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27. プロでも犯すゲームシナリオの罠 2選

【第27回 2021.2.1】 『プロでも犯すゲームシナリオの罠 2選』 を配信


 【実録! プロになっても肝に銘じておきたいミスの傾向 2選!】

 【いわゆるAAAタイトルでも、やらかしていたっけなぁ…】

 私は14年ほど、美少女ゲームライターとして活動してきたわけですが。

 その間、僭越ながら、他のライターさんが執筆したシナリオを監修する機会がありました。

 担当したライターさんの数は、およそ、20~30人分ほどでしょうか?

 さらにデバッガーとして拝見したテキストを入れると、おそらく倍の50~60人前後の同業者のシナリオを開発の現場で目にしたことになるでしょう。


 これだけの人数分を目にすると、いかに私が浅学非才の身だとしても、『シナリオライターがヤラかしやすい共通のミス』といった傾向も見えてきたりします。


 そこで、小説家になろうでご覧の方に向けて、今回はその中から、2つほどチョイス。

 【プロでも失敗しやすい要注意事項】として、ご紹介します。



●1.シナリオライターには単語の選択にクセがある(プロでも)


 シナリオライターには、それぞれ大抵、使う頻度が高い単語があります。

 私の場合は、「ような」あるいは「だが」といった単語が、それに該当。

 また、文中に漢字が増えすぎて【ひらがな】を増やしたい時に、「その」といった代名詞や、接続詞を入れてしまうクセがあります。(※1)


 そもそも、物語としての文章を書く場合、同じ単語を連続で使うのは避けるのが上策だといわれています。なぜなら、「炎のような」「太陽のような」「氷のような」と、似た表現が高頻度で登場すると、それだけで文章が陳腐になるから。(※2)


 よって、「ような」→「みたい」と置換したり。「ような」という単語そのものを削って直喩→暗喩にしたりと。私の奮闘、推敲という名の試行錯誤が始まるわけです。


 いかにも素人臭い下々の低レベルな苦労話だと思いきや、実は、プロのシナリオライターでも、8~9割方は、私と同様の手癖を持っていました。

 もっとも、使いたがる単語は人によって異なりますが。


 ある方は、「程」という単語が該当。

 10KB(5000文字)のシナリオで、二十数回使っていました。

 また、美少女ゲームのシナリオだと、やはり「気持ち(いい)」「すご(い)」が要注意の高頻出ワードといえるでしょう。


 どうも、急ぎの仕事などで、スピード重視で執筆すると――【手近な記憶の引き出しから、使いやすい単語ばかりを引用する】ようになるためか、特に表現のバリエーションが少なくなり、そのライターさんの単語チョイスのクセが出やすくなるようです。


 よって、ライター志望の方(あるいは現役のプロ)が文章力を上げたい場合、自分の手癖、多く使いがちな単語を知っておき、定期的に【使いすぎていないか】チェックすることをお勧めします。


 一応、目安としては、助詞を除いて――1KB(500文字)につき、2回以上、同じ表現が登場すると、例外なく文章がクドくなります。

 あるいは、固有名詞のような本来、頻出するわけのない珍しい単語は、1KBにつき、1回以下にしないと、やっぱり文章がクドくなるでしょう。(※3)



●2.キャラ名を言わせすぎ問題


 これも、プロですらヤラかしやすいミスです。

 百聞は一見に如かず。まずは下のゲームシナリオのサンプルをご覧ください。


----


【加恋】

「あ~、お兄ちゃんてば、やっぱりまだ、寝てるぅ……」


【あつし】

「む、むにゃぁ……」


【加恋】

「お兄ちゃん、もう朝だよー? 起きるじかんだよ?」


【あつし】

「グぅ……」


【加恋】

「ねえ、起きてってばぁ? ほら、学校に遅刻しちゃうよ?

