29. クリエイターのための健康講座(初歩編)
【第29回 2021.4.1】 『クリエイターのための健康講座(初歩編)』 を配信
【目指せ! 80歳まで現役!】
表現者、そしてクリエイターたるもの生涯現役でありたいもの。
しかし漫画家やシナリオライター、グラフィッカーもろもろ、健康的な生活環境で暮らしているかと問われれば――大抵、運動不足だし、生活が不規則だし。
夏目漱石も胃弱だったのは、有名なお話。芥川龍之介や太宰治といった歴史に名を遺す大作家も、残念ながらメンタル的に追い込まれ、身持ちを崩しています。
文筆業は、半ば職業病として、不健康と隣り合わせなのでしょう。
では、なぜ、そんなに身体や、メンタルに負荷がかかるのか?
といったシンプルな疑問に、ちょっとした医学的な根拠を添えてご紹介。
理由が分かれば、対策も分かる! てなわけで、いつまでも現役クリエイターであるための一助としていただければと思います。
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■まずは、箇条書きでざっくり■
※ いわゆる根拠、科学的エビデンスを交えて語ろうとすると超長文になりがち。なので、まず端的に箇条書きでまとめてから、詳しい解説に入ろうと思います。
●世の中の作業は、『粗大』と『巧緻』の2つに分けられる。
シナリオライティング・作画・プログラミングが属する、『巧緻』作業は、集中力を養うのに向いている。が、やりすぎるとイライラ、緊張、不眠症の原因になる。
●イライラ、緊張が長期にわたって続くと、免疫力も落ちる罠。
●イライラ、緊張の対策の1つが【リズム運動】。
『心地のよい繰り返し運動』を指す。
・【リズム運動】の例1 食べる。繰り返し噛むことが該当。
消化するために腸が働くのも、リラックスに繋がる。
食べ過ぎると肥満になるのが最大の弱点。
・例2 歩く、走る、自転車をこぐのも【リズム運動】。
1回につき30分~1時間程度。ダイエットするのでないのであれば、歩くだけで十分だし、週3回程度でもOK。
特に、朝、太陽の光を浴びてのウォーキングは、狂った体内時計もリセットされて、不眠症対策にもなる。
・仕事中の気分転換であれば、【階段を1F分昇る】【部屋をちょっと大回りして、目的の席へ移動する】だけでも、リラックス効果が得られる。
・例3 包丁で食材を切る。ノコギリで木を切る。
刃を押したり引いたりするのが、【リズム運動】にあたる。
物を破壊することでもストレス解消になる。←回復訓練によく用いられる理由
●とっさのイライラと緊張の解消法その2、深呼吸。
ただし、息を吸う時間より、吐く時間を長くとること。
●↑をやると、リラックスするための『副交感神経』が優位になるよ。
どこでも、すぐできるので、オススメ。
●この『副交感神経』は、20歳前後が性能のピーク。
男性は30代、女性は40代からガクンと性能が落ちるので、要注意。
若いころと同じ感覚でように働き過ぎると、うつ病や、神経症性障害になるかもやで。
●また、パソコンやスマホの画面から放たれるブルーライトも、イライラ、緊張を加速させるよ。寝る前の30分間はあまり見ない方が良い。
●個人的には、【蒸気でアイマスク】や【ASMR】もリラックスグッズとして活用しているけど、好き好きかな。
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ということで、おおよそのお話の全体像をお伝えしたところで、本文です。
■世の作業は、全て2つに分類できる■
どうして、我らが愛するシナリオライティングが不健康に繋がるのか。
それを知るには、まずは文筆作業がどんな性質をもっているのかを捉える必要があるでしょう。
作業療法学や人間発達学で、作業や、仕事を分析する時。
まずは、『粗大』と『巧緻』の2つのうちどちらに属すのかを考えます。(※1)
ここでいう、『粗大』作業とは、身体を動かすのがメインの仕事のこと。
荷物運びや日曜大工、スポーツが、これに属します。
対して、『巧緻』作業は、手先の器用さを問うような細かな仕事のことです。
万年筆や、パソコンのキーボードで文字を打ち込む、文筆業――さらにプログラムや作画は、まさにこれの極み。
そして、この『巧緻』作業は、【集中力】を養うのに適しているのですが、反対に【集中しすぎて、緊張し、イライラしてしまう】というデメリットも孕んでいるのです。
え? 集中しすぎると緊張して、イライラする?
