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魔女狩り ④

 わたしは、個別に尋問をする方を選択した。


 コーリーかエリィ。

 どちらかが〈使い魔〉である、と当たりを付ける。


 個別にとはいっても、二人と話した後で「どっちだろう」と検討する時間はない。そうしている内に、当たりの方が逃げて、ティトと合流してしまう。

 一回目で当たりを引いて、捕まえなければならない。面談をしたら、その場で看破して〈使い魔〉であるかどうかを見極めなければ……。


 ……どっちが〈使い魔〉?

 二人とも怪しいのだから困る。


 コーリーは『占い師グリルルス』が冒険者ギルドで話題になる前後、四人の中では最もティトとの接触が多かった。


 その間に、七竈の黒い果実を食べさせられた可能性がある。

 ティトは再会した時、わたしがまだ王都に住んでいることを、事前に知っていたような言動をしていた。それも気になる。


 エリィはまず、素性が良く分からない。〈地球〉が故郷と言っている。

 歳はアルネットと同じくらいだと窺えるが、年齢と不相応に注意力が散漫だったり、迂闊な行動を取りがちのように見える。

 何かの影響で、精神分裂でもしているんだろうか。


 あとは……〈火吹き蜥蜴亭〉に押し入ろうとした時、ティトは事前に察知してチェックアウトしていた。だから、わたしは「この四人の中に〈使い魔〉がいる」と思ったのだ。



     ◆◇◆



 宿の外で監視してる奴が教えてたなら、押し込みと同時に慌てて逃げたに違いない。けど、ティトは余裕を持って事前にチェックアウトをしていた。

 余裕を持てるくらい前から、わたし達の襲撃計画を知っていた。


 ……少し考えて、わたしはエリィと先に話をすることに決めた。


 コーリーと比べて、特段に疑わしい部分は無い。二人とも同じくらい〈使い魔〉ではないか、と思える部分はあるのだが……。


 コーリーを先に選んで「お前、〈使い魔〉だろう」と詰問し、外れだった場合、コーリーとの人間関係が破綻するのを恐れたのだった。

 無実なのに疑われたコーリーは、傷付いて、わたしと距離を取るかも知れない。


 自分でも、不器用だって分かっている。

 それでも――コーリーに距離を取られるのは嫌だった。



     ◆◇◆



 先にエリィを問い詰める――そう決めた。

 けど、どんな状況ですればいいのだろう。

 できれば、エリィを身動き出来ない状態に拘束しておきたい。


 ティトの――黒い七竈の能力はおそらく、果実を食べた者の意識を支配し、感覚を共有すること……〈使い魔〉とすること。

 けど、それだけでは足りない。いつでもどこでも「今何が起きているか分かる」ということは、ある程度〈使い魔〉の行動を操れるのだ。


 植物にどのくらいの知性があるのかは知らないが、黒い七竈の魔物に人間並みの知性があったとは思えない。元は「果実を食べた者は、根元に集まって、肥料になれ」くらいの能力であったはず。


 ついでに「食べた者は、本体である樹を護れ」くらいはあったかも。

 どうであれ大した能力ではなかったし、強敵ではなかった……はず。

 そうでなければ、昔のわたしもティトも無事で済んではいない。

 薬草園を管理していたドミナも、手に負えないような魔物ならば、早々に伐ってしまっていたはず。


 ――直接的な殺傷力を持たない、注意していれば避けられる能力。

 つまり、その果実を食べなければ良い。


 どういうことか、今のティトは逆に魔物を支配して、能力を思うままに使っているように見受けられる。

 初め、ティトが魔物の能力に影響を受けていると思っていたが――行動に知性が感じられる。逆に、ティトが魔物を支配して能力を活用している。


 魔物を手懐けられるなんて、信じられない。

 植物で、自力で移動できないから安全? 

 それは、六年前にドミナが薬草園で言っていた。


 でも、ドミナは知らなかった……研究していると言っていたのに。

 あの当時ドミナは、七竈の魔物の能力を把握していなかった。



 六年前、ティトとは酷い別れ方をした。



 あの後、きっとティトは薬草園で魔樹の若木を持ち去った。能力を突き止め、どうやってか知らないが、己が意のままとすることを可能とした。


 ……魔物って飼い慣らせるのだろうか。無理だと思う。


 わたしは、今回の事件を迅速に解決するにあたり――ティトがどうやって魔物を手懐けたとかは、あまり考える必要ないな、と思い至った。

 先にエリィと話す。コーリーじゃないという願望も含め、彼女(エリィ)が〈使い魔〉だ。

 そう決めた。


 そしたらそれを手掛かりに、フォコンドより先に、ティトを捕らえる。

 それから――どうしよう? ……ティトを。



     ◆◇◆



 とんとん、と階段を下りて行くと、晩の混み合う時間帯に備えて、アルネットがせっせとテーブルを拭き清めている後ろ姿が見えた。


 階段の半ばの手摺りに手を置いて、その様子を見守る。

 アルネットは、すごく頑張ってるな、と思えた。


 実は、肩書は次期女王内定者――次の最高権力者に決まっているのだけど〈しまふくろう亭〉で、あからさまに高慢な態度を取ってないし、ミオリの指示にも素直に従ってる。


 素性を知っているわたしやコーリーには、少し高圧的に出るようだけど。

 もしかしてアルネットにとっては、そういうのが楽しいのかな。

 次期女王としての責務にとらわれない、友達や仲間との生活が。


 もしも……と、わたしは思う。

 もし、わたしが「普通」だったのなら、アルネットはもっと自由にのびのびと生きることが出来たのだろうか。


 わたしが――トゥールキルデとして次期女王を継承していたら。

 考えても仕方のないことだけど。



     ◆◇◆



 マシェルは料理の仕込み、ミオリはその手伝い。

 コーリーはたぶん自室で勉強をしている……でなければ、外出してる。

 エリィはどこ?


 ――気が付くと雨が降っている。静かに屋根を叩く雨音が聞こえる。


 とりあえず自分の部屋の雨戸を閉めておこうと思い、自室に向かう。

 そこにエリィは居た。

 寝台にすとんと腰掛けて、脚をぶらぶらさせて。


 アルネットが一生懸命働いているのに、こんな所にいて良いのか……コーリーなら、そんな風に憤るかも。いや心配するのかな。

 どっちにしろ確信した。二択は正しい方を選択できた。


 エリィが〈使い魔〉だ。この目の前にいるエリィが。

 正常なエリィだったら、今頃アルネットと一緒に働いてる。


 わざわざ、わたしの部屋で待っている……ということは、


「そこに居るの、ティトでしょ?」

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