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黒き七竈の魔女 ⑫

「――ちょっと情報を整理しても良い?」


 フォコンド隊が捜査に参入しそうで、今後自分たちはどう動くべきか。

 そのことを相談すると、アトラファは何か考え始めた。


 ギルド会館を出て、南広場の屋台で揚げ芋とレモネードを買う。揚げ芋は一人前を二人で分けることにした。

 辻馬車ターミナルの近くの縁石に並んで腰掛け、まずは喉を潤した。


 ……思えば、ティトとはこの場所で出会ったのだ。

 彼女はサンドイッチを貰ったお礼に占いをしてくれると言い、アルネットとエリィの容姿や居場所を言い当てたのだった。

 その時はアルネットがすぐ近く、死角に居たものだから「ティトは自分にだけ見えてるものを口にしただけだ、インチキだ」とコーリーは思った。

 その次に会ったのは、冒険者ギルドで依頼を受けてから。

〈火吹き蜥蜴亭〉で――、


「まって。この広場で最初に占いをした時、周囲に協力者のような人はいた?」

「うーん……人は沢山いたけど、気が付かなかったなぁ。あの時のティトは、王都に伝手も知り合いも居なくて、困ってるみたいだった」


 答えると、アトラファは眉間にしわを寄せて悩み始める。

 コーリーにも引っかかる所があった。そもそも二人は旧知なのだから、ティトは王都でまずアトラファと連絡を取れば良かったのに。

 そうしなかったのは、おそらくだが、長らく音信不通状態で、二人とも互いの居場所を知らなかったからだろう。

〈火吹き蜥蜴亭〉で会った時、アトラファはティトを忘れ去っていたが、ティトの方は何故かアトラファの存在を感知していた。


 ――少し整理する。


 王都にやって来たばかりの時点では、ティトはアトラファが王都で暮らしていることを知らなかった。

〈火吹き蜥蜴亭〉で胡散臭い占い業を営み始めた頃には、すでに知っていた。

 ティトの占いは、過去や未来のことは探れないが「今起きている事」を知ることが出来るというもの。


 だから、占いを実現させるための協力者がいて、何らかの方法でティトに情報を伝えている……詐欺行為なのでは、と疑われているのだけど。


「……アトラファは昔からの知り合いなんでしょ。ティトにはそういう特技とか、無かったの?」

「生命力が強い子だとは思ってたけど、特技とかは……ん、わたしを見つけるのが得意だった」

「見つける? アトラファを?」

「わたしが隠れながら逃げても、見つけてはしつこく追いかけてくる」


 あー……、なんか並々ならぬ執着を秘めてそうな感じだったもん。

 でも、それって才能とか技能と呼べるものなのでは。

 隠されている物を見つける、というのは占いに通じる所がある。

 しかし、アトラファはそれを否定する。


「今のティトには出来ないはずなの。追跡係の……わたしを見つける役の子がいなくなってしまったから、ティトはわたしを見つけられない。追い付けない、はず」


「アトラファが知ってた頃のティトは、そんな能力はなかったって言うこと?」

「そう。だから協力者がいると思った。でも……」


 アトラファは再び、深く考え込む。

 コーリーと出会った時、ティトはその能力を使っていた。だから、アルネットたちやアトラファの存在を知覚することが出来た。

〈火吹き蜥蜴亭〉で会った時、コーリーたちの来訪を予期して待ち受けていたとも思える。アトラファが自分のことを忘れているとは念頭に無かったようだけど。

 ティトは「今起きている事」が分かると言ってた。何でも分かるわけじゃない。今、見えることだけ……。それに、


「そうだ、『つかいま』って言ってたんだよ。王都と……どこだっけ。アイオリア州には『つかいま』を置いてるから、そこで何が起きてるか分かるって」

「『つかいま』? それなに?」

「や、知らないけど。でも確かにそう言ってた」

「話の流れからすると、協力者のことか……」



     ◆◇◆



 アトラファは、眉に深くしわを刻んだまま、レモネードを啜る。

 考え事をしてるにしても、そんなに美味しくなさそうな顔で飲まなくても……。

 飲み干した素焼きのコップを、自身の傍らに置くと、アトラファは言った。


「最初に占いをした時……ティトは何か持ってた?」

「別に何も……あぁ、いや、何か持ってた気がする。お金なくてサンドイッチも買えないふうだったけど、手荷物は持ってた。細長いトランクみたいなやつ。『長持ち』って言うのかな」

「それ。周囲に協力者らしき影が無いなら、持ってる何かに秘密がある」

「えぇー……?」


 アトラファはそう言うのだったが、コーリーは半信半疑だった。

 そんな、人の夢を具現化した道具ではあるまいし、持ってるだけで「今起きてる事」が分かるって、そんな便利な物……。


 それにティトは――そんなに悪い子じゃないと思うんだけどなぁ。

 お腹を空かせたところを助けた時も、素直に感謝してくれたし、アトラファが自分のこと忘れてたことが明らかになった時は、動揺していた。

 アトラファは続ける。


「その『何か』を盗んじゃえば良い。フォコンドたちがうろちょろする前に」

「うえぇ!?」


 それって、こっちが犯罪者になっちゃうし、そうなったら証拠としても無効となってしまうのでは……。

 コーリーとしては避けたいのだが。


「前にも言ったけど……ティトは〈土の民〉なの。精霊法を使えない。何らかの方法で占いを的中させている……でも、あの子にはそんな能力は無かったから」

「真相を突き止めたいんだね」

「……うん」


 過去、二人の間に何があったのかは知らない。

 それでもコーリーは、アトラファに最後まで付き合いたいと思わずにはいられなかった。

 ティトが保有している、「今起きている事」を知れる何か。

 これの正体を突き止めるのが重要なのだけど。

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