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32. 運動学習と対戦格闘ゲーム


【第32回 2021.7.1】 『運動学習と対戦格闘ゲーム』 を配信


 【なぜ格ゲーは、初心者に厳しいのか?】

 【運動学習の理論から原因と対策を考える!(全3回)】


 e-Sportsにも積極的に組みこまれ、根強い人気をもつ【対戦格闘ゲーム】。

 熱烈なファンがいる一方で、


 『難しくて挑戦しにくい』『とっつきにくい』


 など、新規プレイヤーにとって新しく始めにくいジャンルと位置付けられていることも多い。【対戦格闘ゲームは、どうして一見さんお断りの空気があるのか】【なぜ、初心者にやさしくないのか】について、インターネットで論議されている場面も散見されるジャンルです。


 そこで、今回は、視点を変えて。スポーツの技術習得や、リハビリテーション医療で活用されている、【運動学習】の理論を用いて、


 ・なぜ、対戦格闘ゲームは、初心者に難しいのか

 ・どんな工夫をしたら、新しいプレイヤーはあきらめずに挑戦するのか


 などを、改めて考えてみたいと思います。


 さっそくですが、運動学習の理論において。新しい技術(体の動かし方)を身につけるには、以下のような手順で訓練すると効率が良いとされています。


 〇初期―フォームの正確さを身につける

 〇後期―速さと適応性を身につける


 まずはゆっくりとした動きで、正確な体の動かし方をマスターします。

 どんなにゆっくりでもいい。【野球のバットを振る】のでしたら、1回の素振りで2秒でも3秒でも、なんなら5秒でもかかってもいい。

 とにかく、正しい基本のフォームを身につけます。


 やがて、少しずつ速度を上げていく。

 1回で5秒もかかる素振りでは、ボールにバットを当てることは困難だったはずですが、速度を上げていくことで実用的なものに近づいていく。

 打ちごろのストレートのボールをヒットできるようになれば、速い球、遅い球。

 ストレートだけではなく、カーブやシュート、低めのコースの球など。

 色々な球種に対応できる、適応性を習得することで、一人前のバッター。名スラッガーへの階段を昇っていくわけです。


 この過程は、なにも野球に限らず、

 【箸の使い方を覚える】

 【自転車に乗る】【唐揚げを作る】

 【泳ぐ】【楽器を弾く】

 といった、あらゆる動きをマスターする時に共通しています。


 端的にいえば、

 【最初は『ゆっくりとした動きで練習する』が可能かどうか】

 が、その動作の習熟しやすさに影響していると言えそうです。


 たとえば、【鉄棒のさかあがり】【自転車に乗る】といえば、子供にとってはトラウマ級の難関。

 習得に苦労する身体運動の代表格だと思いますが、この『最初はゆっくりと練習』に抵触しているのが困難さの一因と考えられます。


 【鉄棒のさかあがり】であれば、ゆっくり回りたくとも、すぐに重力があなたの足を地面につかせようとする。下からお尻を支えて補佐する先生がいなければ、ゆっくり回れません。


 【自転車】は、速度が出るほど安定性が増す乗りものです。翻って、スピードが出ていないと左右によろよろとよろめいて、転倒してしまう。

 こちらも自転車を後ろから支えてくれる父兄がいなければ、『ゆっくりとした動作で練習する』なんて夢のまた夢。


 このように『初期:ゆっくりとした動作で正確なフォームを身につける』ことが難しいジャンルは、おおむねとっつきづらく、習得する前に挫折するケースが増えます。(※1)


---


 さて、これらの基礎理論を踏まえたうえで、対戦格闘ゲームのプレイ環境はどうなっているでしょうか? 残念ながら、あまり好ましくない。

 対戦格闘ゲームにおいてつまずき要素の1つといえば、必殺技のコマンド入力だと思いますが……


 波動拳コマンド【↓\→ + パンチボタン】 (※2)

 竜巻旋風脚コマンド【↓/← + キックボタン】 (※2)

 スクリューパイルドライバー コマンド【相手の近くでレバーを1回転 + パンチ】


 という具合に、プレイヤーが必殺技を使いたい場合には、正確なコントローラーさばきが要求されます。しかも、時間制限付き。


 ・レバー1方向につき(7/60秒以内) (※3)

 ・コマンド全体で(21/60秒以内) (※3)


 といった具合に0コンマ何秒という世界で、入力を成功させなければならない。

 運動学習の理論に乗っ取れば、『まずはゆっくりと動かし正確な操作を覚える』というステップを踏みたいところですが、対戦格闘ゲームではできない。


 これが、e-Sportsではなく、現実世界の一般スポーツであれば、話は別です。

 プレイヤーは人間。コーチも人間。

 いわゆる現実世界――アナログの環境であれば、双方が承知のうえで『スローな動作を、コーチがじっくり観察して評価する』ということもできますが。

 対戦格闘ゲーム――デジタルの世界ではそういう仕組みを、開発者がプログラム上で用意しておかないと、どんなにゆっくり練習したくとも不可能なわけです。


 ・仮に正確な操作をしても、制限時間オーバーでアウトと判定される

 ・しかも、不正確な入力したときと同じ結果――【必殺技が出ない】が返される

 ・結局、何が悪かったのかプレイヤー側は判断できない。


 といった始末で、まったく練習がはかどらない。


 また、対戦格闘ゲームのつまずきどころといえば他にも、【連続技を入れる】【相手の攻撃に対して、適切なガードをする】も上げられると思いますが、これらも同様でしょう。

 ゲームに習熟した人も、初心者も、同じ時間の流れでの対応が求められる。

 ゆえに、初心者であればあるほど練習が身にならず、挫折してゆく。


 仮に、ゲーム大会で優勝するような優秀な人間のコーチが現れたとしても、ゲームのプログラミングで対応されていない以上、『ゆっくりと操作する』が許されないため指導がしにくい。


 これが、(他のコンピューターアクションゲームも含めて)対戦格闘ゲームが抱えている、仕組み上の大問題なのです。

 ただし、言い換えれば、介入、改善のしどころでもあります。

 詳しく――次回で。



■今日のまとめ■

・スポーツにおいて、最初はゆっくりとした動作で正確なフォームを身につけると良い。

・でも、対戦格闘ゲームでは、そのゆっくりとした動作での練習ができない。

・↑をゲームのプログラムで意図として改善するのが、プレイヤー人口拡大の近道かもしれないよ。



(※1)

 一方、自転車については、苦労を克服して乗れるようになる人が大半です。

 これは『自転車に乗れることが前提の社会になっている』から、必要に駆られて習得している。という面もあるでしょうが、別の理由もあります。

 後日、説明します。


(※2) / \

 本来は斜め方向の矢印ですが、機種依存の文字ですので【/】【\】で代用しています。


(※3)

 あくまで一例。ゲームによって、判定方法はかわります。


【自己紹介 板皮類 学名:ニョロリマス・オパーイスキー】


ばんぴるいと読む。美少女ゲーム業界で14年。

その後、一瞬だけソーシャルゲーム業界にいた、元企画屋&シナリオライター。

毎週、新作エロゲを300円で8週間連続発売するなど、コンフォートゾーンから飛び出す、変わり種企画が持ち味だった。

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