ちょっと、不思議な表現ですが、これは人間の心と体の動きに大きくかかわっている――『交感神経』と『副交感神経』という構造体が関わっています。
『交感神経』とは、闘争と逃走(どちらも、とうそうと憶えとくといいよ)を司る神経で、目の前に課題に取り組もうとすると、活発に働きます。
こいつが働くと闘争心が増したり。あるいは、生命の危機が迫った場合に、全身の感覚を研ぎ澄まして、すぐに逃げられるようにしたり。
いわば、やる気になり、集中力を増すための重要な仕組みなのですが。
体の変化という観点でみると、『限界まで体を動かせるように、心臓を早く動かして全身に血をいっぱい送る』『血圧を上げる』『アドレナリンの親戚をビュルビュル出す』といった具合。
絵顔文字で表せば、
(´Д`)ハァハァ
↑この変化って、『怒った時』『恐怖を感じる時』『動悸がする』と同じ現象だよね。つまり、集中と、イライラ・緊張は紙一重。
【大舞台に立つときにあがって本来の力を出せなかった】【暗い夜道で肩に触られると、ビクッと全身が反応してしまった】といった経験を誰しもが1度は経験したことがあるかと思いますが。
それらも臨戦態勢→集中力を上げようとしすぎて『交感神経』が暴走。
イライラや緊張が過剰に募り、本来のパフォーマンスが出せなかった故だといえます。
翻って、文筆作業を含む『巧緻』作業は、細かい仕事をするため集中力が不可欠。しかし、一辺倒にライティングしすぎると、『交感神経』が暴走して、やっぱりイライラマシーンと化すことになります。
じゃあ、どうすればいいの? ってな話ですが、ここで登場するのが、『交感神経』と並んでご紹介した単語、『副交感神経』です。
『副交感神経』とは、休息のための神経です。
これが活発になると、リラックスして、眠るのにも適した状態に。
『交感神経』とはまるっきし逆の作用ですね。
このように、『交感神経』と『副交感神経』は、反対の作用を持っており、
【昼間にバリバリ仕事をするときは、『交感神経』を活発に】
【休憩時や、寝る前は、『副交感神経』を活発に】
といった具合に、状況や時間に合わせて人の体は上手く使い分けています。(※2)
つまり、『交感神経』を使いすぎて暴走しかけたら、(あるいは暴走しかける前に)、『副交感神経』が活発になるようなことを意図的に行えばいいわけです。
■『副交感神経』が活発になる方法1 ウォーキング■
『副交感神経』を優位にするのに1番の方法は、【リズム運動】だといわれています。
なんか、ダンスでもしろってな意味にも取れますが。
ここでは、『心地のよい、繰り返し運動』を指します。
たとえば、歩く、走る、自転車をこぐ。
右、左、右、左、と交互に足を出すのが、『心地のよい、繰り返し運動』にあたるわけです。
理想としては、1回につき30分~1時間程度、リズム運動を。
ダイエットしようというわけではないので、歩くだけで十分ですし。
毎日ではなく、週3回程度でもイライラ生活の予防になります。
特に、朝、日の光を浴びてのウォーキングは、狂った体内時計がリセットされて、不眠症対策にもなるから、一石二鳥。
また、仕事中の気分転換であれば、【階段を1F分昇る】【部屋をちょっと大回りして、目的の席へ移動する】だけでも、リラックス効果が得られます。
なお、これは余談になりますが、この原理を利用して、カナダの一部の小学校ではじっとしているのが苦手な生徒への対策として、ペダルデスクを導入しているとか。
ペダルデスクとは、机と自転車が悪魔合体したもの。
静音仕様の車輪とペダルが、机の下に設置されています。
ストレスがたまったらソヤツを足でこぐことによって、授業中でも解消できるという寸法です。ちなみに、普通の生徒が使っても集中力&成績がアップしたとかで、なかなかに好評なようですよ。
■『副交感神経』が活発になる方法2 食べる、寝る■
3大欲求に含まれる、食べる、寝ることも、『副交感神経』を活発にします。
特に食べるのは、【食材をよく噛む】=【リズム運動】になりますし、消化のために腸が動くと、リラックス効果があることが分かっています。
欠点は、食べて寝ると、太ることでしょうか?
