38. 人間の感覚小全集 - いわゆる触覚とは? -
【第37-39回 2021.10.1-】 人間の感覚小全集(全3回) を配信
【手触り、匂い、味――といった感覚の描写は、表現力の肝!】
【ならば知らねばなるまい! 感覚の仕組みをッ!】
前回は、五感のうち4つ。
視覚、味覚、嗅覚、聴覚に、前庭感覚を加えた5つをば――脳に直接神経がつながっている、【特殊感覚】をご紹介しましたが。
今回からはもう1つのカテゴリー。
【一般感覚】を考えたいと思います。
【一般感覚】とは、背骨にある脊髄を通して脳に神経が繋がっている感覚全般を指し、さらに3つのカテゴリーに分けられます。
・皮膚感覚:皮膚にセンサーがあるもの。表在感覚ともいう。
・内臓感覚:内臓にセンサーがあるもの。血管も含む。
・深部感覚:皮膚でも内臓でもない部分にセンサーがあるもの。筋肉など。(※1)
■ 人間のもつ感覚の分類 ■
┃
┣━ 特殊感覚 ←前回やったところ
┃ ┣━ 【視覚】
┃ ┣━ 【嗅覚】
┃ ┣━ 【味覚】
┃ ┣━ 【聴覚】
┃ ┗━ 【前庭感覚】
┃
┗━ 一般感覚
┃
┣━ 体性感覚
┃ ┃
┃ ┣━ 表在(皮膚)感覚 ←コイツら(今日ふれるところ)
┃ ┃ ┣━ 【温度】
┃ ┃ ┣━ 【痛覚】
┃ ┃ ┣━ 【触覚】
┃ ┃ ┗━ 【圧覚】
┃ ┃
┃ ┗━ 深部感覚 ←コイツら
┃ ┣━ 【筋肉の伸張】
┃ ┣━ 【関節の運動・位置覚】
┃ ┣━ 【振動覚】
┃ ┣━ 【重量覚】
┃ ┗━ 【深部痛覚】
┃
┗━ 内臓感覚 ←コイツら
┣━ 【血圧】
┣━ 【肺胞の膨張】
┣━ 【内臓痛覚】
┣━ 【血糖値】
┗━ 【血液の成分(O2,CO2,浸透圧)】
前回、登場しなかった五感の残り1つである触覚は、一般的にはおそらく皮膚で感じる刺激をまとめて指したものでしょうから、1番目の【皮膚感覚】に近い概念だと思われます。
しかし、皮膚感覚は、医学的には実に細かく分化されています。
適度に詳しく、触れていきましょう。
●ざっくりのまとめ
・皮膚で感じる感覚をまとめて皮膚感覚という。
・皮膚感覚は、【触覚】【圧覚】【痛覚】【温冷覚】の4つ
・痛みには、ファストペイン、スローペインなど、色んな種類がある
・激しい痛みや、痛みを与え続けると、人は痛みを感じやすくなる
・↑の特徴を、神経の感作、可塑性という
●触覚・圧覚
概念として、皮膚が歪んだあるいは、押されたと感じるものを【圧覚】。
そして、圧覚の弱いものを、厳密な意味での【触覚】といいます。(※2)
医学的な分類法だと、触覚はとても小さな範囲しか指さないわけですね。
しかも、【触覚】は様々なセンサーが、色々な感じ方をしており、
・摩擦を感じる:ルフィニ小体
・持続的な圧:メルケル触覚盤
・圧変化と振動:パチニ小体
・細かな触り心地:マイスネル小体
などいった具合。なんとまぁパターンが多いことでしょう。
なお、豆知識として、触覚と圧覚は刺激が小さいと、過敏に反応してしまうという性質を持ちます。急にくすぐられる、そっと肌を撫でられてビクッと心臓が飛び出してしまいそうになる、というアレです。
相手を驚かせたくない場合は、ある程度力を込めて、かつ持続的に触ると良いようです。
●温覚・冷覚
我々はたびたび温度とひとまとめにしてしまいますが、感じ取るセンサーは微妙に違っており、
・熱さを感じる:自由神経終末、ルフィニ小体
・冷たさを感じる:自由神経終末、クラウゼ小体
熱さは約40度以上、冷たさは約15度以下だとよく反応。
