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55. キャラが立つ! 性格の描き方 前編

【第55回 2022.8.1】『キャラが立つ! 性格の描き方』前編 を配信


 【キャラ立て、立た立つ立つる立つれ立てよ】

 【めちゃ映える3つのエピソードの描き方を検証するよ!】

 生理学やら解剖学やら、ここ最近はアカデミックなコラムが多かったので。

 今月は、久しぶりに【元物書き】らしいネタをば。


 小説や、シナリオで大事といえば、【キャラクターを立たせること】ですが。

 今回はシンプルに、キャラクターを立たせる方法――すなわち、どうやって登場人物たちの性格を描けば、読者の目に魅力的に映るのか。あるいは読者の印象に残るのか考える……。

 私、板皮類流に、


 ①その性格と関連がある場面で描く

 ②無関係な場面で描く

 ③本人や周りに悪い(良い)影響が出る


 の3つの手段にわけて、分析していきたいと思います。


 例題として、【大食いの女の子】で考えてみましょうか。

 まず、着目したいのが1番の『①その性格と関連がある場面で描く』から。


 ・1日5食

 ・何杯もご飯をお替りする

 ・ホットドック早食い大会で優勝する

 ・3分でにんにくあぶらましましラーメンを完食する


 大食いだから、そのまんま「食事関係のイベントを用意して描く」というシンプルな手法ですね。さほど頭を働かせる必要のない一番楽なやり方です。

 故に、この手法の長所は、執筆するサイドにあまり負担がかからないこと。欠点としては、あまりに構成にひねりがなく、場合によっては、とってつけたようなイベントに見えやすい点でしょうか。


 これまで、まったく大食いのそぶりを見せていなかったのに。

 面白いシーンを描きたいあまりに、いきなり『優勝候補である相撲レスラーや、前回優勝者をなぎ倒し、ホットドッグ早食い大会で1位を取る』というイベントを見せてしまったら、とっぴすぎて読者がついていけない恐れがあります。飲みこめません。


 女の子なのに大食いであるという意外性の【布石】がないため、物語の流れを不自然に感じてしまうのです。

 一応、「大食いという設定を使ったイベントを描く」というノルマは果たし、つじつまもあっていますが。これだけだと読者が腑に落ちない。


 あるいは印象に残らず、直ぐにその設定は忘れ去られるでしょう。


 それを避けるためには、『①その性格と関連がある場面で描く』だけでなくその布石として、『②無関係な場面で描く』の描写も併用する必要があります。


 物語だけでなく現実でもそうですが。

 人間の特徴・性格というのは、その人の様々な生活場面を支配します。


 【潔癖症】の人は、食事の前や、外出後だけでなく、何かに触れる前・触れた後にしきりに手を洗い、あるいは消毒しようとするでしょう。他の人は気にしないような小さな汚れに対してまで怯え、拭き取ろうとするかもしれません。


 【新しいガジェット(目新しい機器)好き】の人の部屋は、買ったものだらけで足の踏み場がないかもしれません。期待の新作ガジェットが発売する日は、有給休暇をとってまで早朝からお店の前に並ぶかもしれません。


 【なんでも1番になりたい】人は、スポーツや勉学、仕事に励むだけでなく、1番風呂を好むのかも。コインロッカーでも001番を必ず選び、さらには「1/7に誕生予定だったのに早まって、1年の初めである1/1に生まれた」なんて神がかったエピソードを持っているかもしれません。


 このように、【潔癖症】【新しいガジェット好き】【なんでも1番になりたい】という性格は、本来それは行わない場面――仕事(有休をとる)、部屋スペース(ガジェットで足の踏み場がない)、風呂の入り方――まで、支配的になるものです。

 これこそ、『②無関係な場面で描く』の特徴です。


 冒頭の【大食いの女の子】の例で考えれば、


 ・暇さえあれば四六時中、なにかスナック菓子を食べている

 ・珍しく真剣な顔をしていると思ったらお腹が鳴った(いつでも空腹になる)

