51. 成功の秘訣は繰り返し見てもらう 後編
【第50回 2022.6.3】『成功の秘訣は繰り返し見てもらう』 後編を配信
【ロックインや、ザイオンス効果といいます】
拙作ながらこのコラムを投稿している元ゲームクリエイター【板皮類】ですが。
14年間の活動期間では『美少女ゲーム』の製作を、特にキャリアの後半は主に企画職である――ディレクターとして活動していました。
美少女ゲームのディレクター職は、プロデューサーを兼任することが大半のため(※1)、販売計画もかかわっていたわけですが。念頭に入れていたのが、今回、ご紹介している『3回お店に来てもらって、常連になってもらおう』作戦です。
美少女ゲームの販売戦略は、発売日までが勝負です。
なぜなら、プレイステーションやSwitchとかの家庭用ゲーム機の市場と比べて、美少女ゲームの市場というのは、新品に対する中古ソフトの流通する比率が大きいから。
美少女ゲームの市場は、「お客様が中古を買う抵抗が低い」「ショップも中古の方を売りたがる」という傾向が強く、発売日を過ぎると新品のソフトの売り上げが激減します。
中古ソフトが売れた場合、ショップは儲けても、製作メーカーには一銭も入らない。ですので、ゲームメーカーにとっては、新品ソフトしか出回りようがない発売日までがかき入れ時。
正確には、発売日の遅くとも3週間前までには『何本ソフトを製造するか』を決めなければならないので、このデッドラインまでが販促・宣伝の主戦場となります。(※2)(※3)
その際、私の考えていた方針が、今回の理論の応用である、
『発売日の3週間前までに、オフィシャルホームページに3回以上来てもらおう』作戦でした。
「お店=自社のオフィシャルホームページ」
であるとみなし、そこに誘導できるような販促イベントの弾を幾つも用意しておこう。という試みですね。候補としては、
・美少女ゲームにおける情報初出し(※4)
・体験版の公開
・デモムービーの公開
・サンプルイベントCGの公開・更新
・キャラクター紹介の公開・更新
・特典の情報の公開
・その他の(今でいう)バズりそうなネタの公開
辺りでしょうか。これらをタイムリミットの日までに幾度かに分けて、一矢、二矢、三矢、四矢――と発信します。
私が活動していたころは、体験版や、デモムービーは特に強力でしたね。
雑誌の付録として体験版を収録してもらったり、ミラーサイトと呼ばれる有志の拡散サイトにアップロードされたりすると、自社ホームページへのアクセス数が爆発的に増加!
ソフトの知名度も上がりました。
残念ながら、私がゲームクリエイターを引退した3年前より後の現代では、状況が変わり、情報の発信源であった美少女ゲーム雑誌の大半が廃刊してしまいました。
ミラーサイトも多くが閉鎖されています。
また、YahooやGoogleといった検索サイトのルーチンも変えられたようで、そもそも美少女ゲームを扱うホームページ自体が検索され辛くなっています。
Youtubeといった盛況なサイトはそもそも、アダルト描写は禁止。
ですので、そもそも自社のホームページに誘導すること自体が困難になっています。この私の手法は今現在は通用しなさそうなわけですが、発想の源は使えそうな気がします。たとえば、
・販促とは、連続して命中させねばならない弾の数々と考える
・繰り返し情報発信をし、2度3度とサービスに注目してもらう
・そうやって何度も新作に触れてもらうことで、初めて購入や利用に結びつく
今の消費者はクレバーで、楽しいエンタメにあふれている環境の中で、「本当に欲しいものしか買わない」ように思います。
だからこそ、繰り返し「購入するための検討材料となる情報」の発信をする。
「これは確かにアナタにぴったりのサービスですよ」と相手に確信してもらえる段階まで何度も説得しもっていかないと、購入に結びつかない気がします。
この辺りは、アダルト関係だと同人ゲームが上手く立ち回ってますね。
「ファンティア」「Ci-en」といったファンとの交流ができるブログサイトで、新作ゲームの開発の様子を誰でも見られるように無料で公開するとか。(※5)
時には、ファンから開発途中のゲームの改善点を募って、製品版に反映するとか。
こうしてユーザーと製作者がコミュニケーションを取ることで、発売日の数か月前から、あるいは数年間をかけて注目を集め、地道にファンを増やすことに成功しています。
一方Youtubeでは企業案件が盛んですがなぜか、大半が単発の動画で終わるんですよね。
最低でも、前編と後編の2回にわけてサービスを紹介しないと、視聴者の記憶にあまり残らないと思うのですが、いかがでしょうか?(※7)
■ 今日のまとめ ■
・宣伝は単発で終わらせるのではなく、繰り返し注目してもらうのがたぶん大事
・だから販売促進計画の弾は、多く用意しておく必要がある
・ゲームとか、企業案件の動画も同じでもかもね
(※1)
ディレクター:製作を統括する人のこと。映画でいうなら監督。
プロデューサー:販売計画を統括する人のこと。
スタジオジブリだと、ディレクター=宮崎駿監督、プロデューサー=鈴木プロデューサー。
(※2)
発売日の3週間前からソフトを造り始めないと、発売日にお店に並べられないため。コンシューマー市場だともっと、前に製造数を決めなければならないそうですね。
(※3)
なので、発売日の3週間前までに、お店にどのくらいのゲームソフトを仕入れるか、注文本数を、連絡してもらいます。
(※4)
ゲームの最新情報を独占に提供すると、その雑誌での紹介ページが増える(交渉材料になる)ので、だいたい雑誌が初出しとなっていました。
(※5)
先行体験版などのプレミアムな情報は、サブスクの機能を用いて有料で提供しているケースも見られます。(※6)
(※6) サブスク
サブスクリプション。月額●●●円といった継続的な料金体系で、好きなクリエイターに寄付したり、特定のサービスの利用権利を得たりするシステムのこと。
(※7)
2回分のコラボ料金(大金)をまとめて支払う代わりに、ちょっと割り引いてもらう。というような交渉もできそうなものですが。なんで、単発で終わらせるのだろう?
【自己紹介 板皮類 学名:ニョロリマス・オパーイスキー】
ばんぴるいと読む。美少女ゲーム業界で14年。
その後、一瞬だけソーシャルゲーム業界にいた、元企画屋&シナリオライター。
毎週、新作エロゲを300円で8週間連続発売するなど、コンフォートゾーンから飛び出す、変わり種企画が持ち味だった。