温冷覚のセンサーは、触覚のセンサーと比べて数が少ないのですが。
とりわけ熱さセンサーは特に数が少なく、まだ冷たさを感じるセンサーの方が多いと言われています。温かさより、冷たさに対する方が敏感ってことでしょうか。
●痛覚
皮膚では、自由神経終末が痛み刺激を感じます。
自由神経終末とは、先端に特別なカバーや構造物をもたない神経の先のことです。
〇オマケ1 痛みの種類
痛みとは、体の異常・損傷を脳に知らせるための信号(侵害受容という)の役割をもち、皮膚だけにとどまらず、色んな部分にセンサーが点在します。
それだけに、色んな痛みの種類があり、色んな分類法があるわけで…。
さすがに網羅するのは現実的ではないですが、幾つかピックアップしてみましょう。
【神経伝達の早さでの分類】
・一次痛:傷を負った瞬間にくる早い痛み。よく、針に刺されたようなと表現される。ファストペインという。
・二次痛:鈍くうずくような痛み。ヒスタミン、キニン、セロトニンなどの体内物質が関与する。一時痛と比べて、遅くくる痛みで、痛む場所がわかりにくい。スローペイン。
・神経痛:神経そのものが傷つく、圧迫されたときの痛み。
【痛みの時期での分類】
・急性痛:体の組織のどこかが傷ついたことによる痛み。上記の一次痛、二次痛、神経痛は概ねまずこれに含まれる。
・慢性痛:急性痛がずっと続く場合を指す。傷だけでなく、精神状態をはじめとする色んな原因がある。(後述)
【痛みの場所での分類】
・関連痛:異常が起こっている部位と別のところが痛むもの。放散痛ともいう。わかりやすいのが足つぼマッサージか。痛む位置で、内臓の不調がわかるといわれている。
首の右側の付け根:肝臓
首の左側の付け根:肺・横隔膜
左腕の胴体側:心臓
腰回り・太ももの外側:腎臓
お尻の下:膀胱
【痛むタイミングでの分類】
・安静痛:じっとしていても痛むもの。自発痛ともいう。
・運動痛:体を動かした時だけの痛み。誘発痛、圧迫痛も同じ。
【その他】
・トータルペイン:身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインを統合した概念。全人的苦痛ともいう。闘病、とくにガン治療に対してよくつかわれる言葉。
・社会的苦痛:友達を失った、信頼を失った、職を失ったなど。精神的苦痛に近いけど、対人関係や生活が困難になった場合を指す。
・スピリチュアルペイン:精神的・社会的苦痛に近いけど、人間の根源や、哲学的側面が強いもの。【私の人生に意味があったのだろうか?】【親失格ではないか?】など。
〇オマケ2 痛みが伝わる速度は遅い
感覚の信号は神経を通して、脳に伝わるわけですが。
感覚の種類によって、信号の伝わる速度が違うことが分かっています。
触圧覚は伝わるのが早く、温覚、冷覚、痛覚は伝わるのが遅いです。
・速度が速い:触圧覚
・速度が普通:温冷覚、早い痛み(ファストペイン)
・速度が遅い:遅い痛み(スローペイン)
〇オマケ3 慢性痛の正体
痛覚とは、体の異常・損傷を脳に知らせるための信号という風に定義しましたが。当てはまらないケースがあります。
その代表例が、慢性痛です。
病気が慢性化した(ずっと病気が治らない)から、痛みも慢性化した(ずっと続く)――という場合もあることはあるのですが、体に異常が無くても、あるいは異常が治っても、痛みが続く場合があるようです。
なぜか? それは神経の学習――【感作】【可塑性】にひとつ由来します。
指先を毎日使うような仕事をしていると、どんどん指先の感覚が研ぎ澄まされ、細かな作業ができるようになりますよね?