また、腸を働かせるという点を鑑みれば、水などを飲むこともリラックスに繋がると考えられます。(※3)
■『副交感神経』が活発になる方法3 料理、日曜大工■
【調理のために食材を包丁で切る】
【木材をノコギリで切る】
【カナヅチで釘を打つ】
これらも、同じ動作を繰り返すので、リズム運動になります。
特に前者2つは、破壊欲求も満たせるので、ストレス解消に最適。
心身の調子を崩した方のリハビリテーション訓練にも、よく用いられています。
■『副交感神経』が活発になる方法4 深呼吸する■
リズム運動とは関係ありませんが、深呼吸も有効です。
ただし、息を吸う時間より、吐く時間を長く取ってください。
逆にすると、効果も逆になって、『副交感神経』ではなく、『交感神経』が優位になって、よけいに緊張・イライラしてしまいます。
ちなみに、この方法はどこでも直ぐできるので、【大舞台を前に上がってしまったときに、緊張をほぐす手段】としても、お勧めです。
■『副交感神経』が活発になる方法5 自分なりのリラックスできる趣味を持つ■
私などは、『蒸気でアイマスク』や『ASMR』などが該当しますが、自分なりの休息グッズや、趣味をもつのも手でしょう。(※4)
ヨガであったり、アロマオイルであったり、ぬるま湯につかる半身浴であったり。(※5)
息抜き方法を確立するのも、将来現役のクリエイターに必要な要素なのかもしれませんね。
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以上、『リズム運動』を中心に、リラックスを司る『副交感神経』を活発に働かせる方法を見てきましたが。反対に、『交感神経』の働きを強める存在ものもあります。
その一例が、なんとスマホやパソコン、テレビ。
これらの画面から放たれるブルーライトは人の網膜に入ると、緊張やイライラを加速させる『交感神経』を刺激する、副作用があります。
どおりで、クリエイター業はメンタルに爆弾を抱える人が多くなるわけだ……。
もっとも今や、これらの電子機器を使わずに、制作活動を行おうなんてのはどだい無理な話。
ただ、イライラは不眠の原因にもなるので、せめて就寝時間の前の30分間だけは、これらの機器の使用は避けた方がいいでしょう。
また、『交感神経』『副交感神経』の働きは年齢にも、左右されます。
『副交感神経』の場合、20代が働きのピーク。
以後、男性は30代、女性は40代から一気に、機能が低下するといわれています。
すなわち、歳をとるほどリラックスしにくい、回復しづらい体質になるわけで。
若い頃の気持ちのままバリバリ働く、あるいは誰かをバリバリ働かせると、心身の回復が間に合わず――うつ病や、神経症性障害の原因にもなります。ご用心を。(※6)
■今日のまとめ■
・文筆業は、集中力を高める訓練になるけど、イライラや緊張の原因にもなるよ。
・イライラや緊張が続くと、免疫力が下がるよ。
・イライラや緊張の対策には、歩く、走る、自転車をこぐ、日曜大工をする、調理をするといった、『リズム運動』が最適っす。
・深呼吸とかで、息を吐くことも有効ですよ。
(※1) 『巧緻』作業
微細作業などともいいます。
(※2) 交感神経、副交感神経
2つ合わせて、自律神経といいます。
また、このように相反する2つの機能が上手く働き合って調整する仕組みを、ホメオスタシス(体内環境の恒常性)といいます。
【暑い時は汗をかく】【寒い時は筋肉を震わせて産熱する】といった体温調節機能も、ホメオスタシスの一環。ちょっと難しい言葉ですが、人間の健康を司る大前提なので、覚えておくと、色々な病気や体調不良を理解する時の助けとなります。
(※3)
ただし、お茶やコーヒーなどに含まれるカフェインは、交感神経を優位にしてしまう模様。気分転換をして、頭をしゃっきりさせる目的であれば、↑を飲むのは有効ですが、副交感神経は活発にできません。
(※4) ASMR
直訳すると、『自律感覚絶頂反応』。
耳かき、声優さんの囁きなどに代表される――音を使ってリラックスを誘うようなコンテンツ群を指す。Youtubeに公式配信、個人配布されているものが数多あり、世界中にファンがいます。
(※5)
シャワーや、熱いお風呂に入ると、『交感神経』が刺激されるので注意。
朝、すっきりと目を覚まして活発に活動したいときは、熱めのシャワーが有効です。
(※6)
個人的にはソーシャルゲームの業界はまだ、人材の主力が20~30代だからいいけど、あんな無茶な働き方をしていれば、数年後にはいろいろな問題が出るんじゃないかと、心配しています。
【自己紹介 板皮類 学名:ニョロリマス・オパーイスキー】
ばんぴるいと読む。美少女ゲーム業界で14年。
その後、一瞬だけソーシャルゲーム業界にいた、元企画屋&シナリオライター。
毎週、新作エロゲを300円で8週間連続発売するなど、コンフォートゾーンから飛び出す、変わり種企画が持ち味だった。