 ねえってばぁ? ほら、ウェイクアッ~プ! おにいちゃぁん~!」


【あつし】

「ZZZzzz……」


【加恋】

「むぅ~、こんなにカワイイ妹が起こしにきてあげてるのに、ガン無視とか。

 ホント、お兄ちゃんってば、朝から欲張りセットだよ……」


----


 朝、寝坊している兄を、義理の妹が起こしに来ている――といった、定番かつ夢のシチュエーションですが。実はこのテキスト上で、既に、ここで取り上げたい【プロでもやりがちなミス】を散々、ヤラかしています。


 どこだか、わかりますか?


 ・

 ・

 ・


 答え、『お兄ちゃん』と言いすぎ問題。


 妹の【加恋】のセリフには、必ず『お兄ちゃん』という単語が入っています。

 同じ単語を繰り返し使うと文章が陳腐になるとは、先に述べましたが、今回のケースはさらに深刻です。


 ゲームシナリオというと、キャラクターのセリフにボイスがつく可能性が高い媒体。そして、声優さんの放つ声のパワーはすさまじい。同じ単語が繰り返し発声されると、文字だけで繰り返され時以上に、鼻につくのです。(※4)


 さらに、厄介なのは、こういうキャラのセリフの中での固有名詞の繰り返しは、クオリティチェックでも見逃されやすいこと。

 上のサンプルでも、妹が『お兄ちゃん』と連呼していますが、連呼するほど『お兄ちゃん』のことが大好きなブラコンなのだ。と、好意的に評価されがちなのです。


 その意図自体は理解できますし、ボイスの入らない小説上の文章であるのであればOKなのですが。声優さんの演技がついた時点で、お兄ちゃんという単語が悪目立ちする【悪文】と化します。


 よって、この手のセリフの中の人名、固有名詞は、【削ってもたいして印象が変わらないのであれば、全て削るくらいの勢い】でカットするのが得策です。(※5)


 残念ながら、AAAトリプルエーと呼ばれるような原作つきの超大型タイトルでも、この手のミスを見かけます。

 また、普段、萌え系やポップな作風のシナリオを書いていないライターが、そっちの系統に寄せようとすると、同様の過ちを犯しがちな気がします。



 以上、【プロでも犯すゲームシナリオの罠 2選】のご紹介でしたが、人はなくて七癖。しみついた性分というものは、なかなか抜けないもの。


 この手のクセは克服するだけ、読者の読後感もきっと良くなるはずです。少なくとも、シナリオを監修する立場としては、ずっとそう感じていました。


 ということで、まずは、自分が書いた文章を見直しましょう!(俺もな!)


■今日のまとめ■

・読み物としての文章は、同じ表現を繰り返すと陳腐になるよ。

・ライターにはそれぞれ、繰り返して使いがちな手癖の単語があるよ。

・キャラのセリフ中で、固有名詞を繰り返すのは、避けるのが吉だよ。

・結論、いっぱい推敲セヨ。



(※1)

 あと、このような論文を書く場合は、「たとえば」「実は」という枕言葉を入れがちだと、最近、気づきました。


(※2)

 ただし、学術論文では、一度出した単語はできるだけ変えない方が望ましいです。


(※3)

 どんな単語でも、1KBにつき2回以上登場したら、リテイクをお願いする。

 珍しい単語であれば、1KBにつき1回以上登場したら、リテイクをお願いする。

 というおよその基準を立てて、私は頂いたシナリオをチェックしていました。


(※4) 鼻につく

 この場合は、耳につくの方がより正確だけど。


(※5)

 上の例だと、1つ目と3つ目。もしくは2つ目と4つ目の――『お兄ちゃんを』カット。『お兄ちゃん』4連発を、2連発にまで減らします。


【自己紹介 板皮類 学名:ニョロリマス・オパーイスキー】


ばんぴるいと読む。美少女ゲーム業界で14年。

その後、一瞬だけソーシャルゲーム業界にいた、元企画屋&シナリオライター。

毎週、新作エロゲを300円で8週間連続発売するなど、コンフォートゾーンから飛び出す、変わり種企画が持ち味だった。

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