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56. キャラが立つ! 性格の描き方 後編

【第56回 2022.8.3】『キャラが立つ! 性格の描き方』後編 を配信


 【キャラ立て、立た立つ立つる立つれ立てよ】

 【めちゃ映える3つのエピソードの描き方を検証!】

 前編では、以下の3つのポイントを組み合わせて性格・特徴を描くと、キャラクターが立つのではないか。ということについて触れました。


 ①その性格と関連がある場面で描く

  例:大食いキャラが、特盛ラーメン30分で完食チャレンジに成功する

 ②無関係な場面で描く

  例:大食いキャラが、隙あればいつもスナック菓子を立ち食いしている

 ③本人や周りに悪い(良い)影響が出る

  例:大食いキャラが、3時間何も口にしないと正気を失い暴れだす(※1)


 後編ではこの①~③に当てはめつつ、応用編として。

 1つの例題に取り組んでみたいと思います。では、さっそく出題、


----------


 【例題】

 敵から追われ、その日暮らしの放浪生活を送っていたために、金にうるさく、節約癖がついた美少女ヒロインがいます。この設定を活かすようなエピソードを考えてください。


-----------











 実は、この例題には元ネタがあります。

 いわゆるAAAトリプルエータイトル――2021年に発売された超大型の期待作であった、ロールプレイングゲームの女主人公がモチーフです。

 そのゲーム内では、「お金を稼ぐためのダンジョンがあり、そこに任意に向かうと主人公が、お金に対するこだわりを口頭で述べる」という対応をしていました。


 このコラムにおける【①その性格と関連がある場面で描く】を採用して、節約癖を表現したわけですね。

 ただ、ユーザーの反応は芳しくなく、というか無反応。

 キャラクター人気も今一だったのですが、仮にキャラが話題に上がっても節約癖のことに触れている感想は、ほとんど見られませんでした。ほぼ死に設定。


 自然に受け入れられるようにする布石のエピソードも見当たらなく、悪い意味で、つじつま合わせ。設定をなぞっただけで終わってしまいました。


 うん、そんなに、ディスる(批判する)ならオマエも解決策を出してみろよ…!

 ということで、私も①②③の項目にそって考えてみました。



■ ①その性格と関連がある場面で描く ■


 大食いならば、食べる場で演出する。

 節約癖ならば、お金関係のエピソードで演出する。

 それがこの手法、【①その性格と関連がある場面で描く】です。


 例えば、「大金を得ると周りを欺き、独り占めしようとする」ことで、度が過ぎた金への執着心を演出しても良いのですが……。敵方ではなく主人公のキャラクター設定となると、ややアクが強いでしょうか?

 もう少し汎用性を上げるとすると、


 ・買い物する場面で、とにかく値切ろうとする

 ・収入のほとんどを貯蓄に回している


 というのが、落としどころ、スタンダードでしょうか。

 ただ「貯蓄に回している」だけだと面白みがないので、「実は、自分のような放浪生活を送っていた子供たちのための孤児院を作るためだった」とすると、ちょっとだけ意外性があり、キャラクターに対して少し好感度が増すかも。


 あるいは、反対にアクが強くして、かつキャラクター設定を大幅に「節約癖」に寄せていいのであれば、主人公は女性の身ながら【金貸し】を生業としている。とすると、彼女ならではのパーソナリティになりますかね。


 ともあれ【①その性格と関連がある場面で描く】は、お金に関する癖を、お金に関するエピソードで説明する、という意外性のない手法です。


 ①だけだと、物語に発展性がない。とってつけたような空気エピソードになってしまいますので、「実は~(金貸し)」というインパクトのある設定と紐づけるか、②③の手法と併用した方がキャラクターが立ちそうです。



■ ②無関係な場面で描く ■


 金とは関係ない場面まで、節約癖に支配されるのが②です。

 「美少女なのに、節約のために着古したボロボロの服を身に着けている」

 「持っている下着は3枚、しかも3日は連続で着用」

 などと、節約癖が衣食住を過剰に圧しているのが典型例でしょうか。

 「そのことを知って、他の美少女ヒロインたちがオシャレをしないなんて勿体ないと言いだし、一緒に服を買い物に行くことになった」

 という、他のキャラクターとの楽し気な交流エピソードに自由に絡められそうなのが、②のいいところ。


 巨大なネズミのモンスターと遭遇しても、

 (ネズミの皮って臭いから、剥いでも安く買い叩かれるんだよなぁ…)

 (やった…! 倒して〆れば10日ぶりに、まともなお肉にありつける…!)


 と、戦い集中せず、節約や金策のことを考えさせても【優先順位が節約】であることを印象付けられます。

 キャラのモノローグとしてだけで終えられるので、気軽に採用もできるでしょう。


 節約のために口にできるものは何でも調理して食べてきたので、どんなマズい物も食べられる(悪食)。鉄の胃袋を持っている。可愛い動物を〆て捌いて食肉にするのなんてお手の物。


