ。
〈骸骨兵士召喚〉に付随する〈骸骨魔術師召喚〉、魂魄の代わりにHPを代償にする〈疑似魂魄〉等だな。
そして最後の〈系統〉、〈鼓舞〉について。
あぁ、覚えられる〈系統〉は3種類までだ。
何故かは知らん。ゲームデザイナーに聞いてくれ。
生きて場に居るだけで自身を含めた味方全員に最大3種類(デザイナーは3という数字が好きだったのだろう、きっと)の強化効果が付くという〈系統〉で、世のネクロマンサー諸氏の 9割はこれを持っていたに違いない。
そして大抵は被ダメージカット、魔法攻撃力アップ、物理攻撃力アップが選択される。少なくとも俺はした。
この〈系統〉のコストがMP最大値で、1つにつき2600程引かれる訳だ。
ゲームの画面には、課金アイテムを使用して、割り振った能力値やスキルを初期値に戻して振り直す為のボタンがあったが、この鏡にはそれに類するものは見つからない。
…それだけじゃない。一通りは見たがやはりなかった。
まずはお約束だし、期待してはいなかったが、一応念の為な。
そう、ログアウト。
この鏡以外があまりゲームらしくないから望み薄だとは思っていたんで、それほどショックは受けなかった。
次に、組立交代のボタンもない。
これも、まぁ、あれば便利とは思うが、今の所、なければないで構わん。
俺が今一番必要としてるのはアバター装備画面だよ!見当たらねぇんだよ!ゲームだと装備画面から切り替えられたのに!
…待て、待て待て俺。落ち着け。
今の俺は『俺が理想とする女子のロールプレイ』の最中。
理想の女子は取り乱さない。
理想の女子はいつも穏やかに、理性的に、優しくあるべき。
…まぁ、既に全部破ってるがね!
いやあれは貞操の危機だったからね。仕方ないね。
ん?女子に夢見過ぎ?そんな理想を抱えてるから未だど…どどど童貞ちゃうわっていやマジでそれは違うが…独身なんだろう、理想を抱えて溺死しろ、って酷いなおい!?
あー、ちゃうちゃう、この場合の理想ってのは、付き合いたい相手としてじゃない。自分が理想とする女性という意味だ。
え、違いが分からん?
お、おぅ、改めて説明しようとすると難しいな。
外向きの欲望じゃなく内向きの願望と言えばわかるか?わからん?むぅ。
では、自分が思う理想の自分て奴を想像してくれ。
現実も遠慮も照れも『ゼヤッ』と棚の上に放り捨てて…想像できたか?
そいつを冷静に見てみると、大体は『そんな奴居ねぇよ!?』ってなると思うんだが、それはともかく次に同じ調子でもう1つ加える。
もし自分が異性だったらという前提で、理想の自分を想像するんだ。
そしたら言わんとする事がわかって貰えるんじゃないかと思うんだが、どうか。
例えば『常に男を立て、自らは男の3歩後ろを歩き、男の帰宅時は玄関で三つ指着いて出迎えてくれる女』なんてのは男が理想とする女の姿かもしれないが、自分が、女たる身であった時に、それを理想とできるか?
そもそも、理想の女たる自分が選ぶ男がそれを望むような男なのか?
…まぁ、この辺は掘り下げると面倒な性格が形成されるからオススメできない…ってか元々面倒な性格だから、んな事掘り下げて考えてしまうのか、いやんな卵が先か鶏が先かみたいな話じゃないんだ。
『理想の女』と『男が理想とする女』が別物だと理解して貰えればいい。
そうだな、あるいは物語のヒロインをイメージしてもいいかも。
具体的には俺の心のバイボォ、ラ◯ュタの◯ータだ。
あれはまず作品そのものが素晴らしい。2時間ちょっとの中に、物語を面白くする要素の全てが詰まっている。
魅力的な世界観、ボーイミーツガール、謎、スリル、冒険、過去、因縁、葛藤、出逢いと別れ、初恋、愛すべき悪役、ややユーモラスな面を持ちながらも決める所は決める主人公、主人公達を見守り導く実に特徴的な大人達。
そしてその身の内に強さと弱さと秘密を抱えて、健気に運命に立ち向かうヒロイン。
TRPGのゲームマスターも嗜む身として、物語を紡ぐ上での心構えにさせてもらっていたくらいだ。あれはいいものだ。
…と、力説してしまったな。
自分以外の別の誰かを表現するのがロールプレイの真髄で、しかしさっきはそれを噛ます余裕は無いと思った訳だが…行動の指針としてはアリな気もしてきた。
というか、その方が一歩引いた冷静な思考がしやすいようだ。