 ・大熊のモンスターを見て、「そういえば熊の手って高級食材なんだよな、美味しいのかな?」と想像を巡らせる

 ・彼女の愛用のコートのポケットには、無数の棒キャンディーが入っている

 ・いつもドーナツをくわえながら、剣をふるっている


 といった、描写が考えられるでしょうか。


 往年の週刊少年ジャンプの忍者コミック『NARUTO』に登場した秋道チョウジなどか典型で、ただ大食いで太っているだけでなく、戦っている時以外、たいていスナック菓子などを食べていましたよね。

 食に関する行動が、彼の場合も食事時以外まで侵襲しているのです。


 また、同じく週刊少年ジャンプのコミックで、今なおブームが続いている、『鬼滅の刃』より、こんなセリフもあります。

 「俺は長男だから我慢できたけど、次男だったら我慢できなかった」

 これは主人公、竈門炭治郎が、傷の激痛に耐えながら戦いを続けている場面で飛び出した迷言ですね。


 炭治郎は真面目で辛抱強く、人を救う使命感に富んだキャラクターです。

 また、一般的に長男長女はしっかり者が多く、「お兄ちゃんだから、我慢しなさい」と、忍耐を強いられることが多いとされています。


 でも、戦いでの激痛(肋骨とかが折れている)を長男だから耐えられて、次男だから耐えられない、というのは道理に合わない。度を越えています。


 彼の辛抱強さ、長男として自然と身についた使命感が彼の思考を、およそ関係ない場面まで縛っている。

 炭治郎というキャラの我慢強さ・使命感が尋常ならざることを、笑いとともに示唆する迷セリフだったといえるでしょう。


 このように『②無関係な場面で描く』では、本来はその場面ではありえない行動を、その性格故にしてしまうことで、そのキャラの特徴を際立たせる。

 起こるはずのないことが起こるので、恐怖であったり、笑いであったり。その行動にツッコム別のキャラクターを用意すれば、さらに面白い会話・コミュニケーションに発展できたりするのが、長所です。


 また、①番の例のように、『ホットドック早食い大会』のようなわざとらしい大規模な専用イベント(食事シーン)を用意しなくても良い。

 一日三食以外の日常のシーンで、「あれ? こいつ何か変なもん食ってるぞ?」と、ばかりに、大食いがアピールできる。他のエピソードが進行しているついでに、【大食い】の性質を繰り返し強調できるメリットがあります。


 最後に、『③本人や周りに悪い(良い)影響がある』では。

 その性格・特徴が原因で、本人や周りにとって看過できない不都合(あるいは得)が生じることで、その性格が通常の域では収まっていないこと強調する手法です。


 例えば、2021年のゲームビジネスをけん引したといってもいい、競走馬を擬人化した人気コンテンツ『ウマ娘 プリティダービー』。

 登場する美少女は馬がモチーフであることもあって、本作では健啖家の【大食い】であるキャラクターが多いのですが、特にエピソードに事欠かないのがオグリキャップです。


 主人公が、オグリキャップのトレーナーになったばかりの頃。

 昼飯に、オグリキャップがパンやお握りを山ほど食べたものの、まだお腹を空かせている様子だったため、トレーナーである主人公が自分用のおにぎり(3つ)を見せて「食べてもいいよと」譲るシーンがあります。


 主人公としては、【1個くらいお裾分け】という気持ちであったと推測できますが、オグリキャップは礼を口にしてから、ぺろりと3つ全てを完食。


 どうやら、おにぎり3つごときはウマ娘にとっては少量なので、オグリキャップはまさか主人公の弁当がそれで全てとは思わなかった。

 主人公が食べ残したものだと判断して、残すぐらいならと遠慮なく食した模様。


 そんな微笑ましいすれ違いの結果、主人公はその日の昼食を食べ損ねたというオチがついて、そのイベントが終わるわけです。(※1)