 という設定であれば、周りのキャラがドン引きしているというギャグシーンに繋げられそうですね。



■ ③本人や周りに悪い(良い)影響が出る ■


 まずこの③は、①②と重複する場合があります。


 ①で挙げた、友人をも騙して大金を得ようとする。

 ②で挙げた、美少女なのにボロボロの服を来ている(容姿的な魅力を下げている)。


 が、該当しますね。

 つまり、③は①②とセットで行うことで、インパクトを強化する効果があるということです。


 ・「金貸し」であるため貸し借りにこだわる

 ・→ 故に、図らずも貸しを作ってしまった相手には、たとえ我が身が不利になると分かっていても助けに入ろうとする


 とすると、金貸しなのに人情派である(その性分が為によくトラブルに巻きこまれる)ことも強調でき、金貸しというエピソードを強化できますね。


 他にも、貧乏性が故にいいことがあっても自分にご褒美を与えられない(※2)とか。

 節約癖が転じて、店頭の商品をくすねるようになってしまったとか。


 周りに実害がある。あるいは、サポートしないと日常生活に支障が出るほど根深い問題である。というのが③の手段の特性です。よって、キャラクターの欠点を強調したい場合。

 または、その欠点を乗り越えて成長する。

 お互いの欠点を補い合って、パートナーとしての信愛を深める。


 といった、目的意識がある場合にこそやはり、③は有効となります。



-----------


 以上、ざっくりと①②③に沿って、【節約癖】のある女主人公のキャラクターの立て方の案をまとめてみました。

 前編でも触れましたが、お金に関する特徴だからお金が話題になっているエピソードでキャラ立てすれば良い、というわけではなく。

 他の生活場面にも影響するからこそ、その性格の特殊性が際立つ。

 他のキャラクターとの楽しい会話の機会も増やせるわけです。



 1つ、私から理想と考える例を挙げれば――

 1998年から全国のNHKで放送され、今なお愛される人気アニメ【おじゃる丸】に登場する、売れない女流漫画家【うすいさちよ 28歳独身】でしょうか。(※3)


 彼女は、売れない少女漫画家という設定がベースにあるのですが。

 貧乏でひもじい思いをしている。あるいは漫画編集者にダメ出しをされるという描写はさほどありません。あることはありますが、それほど印象には残っていないのではないでしょうか。


 むしろ、彼女の貧乏生活の象徴といえば、

 「使い古しの紅茶のティーパックを使っては干して、再利用している」

 「自室が、洗濯ばさみに止められ吊るされたティーパックでいっぱいになっている」

 というオンリーワンな奇癖でしょうか。


 「ティーパックをアホほど使いまわす」という度を過ぎた節約術で【売れない】少女漫画家ということを提示する。と同時に、まがりなりにも紅茶にこだわっていることで、彼女が少女漫画家らしくロマンチストであることも併せて印象づける。

 まさに、一石二鳥の設定といえるでしょう。


 【売れない漫画家】というとまず、スランプに陥っている執筆風景や、編集者とのやりとりにフォーカスしたエピソードを思い浮かべがちです。

 どうしても【①その性格と関連がある場面で描く】に頼りそうになってしまう。


 しかし、そこからややずらして、「え? 【売れない】という設定がそんな生活場面まで影響してんの?」という驚きを引き出せる、②③の手法を交えた方が確かにインパクトがある。

 キャラ立ちも、しようというものです。


 ①その性格と関連がある場面で描く

 ②無関係な場面で描く

 ③本人や周りに悪い(良い)影響が出る


 の場面を、適宜に組み合わせて表現した方がキャラクターが立つ。

 プロの執筆家でもそれが案外、難しいんやで。

 ということで、改めて今回のコラムの結論とさせて頂きたいと思います。



 なお、最後に。でここまで目を通してくださった方に、私の考える①②③に続く4つめのキャラクターの立て方のコツをご紹介したいと思います。それは、


 ④自分の性格に自覚がない


 です。大食いなのに、自分の食べる量が普通だと思っている。

 誰かが地面に落として食べられなくなった食事を、平気で食べてしまう。

 節制癖のある女主人公であれば、


 「お風呂に入るのは1週間に1度です。水は貴重ですし」

 「あ、でも最近は、皆さんと一緒に暮らしてますから、3日に1度はシャワーを浴びるようにしてますよ? 身支度は大切ですもんね?」


 と、しれっと告白させる。


 すなわち、【自分がノーマルだと思い込んでいる】アブノーマルというキャラパターン。

 自分が正常ではないことを自覚できないほど、行動パターンが日常生活を侵食していることを示せば、より性格面での異常さを強調できるわけです。


 前編で紹介した、『ウマ娘 プリティダービー』のオグリキャップもこのパターンですね。(※4)


 あるいはこの手法を裏返して、「自分の行動が異常であると自覚していても、正そうとしない」ことで、そのキャラクターのヤバさを印象付けることも可能です。

 【罪だとわかっていても、人を襲うことをやめられないシリアルキラー】

 などがこのパターンですね。


■ 今日のまとめ ■

・大食いキャラというとつい食事時で活躍させたくなるけど、それだと展開がワンパターンになるよ。

・食事とは関係ない時に大食いキャラを発揮するから、その特徴が目立つんだよ。

・本人や周りに損得が生じると、より重症度を印象づけられるよ。

・本人に自覚がないと、より特殊に見えるよ。



(※1)

 いわずとしれた、週刊少年ジャンプの人気コミック。

 ワンピースのビッグ・マムのあれのこと。


(※2) 貧乏性でいいことがあっても自分にご褒美を与えられない

 ウマ娘のタマモクロスがまさに、このパターン。


(※3) うすいさちよ28歳独身

 彼女は、名前に28歳独身とつけるのが定番のキャラなのです。


(※4)

 ウマ娘はこの手の、『自分の性格を自覚していない』キャラが散見されますね。

 サクラバクシンオー(得意と不得意の差が激しい才能の持ち主だが、自分では万能だと思っている)

 シンボリルドルフ(生徒会長として人望があり、万能なキャラ。唯一の欠点は、寒いダジャレを口にすることだが、なぜか周りをドン引きさせていることに気づいてない)



【自己紹介 板皮類 学名:ニョロリマス・オパーイスキー】


 ばんぴるいと読む。美少女ゲーム業界で14年。

 その後、一瞬だけソーシャルゲーム業界にいた、元企画屋&シナリオライター。

 毎週、新作エロゲを300円で8週間連続発売するなど、コンフォートゾーンから飛び出す、変わり種企画が持ち味だった。

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