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ジャンケンで勝負してみる

 アルネットとエリィに協力を仰ぐべく、二人に計画を話した。


 占い師の泊まっている部屋に侵入して、インチキの道具を押収する。

 算段は、コーリーかアトラファのどちらかが押し入る隙を作るため、もう一方が占い師の気を逸らして外に連れ出す。


 二人にはその際、部屋に押し入るアトラファを見張っている者がいないか見ていて欲しい。もし見つけても、特徴だけ覚えていてもらえれば、その場で捕まえなくても良い。


「……その『グリルルス』って奴を、直接ぶっ飛ばさなくて良いの?」

「アルネットがそうすると、下手すると南市街の一画が更地になるから」


 剣呑なアルネットにそう返すと、その隣で話を聞いていたエリィが、ちょっと変なことを言う。

 ――曰く、

「そういうこと、するんだねぇ」と。


 うっ、とコーリーは内心で呻いた。確かに計画の内容は話した通りだけど、実は強行にあたって、司法部や冒険者ギルドの許可を得ていない事を話していない。

 絶対に話してはならない、話したらアルネットは協力してくれない。そしたらエリィも協力してくれない。


 でも説得してる時間も無い。

 今すぐ対処しなければいけないことが、ティトを中心に起きている、と思う――なんてことをアトラファが言うものだから。


 ……でも何だろう、エリィの見透かしたような物言いは。

 普段あまり物事を深く考えていなそうなのに、人格が切り替わるような時がある。



     ◆◇◆



 どっちが囮役でどっちが侵入する役なのかは、揉めた結果、エリィ直伝のじゃんけんによって決めた。


 本来なら、侵入する役の方がリスクが高いに決まっていて、冒険者としての実力が高いアトラファがその役を担うのは当然の流れなのだが――コーリーは侵入役を譲りたくなかった。というより、ティトと話す役を自分が担いたくはなかった。


 それは何故かというと――ティトがコーリーのことを嫌ってるっぽいから。

 出会った時はそうでもなかったけど、アトラファと再会して以降、何となく嫌われたのを感じる。


 生きてれば人に嫌われることはあるだろうし、誰からも好かれようとはしていない。ただ、アルネット王女のような権力者には好かれずとも、せめて目の届かぬ所で息を殺して生きていたい……という生存戦略は、正直ある。


 自分を嫌ってそうな人と積極的に関わりに行きたくない。アトラファと出会った頃も、嫌われていると思い込んで、顔を合わせるのを避けていた時期があった。

  アトラファのような生き様は、自分には無理だろう。


 ――意見が割れた時にはじゃんけん、というエリィの言葉を聞き入れ、試合する運びとなった。



     ◆◇◆



 ――じゃんけんで出せる手は、(グー)(チョキ)(パー)


 ……なんか、紙だけ他の二つと比べて優しくない?

 何故、グーとチョキは対戦相手を破壊しようとしているのに、パーだけ相手を優しく包もうとしているのだろうか。


 チョキは何故、そんなパーを非情に切り刻めるのだろうか。

 グーは何故、やろうと思えば出来るのに、パーを突き破ろうとしないのだろう?

 グーはパーに包まれた時、その優しさに気付いたから、敗北を認めたのだろうか。

 ならば……パーの優勝で良いのではないか?

 じゃんけんのルールを教えられた時、コーリーはそう言った。


「てつがくしゃが、ここにも……なら、パーだけ出してれば勝てるんじゃない?」

「?」


 エリィが慈愛と諦観が入り混じった微笑みを浮かべる。

 その意味が分からなかった。


 ――待て。グー、チョキ、パーに人格は無い。

 あいつらは、悲しいけど記号に過ぎないから。ゲームとして考えるんだ。


 考えろ。このゲームをした場合……あいこを無効として決着が付くまで勝負を続けた場合、私が勝つ確率は……ええっと、いや、参加人数を不定として捉えるから計算がややこしくなるんだ。

 二分の一。いくらあいこが続いたとしても、二分の一。


 でも、私って運が悪い気がするから、一回勝負だと負けそう。


「三回……いや、五回勝負で!」

「いいけど」


 アトラファは勝負を受けた。

 コーリーは、五回勝負を申し入れた結果、三連敗でストレート負けした。



     ◆◇◆



 コーリーは、勝敗に疑義を申し立てた。


「……後出しじゃない? 三連勝なんてありえない!」

「『後出し』っていう高い技能を要する反則を、じゃんけん初心者のコーリーが知ってたのに驚き」


 アトラファが無自覚に煽るようなことを言うものだから、コーリーは頭に血が上ってしまう。


「初心者だとぅ!? ……アトラファだって、ちょっと前にエリィと遊んでたのが初めてでしょ! あの時は負けてたじゃん!」

「あれは『あっち向いてホイ』っていう、より高次元の遊戯だから」


「でも後出ししたって認めた! 今、認めたよね……審判っ!」

「認めてない。反則を知ってることに驚いたという感想を述べただけ……審判」


 二人の視線を向けられたアルネットは、うんざりした面もちをこちらに返してきた。なぜわたしが、下らない遊びの審判を……と思っているのを隠そうともしてない顔だ。

 しかし、はっきりと告げる。


「不正は認められない。よってアトラファの勝利」

「なんでっ!? あいこも無しで三連勝は確率的に……っ!」


 納得がいかないコーリーは、みっともないことを自覚しながら食い下がった。

 アルネットは哀れな者を見る眼差しで、残酷な事実を告げる。


「傍から見てると分かるけど。コーリー、あなた『じゃんけんぽん』の掛け声で拳を振りかぶってる段階で、もう手の形を作っちゃってるのよ。アトラファはその形を見て、勝てる手を出せば良いだけだから……」

「――え?」

「コーリーは、じゃんけんに一生勝てないタイプの人だねぇ」


 エリィの追い打ちが飛んできて、コーリーはへこんだ。

 いや、でも……こんな遊びに勝てなくたって生きていけるし……。


 コーリーが囮役。

 アトラファが侵入して盗む――もとい、証拠となる物品を探す役。

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