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魔女狩り ⑦

「だ、だってエリィは人質にされてるから……! 〈使い魔〉にされるってそういうことでしょ。大人数を動員して、グリルルスを追い詰めたら、エリィに危険が及ぶかも!」


 咄嗟にしては、上手く言い繕えたと思うコーリーだった。

 しかし、アルネットはすぐに反論する。


「……わたしが思うに、現状でエリィはすでに危険な状況よ。占い師グリルルスは、すでに追い詰められているから、エリィの意識を乗っ取って攫ったんでしょう?」

「う、それは……そうかも、だけど」


 コーリーは言葉に詰まった。確かにその通りとしか言えない。

 頭の回転では着いて行けてない。思い付きで出し抜くのは無理。

 その点……ちらりとは聞いていたけども、レノラはよくもこの王女を出し抜くことが出来たなぁ、と感心する。

 友人に感心している場合ではなかったが、アトラファに十分な思考の時間を与えることには成功したようだ。

 アトラファが言う。


「……これ以上、グリルルスを追い詰めるのはだめ」

「だめじゃない。一気に追い詰めて、七竈の魔物を取り上げて、捕まえるのよ!」


 アルネットはそう強弁する。

 それは正しい、王都の治安を第一に考えるなら、アルネットがやりたいとする手段は正しい。けど、それではエリィは助からない――とアトラファは言う。


 アルネットが「……え」と慄く。

 アトラファは続けた。


「エリィはただの人質じゃない。〈使い魔〉なの……追い詰められたグリルルスは、きっとエリィを戦力として扱う……エリィの火精霊法の威力――」

「それは……でもわたしもあなたも、コーリーもいるし」

「戦闘に発展した時、まだエリィが操られてたら、戦うしかないってことなの――七竈の能力によって、潜在能力を解放したエリィと」

「……そんな」


 相対したが、あれは手に負えないと思う……とアトラファは言う。

 無詠唱で〈しまふくろう亭〉の壁を抵抗なく焼き切る炎の剣。

 その後、難なく自分で開けた壁穴を潜って逃走――。

〈使い魔エリィ〉は強敵で、敵対したら、王都守備隊にも犠牲は必ず出る。


「そうかなぁ……」


 コーリーは、アトラファの方針に基本は賛成だったが、戦力分析が悲観的すぎやしないかと思っていた。

 エリィとティトが、王都の破壊を企てる犯罪者として捕まってしまうのを避けたい……だからフォコンド隊も王都守備隊を頼りたくない。ここは分かる――ティトについては捕まっても仕方ない気がするけど、操られているエリィは絶対に助けたい。


〈使い魔〉を操る本体であるティトに戦闘力は無いのだから、二人掛かりでエリィを抑えている間に、もう一人がティトを取り押さえて七竈の魔物を倒せば良い。



     ◆◇◆



「そんなに〈使い魔エリィ〉はやばいの?」

「初見でやばいと思った。戦闘経験の無いティ――グリルルスが乗り移ってた状態だったから避けれたけど、もし自動操縦で『とにかくぶっ殺せ』とか命令されてたら、わたしはもう死んでる」


「一目で強さが分かるものなの? あなた前に、わたしに『熊や猪にも勝てない』っていったわよね……このわたしに向かって」


 アルネットが胡乱げな目つきで問う。

 その問いに、アトラファは珍しく言葉を選んでから答える。


「……精霊法の強さには、支配域と制御力が関わってくる。需要な二要素」

「知ってるわよ、当然」

「……どっちがより重要だと思う?」

「支配域!」


 アルネットが鼻息荒く即答する。

 確かに……支配域という、いわゆる『一定範囲内の精霊を支配下に置ける、その広さの限界』という才能は生まれ持ってのもので、鍛えようがない。


 アルネットが若年にして最高と謳われているのは、この支配域が飛び抜けて広いから。

 本人が自信の拠り所としているのもそこだろう。

 しかし、アトラファは続ける。


「アルネットはどんなに強くても、熊や魔物に襲い掛かられたら勝てないの。でも……制御力を鍛えた法術士なら、状況次第で勝てるかも知れない」

「……支配域より、制御力の方が重要っていうこと?」


「そう。制御力を鍛えた法術士は――大体みんな至近距離で使える術を編み出す。アルネットみたいな広大な支配域を持つ術者には近付くしかないし。そうでなくても距離を潰されたら何も出来なくなるから」

