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白の世界

 気が付くと地面が霧なのか雲なのか白い煙が漂っている。

「あれ?ここどこ?」

(私確か崖から落ちて、あまりにも痛くて…その後どうなったんだっけ?)

 身体を見てもどこも痛くないし、怪我をした様子もない。洋服もキレイなままだ。

 ひなたは頭の上に”?”を浮かべながら混乱していると、

『うむ。どうしたもんかのぅ』

「キャッ」

 急に声がして驚いて振り返ると、少し離れた場所に老人が立っている。


「びっくりしたー。おじいさん、誰?」

『わしか?わしはお主たちの世界でいうと“神”と呼ばれるものじゃ』

「神様?」

『それはどうでもいいとして、お主はもう死んでおる。それは分かってるか?』

「はい、何となく。もう駄目だろうなぁとは思ってました」

『いつもなら無視するところじゃが、何故かお主の最後の願いが強かったのか、思念波がやけに響いてのぅ。何を血迷ったのか、わしは気付いたらお主をここに呼び寄せておった。それでどうしたものか、ちと悩んでおったのじゃ。』

「ここって天国なの?…そうだ。お父さんとお母さんはどうなったの?助かったの?」

 ハッと我に返ったひなたは神様に両親の無事を確認したが、

『地上の事など知らん。というかもうこの星はどうでも良くなったゆえ放置しようかと思ってたとこじゃ』

 あっけなく一蹴されてしまった。

「知らんってそんな…お父さん…お母さん…ぐす」

『ええい、うっとおしい、泣くんじゃない』

「だって…うぅ」

『せっかくじゃ、どこか別の世界にでも生まれ変わってみるか?少しぐらいなら聞いてやらん事もないぞ?』

「ぐす…お父さんとお母さんのとこに戻りたい」

『それはダメじゃ。もうお主は死んでおるゆえ、その世界には生き返らせる事はできん。というかいい加減泣き止め!』

「そんな事言ったって…うぅ」

 泣きじゃくるひなたを神様は面倒臭そうに見つめている。


 しばらくぐずって落ち着いた頃、

「ごめんなさい。神様一つ聞いていいですか?」

『なんじゃ』

「私のいた世界、建物はほとんど壊れてて、人もほとんどいなくなったって。

 それに他人を殺したり、物を奪ったり悪い人もいっぱいいるって聞いた。最後はその人たちに襲われたし…。

 神様は神様なんでしょ?何で助けてくれなかったの?」

『うむ、まぁよいか。いい機会だから話してやろう。

 最初の頃はわしも見守っていたんじゃよ。

 だが、次第に人間どもは傲慢になっていった。この星が自分たちのものと思い上がり、他の生物を乱獲しだした。絶滅した種も数えられないほどじゃ。それでもやめようとはせず、挙句の果てには消費しきれずに大量に廃棄する始末。食べ物を何だと思っとるんじゃ、全く。

 更には森林を破壊し、そこに住む生物を追い出し、結果、砂漠化が進み、大量廃棄や不法投棄により土壌汚染や海洋汚染も拡大し、何の対策もしないまま大気汚染まで引き起こし放置する始末。

 人間どももわらわらと増殖しおって、環境破壊がさらに加速する有様じゃった。

 それでも何とか持ち直してくれるものと何とか耐えておったのじゃ。

 しかし、そろそろ我慢の限界でいっその事人類を滅ぼしてやろうか、と思っていた矢先にウイルスとかの病気が人間どもの間で流行りだしてのぅ。暫く様子を見ていたら、わしが特に手を出さずとも勝手に滅びおった。

 そのうちこの星はもう手出しが出来ぬほどになっておった。お主が見た世界がそうじゃ。

 一度世界を壊して作り直しても良かったんじゃが、もう全くこれっぽっちも未練が無い事に気づいて、捨てようとしていたとこじゃった。』

「そうなんだ…」

『だからもうこの星は諦めよ。わしはもう放置することに決めた。

 同じ人間同士で殺しあったり、女子供を攫って売り買いしたり、犯罪だらけの人間どもの面倒なんて見る価値もない。』

「ごめんなさい」

 何だか自分が怒られているようで思わず謝るひなた。

『なぜお主が誤る。お主はよくやったほうじゃ。ここに呼んだのが何よりの証拠じゃろう。

 ただ人間全体として救いようがなくなっただけの事じゃ。』

「うん」

『それでどうするのじゃ?この星の数百年ほど前とよく似た世界があるんじゃが、そこなんかどうじゃ?

 自然もいっぱいで綺麗なとこじゃぞ?ただ魔物はいるがな』

「綺麗なとこかぁ、行ってみたいなぁ。でも魔物って何だか怖い。う~~~ん。」


 暫く悩んでいたが、ふとある事に気づいた。

「神様。この星捨てるって言ってましたよね、さっき。それなら私にこの星くれませんか?」

 そう、捨てるなら私のものにしちゃえばいいんだと。

『何を言っておるんじゃ?さっきの話聞いてなかったのか?