 このように【お昼ご飯を食べ損ねた】という実害があると、シナリオの読み手のリアルにオグリキャップの大食いが尋常ならざることを実感できる。


・場合によっては、直してもらわねばならないほどその性格・傾向が強い

・俗にいう重症である


 ことを匂わせるわけです。


 もっとも周りに迷惑(得)をかけることは、「サポートしなければならない、かわいい存在」と保護欲を刺激することもできますが、「害を及ぼしてくるイヤなヤツと」そのキャラクターの人気に影を落とす原因にもなりえます。

 薬にも毒にもなる手法であると心得た方が良いかもしれません。(※2)


--------------


 以上、キャラが立つ方法と題して、3つの性格の描き方を見てきました。

 ともあれ人間の性格というのは、1つの場面でポンっと表出して終わりではなく、多様なエピソードとして現れるものです。


 【大酒のみ】であれば、


 ①その性格と関連がある場面で描く

   ・一晩で一升瓶3本を開けてしまう(飲む量がすごい)

   ・一気飲み対決で勝つ(酒に強い)

   ・焼酎しか飲まないというこだわりがある

 ②無関係な場面で描く

   ・迎え酒と称して朝から酒をのむ(飲んじゃいけない場面でも飲んでいる)

   ・よく一升瓶を持って道端を歩いている

   ・会社帰りの電車の中で、ワンカップ酒を飲み始める

   ・結婚する相手は、自分より酒に強い男だと決めている(※3)

 ③本人や周りに悪い(良い)影響が出る

   ・酒と肴にお金を使いすぎて、常に金欠である

   ・二日酔いで、ぐったりしている

   ・酔うと服を脱ぎだす

   ・酒を飲むと酔拳が使えるようになる

   ・口から飲みすぎリバースして、辺りを汚す(※3)


 などなど。手段も多様です。

 中でもとっつきやすい①を選んでしまいがちですが、前述の通りそれだと取ってつけたような感じになってしまいがち。

 またともすれば、①②③のうちどれかたった1つを選び、1つの大きなエピソードで、キャラ立てを終えようとする作品も散見されます。


 しかしそれでは、説得力がないし、なによりつまらない。

 布石として前後に細やかな描写を配置してから、ガツンと大エピソードに突入した方が、読者はすんなりと咀嚼しやすいのではないでしょうか。


 ともあれ、今回のコラムの内容を一文でまとめれば、『際立った性格というのは、それとは関係ない生活場面まで支配し、まだ本人や周りに損得を生じさせるもの』ということになるでしょうか。

 これだけでも、覚えていって頂けると幸いです。


■ 今日のまとめ ■

・大食いキャラというとつい食事時で活躍させたくなるけど、それだと展開がワンパターンになるよ。

・食事とは関係ない時に大食いキャラを発揮するから、その特徴が目立つんだよ。

・本人や周りに損得が生じると、より重症度を印象づけられるよ。



(※1)

 オグリキャップや主人公の思考は明言されているわけではないので、一部、板皮類の主観、予測が混じっています。


(※2)

 ウマ娘のオグリキャップの場合、悪気がないこと。意図的に他人を害するキャラクターではない(いわゆる天然ボケである)ことが、このおにぎり事件の前で十分に示されているので、彼女のイメージを損なうことはないでしょう。


(※3)

 美少女キャラとしては、グランブルーファンタジーのラムレッダあたりが有名でしょうか。

【自己紹介 板皮類 学名:ニョロリマス・オパーイスキー】


 ばんぴるいと読む。美少女ゲーム業界で14年。

 その後、一瞬だけソーシャルゲーム業界にいた、元企画屋&シナリオライター。

 毎週、新作エロゲを300円で8週間連続発売するなど、コンフォートゾーンから飛び出す、変わり種企画が持ち味だった。

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