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プロローグ

◆西暦2037年XX月XX日◆


「野菜たち元気に育ってくれたね」

 今年は例年以上に豊作になりそうで嬉しい。

「そうね。そろそろ収穫してもいいんじゃない?」

「そうだな。これならこの冬も越せそうだ」


 彼らの一日は朝起きると鶏や豚小屋の掃除と餌やり、それから朝食を食べて畑作業。

 もちろん少女は家事のお手伝いもする。

 ギリギリの生活なのでお昼は無し。

 夕食を取って、水に濡らしたタオルで身体を拭いて、暗くなったら寝る。それの繰り返し。


 家畜を育てている者と卵や肉を野菜と交換したりと、コロニーでの生活は平和で、周りの家族とも仲良しで、ずっとこんな生活が続くものとばかりだと思っていた。

 実際、ここは山を越えた先にあり、訪れる者などいないはずであった。


     *     *


 しかしある日…


 いつものように両親と畑の手入れをしていると、急に外が騒がしくなる。

「スカベンジャーだ!戦えるやつは武器を持ってこい!」

 周りで農作業をしていた男たちが各々の家へ向けて駆けだす。

(何で、こんな辺鄙なとこまで来るのよ!)


 現れたスカベンジャーの数は10人ほど。このコロニーには男は数人しかいない。後は老人や女子供が10人ほどいるだけだ。

「くそ、数が多すぎる…」

「女は子供たちを連れて逃げろ!その間俺たちで食い止めるぞ!」

「「「おうっ」」」

 女たちはすぐに必要最低限の荷物を背負い逃げ出すものと、ここに残ると決めたのか、子供のいない女性や老人までもが武器を手に取った。


 少女の母親は急いでリュックへとその辺の野菜をいくつか入れると、すぐに私を連れて走り出す。

「ぐっ」

「えっ…」

 だが、突然横を走っていた母親が倒れ込んだ。

(な、な、何が起きたの…)

 混乱したまま、よく見ると母親の足に矢が刺さっている。

 後ろを見ると洋弓を構えた男が逃げる人に矢を放っているのが見えた。


「ぐっ…ひなた…あなただけでも逃げて…早く…」

「お母さん…い、いやだ…一緒に…」

 涙で母がよく見えない。

 母親は何とか立ち上がり、少女を庇うように抱き寄せ、リュックを背負わせるとすぐに背中を押す。

「振り返っちゃ駄目よ。さぁ、早く行きなさい!」

「やだ!!」

「いいから行きなさい!!」

 大きな声で叱りつけると、今度は強く背中を押された。

(やだ、やだ、やだ)

 その勢いでわけが分からないままの夢中で走り出す少女。


     *     *


 どれだけ走っただろう…

(お父さん…お母さん…一人はやだよぅ)

 もう既に当たりは暗くなり、周りもよく見えないのと、疲労のせいでゆっくりとしたスピードになっていて、そろそろ休みたいが子供の足なのですぐに追いつかれてしまうのではと休む事もできない。


 それからしばらく歩いたものの、もう体力的に限界だった。

(喉乾いたなぁ…お腹もすいたぁ…疲れたぁ…)

 リュックから野菜を取り出して食べながら歩く。

(この野菜あまり好きじゃないんだよなぁ。それでも何か食べないと動けなくなっちゃう)

(近くに川があるはずなんだけど、こんだけ暗いと方向が良く分からないや)

 それでもよく耳を凝らすと微かだが川の音が聞こえる。

(あ、向こうに川の音がする)

 ふらふらと疲れた身体にムチ打ち音のほうへと向かう。


 すると突然足元が軽く、いや無くなった。

「えっ」

 急いで体制を立て直そうとするも、疲労で限界を迎えた身体では思うように動けず、転げ落ちるように落下する。

 かなり高いとこから落ちているのだと、何となく理解した瞬間短い人生の終わりを悟った。


(お父さん、お母さん、ごめんなさい。一人じゃ無理だったみたい…でもどうして…)

(神様、私何も悪い事してないよ?毎日お仕事頑張ったよ?なのにどうして…)

(でもこれでひもじい思いをしなくて済むかな…次生まれる時は平和な楽しい世界だったらいいなぁ…)

 崖から落ちながら、激しい痛みの中少女は意識を手放した。

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