「言われてみれば……レノラやパンテロは、熟達者だったのね」


 その上で顧みるに――〈使い魔エリィ〉の炎の剣。

 近接。殺傷力。無詠唱。

 十秒程度は安定して維持していた。しかも自動操縦ではない。

 再び相対した時の脅威度は、上向きに見積もっておくべき。

 アトラファはそう結び、コーリーの術についても言及した。


「風の糸で索敵する術は、ものすごく貴重だと思うから大事に育てると良い」

「……なんで?」


「精霊法って、何かの方法で物を壊すばっかりで直す術なんて存在しないけど、コーリーの『探す術』っていうのは、発明とまでは言わないけど珍しいと思うから」

「ふわぁ」


 アトラファに褒められるのは、それこそ貴重な機会だったので、コーリーは素直に喜んだ。術の完成は程遠いのだったが。


 完成系は二通り考えている。

 索敵としては、自身の周囲、十間くらいを風の糸で探り、相手の位置、大きさや形を探れるようにしたい。しかし距離的にはこっちの始動鍵の詠唱が届いてしまうから、〈騎士詠法〉とセットで運用しないといけない術になるだろう。苦難だ。


 もう一つ攻撃としては、自身の周囲にあらかじめ風の糸を張り巡らせておき、相手が射程距離に入ったら。糸の回転を急加速させてぶっ飛ばすというもの。

 これは近々実現できそう。ぶっ飛ばす相手がいればだけど。

 アトラファの「熟達者は近接での術に行き着く」という説が確かなら、コーリーもその域に足を踏み入れつつあるのでは?


 この時のコーリーは、やや楽観していた。


 三人とも法術士だし、何より火力最強のアルネットがいる。

 体捌きに優れたアトラファがエリィを抑え、アルネットが後方で援護。

 その間にコーリーが、七竈の魔物をティトから取り上げて倒す。

 そこまで不可能な作戦ではないと思える。

 ティトが潜伏している場所を探すのは、面倒だが……。



     ◆◇◆



「……それしか無い。〈使い魔〉化しているエリィを怪我させず、こっちも怪我せずに時間稼ぎ出来るかって言ったら、まず無理だけど」

「あっ……」


 そうだ。こっちはエリィに怪我をさせるつもりは無いけど、操られているエリィはもしかすると、生命を奪うのも厭わないくらい、苛烈に攻撃してくる可能性もあるんだ。

 いや……ティトはアトラファに執着しているっぽいから……もしアトラファが死んだり怪我したら、悲しいのではないのか。手心を加えてくれるのではないか。

 操っているエリィにだって「あの子は傷付けちゃダメ」と命令するはずだ。


 自分がティトの立場だったらそうする。


 大切な友達で、でも何かの理由で別れざるを得なくなって、再会したその子は昔のことなんか割とどうでも良くなってて――でも自分は忘れられなくて。


 コーリーとティトが逆の立場だったら――。

 ティトが初対面は好印象だったのに、いつの間にかコーリーを嫌っていたのは分かるし……迷惑を掛けてでもアトラファの目を惹きたいっていう感情も、理解は出来なくはない。


 自分の共感力を信じる。ティトはアトラファを傷付けない。



     ◆◇◆



「……わかった。魔物と〈使い魔〉の件を公にするのは……ギリギリまで待つ」


 小さな拳を固く固く握りしめ、アルネットは言う。

 表情に、年齢に似つかわしくない苦悩が滲み出ているのが見て取れた。


 誰よりも守りたいエリィのこと、次期女王としての責任――立場を重視するなら、エリィを切り捨ててでも、王都の安寧を考えなければいけない……。

 アルネットが揺れ動いているのは分かっていたが、コーリーは何も言葉を掛けれずにいた。だってコーリーはこれまでの人生で、次期女王の責任について考えたことなど無かったから。


 アルネットが決断する。


「わたしたちだけで動きましょう」

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