 この星に生き返らせる事は不可能じゃ。

 なのに“この星をくれ”とはどういう意味じゃ?この星を征服するつもりか?』

「私が死んだ時の世界じゃなくて、過去に、まだウイルスが蔓延する前、神様がこの星に見切りをつける前の世界に生まれ変わり…いや、赤ちゃんじゃ何もできないか…今の私のまま生き返らせてはくれませんか?」

『出来ぬ事もないが、どうするんじゃ?結果は同じだと思うが。わしは放置するゆえ手伝いを期待するでないぞ?』

「はい、その変わりというのも何ですが、この星限定でいいので私に力を下さい。

 私の出来る範囲で頑張ってこの星を良くしようと思います。

 先ほど神様の言ってた悪い人たちを中心に排除しながら、子供たちを救い、環境破壊も全ては無理ですが出来るだけ食い止めてみようかと思います。悪い人を減らせば人口も抑えられると思うんです。

 そうですねぇ、まずはウイルスによる人類滅亡回避が優先ですが、その後も引き続き長期に渡っての作業となるはずですから数十年で死んだり、簡単には事故や病気とかで死なない身体と、悪人排除には危険が伴うと思うのでそれに対処の出来る能力、環境破壊を修復する能力…

 うーん、細かく注文すると長くなりそうなので、取り合えずそうですね…欲しい能力を自分で構築できる能力創造魔法みたいなものを貰えないでしょうか?

 あ、未来が変わるかもしれませんがいいですよね?要らないって言ってたので。」

 この際だ、今のうちに貰えそうなものはお願いしてみよう、そうひなたは考えていた。


『なるほどのぅ。ま、未来はどうなっても構わぬが…

 能力のぅ…ふむ、まぁいいじゃろ。どうせもうこの星は要らぬからな好きなようにやってみよ。』

「それから先ほど言ってた他の世界とこの世界、行き来できるようにしてくれませんか?

 実際に見てみたいってのもありますが、どこにも逃げ道が無くなった時の緊急避難先として用意しておきたいのです。

 あと、活動するには資金が必要なので、環境改善を行いつつ相互の世界で物品の取引を行い…

 あ、こちらから別世界へはダメですよね、きっと。

 だったら、こうしましょう。それぞれの世界の病原菌だとか有害な物は持ち込めないように、問題のない物のみ移動できるようにできませんか?」

『注文が多い気がするが、まぁ、どのみち最後の願いじゃ、良かろう。』


『そうじゃなぁ。いきなりウイルス発生時点に生き返らせても酷じゃし、更に20年前ぐらいでいいか。

 あの頃は確かその国の住民票が無いと捕まるんじゃったな、活動しやすいようにいくつかの大きな国の住民権は持たしてやるかのぅ。

 で、不老不死とどんな病にもならない丈夫な身体と能力を随時創造する魔法…

 それから異世界と行き来できるようにか…異世界と言わず、その世界内どこでも行きたい場所に行けるようにしてやろう。

 ついでに言語の問題もクリアしておくべきだな』

(何かぶつぶつ一人ごと言ってるけど、今“ふろうふし“って言ってなかった?不老不死?

 あ、やばい、そこまで言ってないよ)

「神さ…」

『あ、そうじゃ。お主その年とこの世界の様子じゃと、知識は家事や畑仕事ぐらいか?過去に行って何も分からず右往左往しても可哀相じゃ。必要最低限の知識と、ついでに叡智とリンクできるようにしてやろう。』

 さっきまで文句言ってたのに、大盤振る舞いである。

「えいち??」

『それからこれは注意なのじゃが、これから行く世界は宗教が乱立しておる。もちろんわしを崇拝している宗教などありはせん。当たり前じゃな、勝手に人間が空想で作り上げただけじゃし。悪い言い方をすると金を無心する詐欺集団みたいなものじゃ。

 ただ心の拠り所としての存在価値はあったようじゃから特に何もせんなんだが、いかんせんどこも守銭奴が多いようじゃて、下手に関わるといいようにこき使われるか金を毟り取られるぞ。

 もう一つ、国もそうじゃ、どこかの国とかと懇意にするでないぞ。良いように使われたりせぬようにな。

 それから、加護も付けておいてやるからわしの代理人として好きなようにやってみよ』

「わ、分かりました。ありがとうございます」

『設定したぞ。では100年後ぐらいにでも様子を見に来るかのぅ。中々楽しかったぞ。

 では100年後を楽しみにしてるぞ。あまり酷い有様だとちゃちゃっとやってしまうかもしれないからほどほどには頑張るんじゃぞ』

「あ、待って…」

 神様がそう言うと意識がだんだん遠くなりやがて落ちていった。

(待ってって言ったのに~。不老不死までは願ってないよぅ。

 …ま、100年後には会えそうだからその時にでもお願いすればいいか。

 それにちゃちゃっとこの星が吹っ飛んだりしたら洒落にならないから頑張ろうっと)

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