このように神経は、刺激されれば刺激するほど、その刺激に対して敏感になります。(この場合は触覚や、筋肉に指令を出す神経が敏感になったと考えられる)
小さな刺激にも反応するようになります。
これを、神経の感作、あるいは可塑性と呼びます。
神経の感作そのものは、色々な技術の習得に役立つ素晴らしい機能なのですが、弊害もあります。
つまり、激しい痛みを与えられた、あるいは長期間にわたって痛みを与えられると、神経が学習してしまい、ちょっとした刺激にも反応してしまう。
最終的には、なんら病巣や傷はないのに、痛みを感じてしまう。
サインを伝える手段であった痛みが原因そのものになってしまう、誤報が出やすい病気となってしまう。
慢性痛には、このタイプがかなり含まれるとされています。
また、神経は痛みだけでなく。触覚・温痛覚といった感覚から、内臓の調節、精神的ストレスに対する反応、など色んなものに関与します。
要するに、
・常に触れられていると、触れられることに敏感になる
・激しいストレスにさらされると、ストレスに弱くなる(※3)
・腹立たしいことが続くと、怒りやすくなる(※3)
・大失敗をすると、似た場面で緊張しやすくなる(※3)
ということです。
強すぎる刺激は、その人の刺激への耐性を弱くしてしまうのです。
あれ? 逆じゃね?
痛みを与えられると、痛みに慣れて強くなるんじゃないの?
と、疑問が浮かぶ方もいるかもしれませんが、それは
【余裕をもって我慢できる】【思ったほど大したことない】
と本人が感じられるレベルに刺激が収まっている場合に限ります。
(※4)(※5)
刺激やストレスが強すぎる場合、あるいは強くなくても休む間もなく続いていると、神経は感作を起こし、その刺激に過敏になる。
つまり、刺激に弱くなります。(※6)
この原則は、色んなメンタル疾患を理解するための基礎となるでしょう。
これを機に抑えておいてもいい知識かもしれませんね。
■今日のまとめ■
・皮膚で感じる感覚をまとめて皮膚感覚という。
・皮膚感覚は、【触覚】【圧覚】【痛覚】【温冷覚】の4つ
・痛みには、ファストペイン、スローペインなど、色んな種類がある
・激しい痛みや、痛みを与え続けると、人は痛みを感じやすくなる
・↑の特徴を、神経の感作、可塑性という
・神経の感作や可塑性は、痛みに限らず、色んな感覚に共通する。
(※1)
感覚を測るセンサーを、正しくは感覚受容器といいます。
(※2)
触覚の刺激がさらに小さくなると、擽感――くすぐったいになります。
(※3)
もう少し医学的にいうと、交感神経が過剰に働きやすくなり、これらの症状が出ます。
(※4)
この特徴を使って行われるのが脱感作療法。
『その人が余裕をもって対処できる程度に抑えた、苦手な課題を与えていくことによって、少しずつ慣らしていく』というもの。
不安障害をはじめとした、メンタル疾患の治療に用いられます。
(※5)
痛みの場合、本当に激しい痛みを覚えた当初は、痛みの制御系が働きます。いわゆる、『大怪我をすると、ショックで痛みが弱まる』状態。
ただし、あくまで一時的なことなので、長い目で見れば神経の感作で、痛みに弱い体質になりがちなのかと思われます。
(※6)
例えば、幕末の偉人として数えられる勝海舟。
彼は9歳のころに野犬に股間を噛まれ、70日間も寝込むほど重症を負いました。
以後、彼は生涯にわたって、犬を見ただけでガクガクと震えるようになったとか。
これも今でいう、PTSD、トラウマ、神経の感作の一種。
冷静に考えれば、躾けられた犬であれば怖くないのに。1度のストレスを伴う恐怖体験で、犬を前にすると冷静でいられなくなる体(神経=脳)になってしまったのだと考えられます。
【自己紹介 板皮類 学名:ニョロリマス・オパーイスキー】
ばんぴるいと読む。美少女ゲーム業界で14年。
その後、一瞬だけソーシャルゲーム業界にいた、元企画屋&シナリオライター。
毎週、新作エロゲを300円で8週間連続発売するなど、コンフォートゾーンから飛び出す、変わり種企画が持ち味だった。